突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.15 怪人
「アレはなんだろう?」
それはファウ達が人間の村に戻ってきたときのことだった。
「…………‼‼」
何やら人間の村に人だかりができているのだった。
「様子が変だな。テルル、何か分かるか?」
「ぜーんぜん。でもあの人間の村のヒトじゃない方は――」
ただ雰囲気が尋常ではなかった。
人だかりの半分は見慣れた村の人間だったが、もう半分は――
(なんだアイツら⁉)
ファウは思わず声に出しそうになったのを堪えて息を飲んだ。
その姿は全身を黒いローブで覆い、まるで頭蓋骨のような仮面を顔につけている。
姿形はヒト型をしているものの少なくとも人間の村に居た時点で、あのような怪人は見たことがない。
「アイツらは……」
アルバが言った。アルバはあの怪人達のことを知っているようだった。
「知ってるの?」
「今は出ない方がいい。アイツらの目的はシキレイと同じだろう」
遠目に様子を窺っていると、村の中からアンシが現れた。
彼は怪人達に2,3度言葉を交わすと、黒いローブの一団は何処かへと去っていったのだった。
「行っちまったな。よし戻ろうか」
黒いローブの怪人達。あの不気味な姿を見るとまだ近くに居て、
(こちらの動きを窺っているのではないか?)
そんな思いに駆られながらファウは村へと入っていった。
アレは一体なんだったのだろう?
見たところ言い争っている訳ではなく、更に言えば危害を加えようとしている様子もなかった。
人間の村の関係者?もしくはテルルとオガー族のような人間の村の協力者なのかもしれない。
――いや、それにしては雰囲気が違いすぎる。人間の村にあのような格好をしたものが出入りしているのは、滞在期間が短いとはいえ1度として見たことがない。
「なぁアイツら一体なんなんだよ?アルバは知ってそうだったけどさ」
「あいつらはビアン・フェルマだ」
「ビアン・フェルマ?」
アルバが話すにはビアン・フェルマは神魔界に存在する組織だそうだ。
主に『力』や『実力』を重視するウェアファルフテプと異なり、ビアン・フェルマは『知』や『技術』を重視した組織である。
ウェアファルフテプは神魔界を実力で支配を目的としていることは既に述べた。
その目的を達するためには必然的にビアン・フェルマの存在を無視することはできないのであった。
「オレ達は神魔界を支配しようとして奴等を目の敵にしているんだが……奴等の方は別に神魔界の支配を目指している訳じゃなさそうなんだよ」
ウェアファルフテプもビアン・フェルマも規模としては同程度だとウェアファルフテプは推察していた。
神魔界征服を目的としてウェアファルフテプがビアン・フェルマを襲撃することは度々あるものの、不思議とその逆については、
「あったことがない……」
のだという。
「人間の勢力ってことはアンシさん達の仲間なのか?」
「さァ?オレは人間達のことはぜんっぜん知らねぇからそれは分からないよ」
「それもそうか」
それならば直接アンシに聞いた方が早いだろう。
ファウは村へ入るとさっそくアンシの家へと向かった。
「良かった。とても心配していましたよ」
「ありがとうございます。それよりもさ――」
「大分汚れていますね。替えの服は用意しておきますから、まずは身体を洗ってくるとよいでしょう」
ビアン・フェルマの話を切り出す間もなく、アンシは奥へと言ってしまった。
これは偶然なのだろうか?
外では謎の怪人集団が詰めかけてきていたのだ。それについて話がないというのはどういうことだろうか。
いや、その集団をファウ達が見ていないと思っているだけのことかもしれない。
しかしこちらからは話を切り出しかけていたのだ。アンシの態度はどちらかというと無視に近いものだった。
ともかく仕方なくファウ達は温泉へと向かった。
人間の村の温泉は神通力を使って水脈を探知し、神通力を使って掘削を行い作ったのだという。
「おいテルル、お前はビアン・フェルマについて何か知ってる?」
「うーん、こっちに来たときに何度か小競り合いを起こしてるね。私達はアイツらのことを何も知らなかったから、この地域の原住民くらいにしか思ってなかったけど――」
「アルバは……ウェアファルフテプはビアン・フェルマと敵対関係にあるって言ってたよな。オガー族はどうだったんだ?やっぱり敵対してたのか?」
「ベツにぃ。アンシさんのところで世話になり始めたら、自然と見なくなったってトコ」
「アイツらも一応人間って話だし、アンシさんと協力関係を築いたら敵として見なされなくなった、ってとこなのかな」
「んーそうかなぁ。あたし達、あいうら結構ボコボコにやっつけちゃってたから、報復とか注意してたんだけどねぇ」
不思議なことにアンシの人間の村に住み着いて以降、ビアン・フェルマの姿も襲撃もなくなったのだという。
このことについてテルルは別段気にしてはいなかったが、ある日話のついでに、
「黒いローブで骸骨のお面をつけた奴等がいたんだけど、アレって何なのかしら?」
アンシに尋ねてみたところ、
「さぁ?この世界も広いですからまだまだ私達の知らない種族がいるのかもしれませんね……」
と小さく笑って言うのみであった。
「アンシさんもなぁ……」
どうもアンシはビアン・フェルマに関する話題は徹底的に無視するようだった。
アルバが話すにはビアン・フェルマは人間の勢力でしかもウェアファルフテプと双璧を成す勢力であるという。
同族、かつそんな大規模な勢力について、
「知らない」
なんてことがあるのだろうか……?
「アンシさんも何かビアン・フェルマに関して話したくない理由があるんじゃないの?」
「話したくない理由ってなんだよ」
「んー、それはさー、たとえば――」
話したくない理由。それはアンシがビアン・フェルマの存在を知りながら、知らないフリをしているということ――
つまり何らかの関係性、接点を持っているのではないかということだ。
「関係性か……」
アンシのいる人間の村もビアン・フェルマも人間による集団であるということは一致している。
それならば何かの関係性を持っていても不思議ではないだろう。
(アンシさん、もしかして昔はビアン・フェルマの構成員だったんじゃ……?)
ファウはそう考えた。
これはもちろん推察である。
アンシがあの怪人集団の一員であったとは少し考えづらい。
ともかく詳しい話をアンシから聞かなくてはならないだろう。
どんなにはぐらかそうと、ごまかそうとしても、絶対に聞き出してやろうとファウは決心したのであった。