突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.16 コニシキ隊長
結局、アンシからはビアン・フェルマについて聞き出すことはできなかった。
最初はそれとなく聞いてみた。しかしアンシは言葉巧みに話を逸らし、または話をすり替えてしまい、ビアン・フェルマについての話は全く出てこない。
次第に業を煮やしたファウが、
「どうして話をしてくれないんだよ⁉アンタはビアン・フェルマについて何か知っているんだろう⁉」
怒鳴り声をあげて問いただしたものだったが、
「知りませんよ。そんなものは……」
まるで動じずに答えるばかりであった。
そこでこれ以上の問答は無意味、かつこのままだとファウが強硬手段に出ることを心配したテルルが、
「ごめんなさい。ちょっと頭を冷やしてきま~す」
ファウを引っ張って外へ出てきたという訳であった。
「やっぱなんか隠してんな。何にも知らないってことはないだろうにさぁ」
「ファウも言いすぎ。怒ったってアンシさんビクともしてなかったじゃん」
「アウランを元に戻す方法についてウェアファルフテプなら何か知ってるかも?とか言ってたのもアンシさんだろ?」
確かにプリンセス・アウランを元に戻す方法について、アンシは
「ウェアファルフテプが手がかりを持っているかもしれない」
と話していた。しかし実際のところはそういった魔法や魔術の類には全く興味を持たない集団であった。
一方でビアン・フェルマである。
アルバの話ではウェアファルフテプとは正反対に『知識』や『技術』を重視した組織であるという。
ウェアファルフテプとビアン・フェルマ……
プリンセス・アウランを元に戻す手がかりを持っていると考えるならば、まず先に出てくるのはビアン・フェルマだろう。
「なのになんで――」
アンシはウェアファルフテプを挙げたのだろうか。
(やっぱり何か隠しているな……)
そう考えざるを得ないのであった。ともかく、
「アンシさんが教えてくれないんだったら、私達で調べるしかないんじゃないかな。そうだ。ウェアファルフテプはビアン・フェルマについて知ってるのか?」
「まぁ、それなりに、な」
ビアン・フェルマはウェアファルフテプと敵対関係にある。
もっとも神魔界を征服したいウェアファルフテプが一方的にビアン・フェルマを敵視しているだけで、ビアン・フェルマの方は積極的に敵対行動を起こしてはいないのだ。
だからウェアファルフテプでも詳しいことは全く把握できていない。
「どうせやっつけるなら、アイツらのことなんて知ってても知らなくても同じだろ?」
どうもそういうことらしい。
「うーん、アルバはしょうがないにしても、ウェアファルフテプで誰か知ってそうな人とかいないの?」
「8,9割は俺みたいなヤツだよ。残りの1割ほどがシキレイやコニー……あぁそうだ。アイツなら――」
「アイツ?」
ウェアファルフテプの隊長『コニシキ』である。
コニシキ隊長は上級戦隊バルトドゥールの隊長である。
普段から全身に鎧を纏っており、その中身を見た者は誰もいない。
「私の姿が見たければこの鎧を砕いてみなさい」
そういって挑戦者を募るものの、誰一人として彼の鎧に傷一つ付けることはできなかった。
唯一彼の中身を知るのはウェアファルフテプの首領であるシキレイのみだという。
「そんなヤツじゃアルバみたいに脳筋バカなんじゃないのか?」
「アイツは上級戦隊でも……いや、ウェアファルフテプでも珍しく好戦的じゃなくてな。それでいて誰よりも強いからバルトドゥールの隊長になったんだ」
「へぇ~」
こうしたコニシキ隊長の指南によりバルトドゥールは暴れん坊の集団から頭脳や戦術、それに礼儀を重視した戦隊に変わりつつあるのだそうだ。
そうした方針は図らずともシキレイが望んでいる方向性であった。だから彼はシキレイに重宝され、多くの情報やウェアファルフテプの人員や組織の管理を任されているのだった。
「ホントにそんなのがいるのか?アルバとか今まで見てきた奴等を見ると、到底そんな風だとは思えないんだけど――」
「まぁその見方は間違っちゃいないさ。コニシキやシキレイなんてのは俺達の中でもごくゴク僅かだ。殆どはお前の考えてる通りだよ――そういう訳でアイツならビアン・フェルマについて知ってるんじゃないかと思うんだよ」
「そいつにはすぐ会えるのか?えーと、お前のトコは……」
「モート・ウーサビットだよ。もっともウェアファルフテプでも正しく言えるのは3割程度だな。大体のヤツは自分の家くらいにしか思ってない」
「あー、そうなのか」
「まっアイツは普段からバルトドゥールの戦闘訓練をやってるから行けば会えるよ」
「じゃあ今から行こうぜ。シキレイはいつでも来ていいっていったんだし、今からでもいいっしょ!」
「そうだな。オレもビアン・フェルマについてちょっと興味が出てきた。この機会に聞いてみるのもいいかもな」
そうと決まればさっそく動き出した。
アルバの案内でウェアファルフテプの本拠地『モート・ウーサビット』へ向かったのだった