突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.14 友人
ギンレイを突き抜けた。
ファウの身体に強烈な電流が奔ったが、確かにギンレイはバラバラに砕け散りそして消滅した。
「やった!それで……」
次は⁉ファウはシキレイの姿を探した。
今の勢いを保ちつつシキレイに接近し、一気に決着をつけるべきだ。
一旦様子をみるのもいいだろう。
しかしそれを行うには、
(ちっ、手が震えてやがる)
今のファウには体力が残されてはいない。
ギンレイは消滅させたがそれによる消耗は非常に大きい。
ギンレイが残した最後の電流、それがファウの全身へ回るにはあと数秒はあるだろう。
「あと数秒……いやまだ数秒」
なんとしてもシキレイに接近し彼を打倒さなければならないのだ。
あっという間にファウはシキレイに肉薄した。
次の一撃に全てを賭ける。その気持ちで右腕に力を集めた。
神通力を集中させれば何もしないで打つよりも格段に強い一撃を放つことができるのだ。
そして狙いは頭部に限る。
胴体を狙えば命中率は高いだろうが防御される可能性も高くなる。
その点で頭部は命中率は低くなるがクリーンヒットさせることができれば胴体を狙うよりも、相手を一撃で倒す……もしくは致命傷を与える算段は高いだろう。
不敵にもシキレイは防御の姿勢を見せてはいない。
(舐めてやがるのか⁉この野郎っ‼)
もう止まることはできない。ファウは渾身の一撃をシキレイの頭部へと叩き込んだ。
バスケットボールを叩くような手応えがファウの右手に伝わる。
(この感触!やったか‼)
相手を拳で吹き飛ばすような感覚は久しぶりのことだった。
その感覚はよく覚えている。それだけにこの瞬間、ファウは完全に『やった』と胸の内から確信しきっていたのだった。
しかしその瞬間――
「ぐぉうわぁぁぁあああ‼‼‼」
いきなり電流が奔った。
なんで?どうして⁉ファウは何らかの攻撃を受けた意識がなかった。
どうして電撃を受けているのか?それすらをも理解できずにいた。
自分がやったことといえばシキレイに渾身の攻撃を加えたのみである。
(分身か何かを仕込んでいたのか……⁉)
他に電撃を受けるならば周囲に何か察知できるものが存在するはずなのだ。
それが全くなかったということはシキレイへの攻撃がスイッチとなった可能性は高いだろう。
地面へ崩れ落ちながらもファウはシキレイの位置を確認した。
「あんなところにいたのか……」
そこはファウがシキレイに攻撃したよりももっと――10mほど先だった。
「いやぁ見事みごと。分身とはいえ、ボクも攻撃を当てるなんてスゴい!バルトドゥールでも分身を散らせるのは数えるくらいしかいなかったんじゃないか。そうだったよね、コニー」
「はいはい。分身を攻撃で消せるのはアルバさんとコニシキ隊長ですね」
「俺はバルトドゥールじゃないだろ」
「あはは!そうでした。じゃあ隊長のコニシキさんだけかぁ」
「ついでに言うとコニシキのヤツは……」
「あっ、それは言っちゃダメなヤツですよ」
「そうだったな」
「ちょっとー!!ファウは大丈夫なのー⁉」
「あぁ大丈夫だよ」
テルルが呼びかけるとファウはさっと立ち上がった。
受けたダメージは深刻だが、まだ倒れてしまうような状態ではない。
シキレイの分身についても正確な状況を確認するためにも、まだまだ戦わなければならない。
しかしながら、
「さぁここまでにしようか」
いつの間にか宙へ飛び三回転半を決めてファウの目の前に着地したシキレイが笑って言った。
「はァ⁉私はまだ戦えるんだぞ。アンタだって……」
「僕はキミを倒しに来た訳じゃない。試しに来ただけなんだよ」
「なんだって⁉」
「異邦人がどんなものかどうか……ウェアファルフテプのトップとして見極めなきゃいけないんだ。いうなれば僕のしていることはテストさ。バルトドゥールにやっていることと同じだよ」
「それでどうだったんだよ」
「うーん、まぁとりあえず合格ってトコ。どう?バルトドゥールに入ってみないかい?」
「…………」
ファウは少し考えた。
バルトドゥールはウェアファルフテプの上級戦隊だという。
入ってみればある程度の地位をウェアファルフテプにおいて得ることができるかもしれない。
神通力の使い方や実戦訓練など『強くなりたい』というファウの願いを叶えるには悪い選択ではないだろう。
それにプリンセス・アウランを元に戻すための情報も入ってくるかもしれないのだ。
「ファウぅ……」
心配そうな顔をしてテルルが見ている。
「いや、いいや」
「いい?」
「あぁ断るってことさ。こっちで強くなって今度はこっちからアンタに挑戦するよ。いいだろ?」
「もっ、もちろんだよ!」
ぱあっとシキレイの顔が輝いた。
「それなら僕達のところへの出入りを許可するよ。バルトドゥールに入らなくても訓練や戦闘術の開発はできるから、毎日僕のところにきてよ!楽しみに、楽しみにしているからさ‼」
「そっそうか――それにしてもどうしてそこまでするんだ?」
急に表情が明るくなり声の調子も高くなったシキレイにファウは疑問を感じた。しかし、それは大したことではなく、
「アイツはお前のことが気に入ったんだよ」
アルバはなんということもないように話し、
「はい。シキレイさまはああ見えて元来寂しがり屋なんですよ。真っ向から戦って、それに対等にしてくれるヒトってウェアファルフテプではいませんから。それに――」
ちらりとコニーはシキレイを見た。
今朝自分がとかした髪の毛先まで一つの乱れもないシキレイだったが、
(あの服の汚れ……今朝はありませんでしたね)
そのことであった。このことにはファウとテルルは気づいてはいなかった。
「あたしもファウさんには興味があるんです。なんせ外からきた異邦人ですから」
「ひえっ、いっいつの間に⁉」
「いやーあたしシキレイ様のお傍にいるでしょう?だからシキレイ様に存在感を奪われちゃって、いつの間にか傍に居るっていつも驚かれちゃうんですよ。ごめんなさいね」
舌をペロリと出してコニーは笑った。そうした彼の仕草や様子はとても『存在感がない』とは思えない。むしろ彼に存在感がないとするならば、
(コイツ、気配を消すことを日常化しているのか?)
ファウはむしろ彼に警戒感を覚えたのだった。
そしていつの間にかコニーはシキレイの傍へと戻っている。
「それでは僕たちは失礼するよ。君達が来るのを楽しみに待っているよ――コニー、とっておきのチョコケーキあったよね。アレ、まだ残ってるかい?」
「はいはい。でもちょっと生地に使うコムギが残っていませんでしたね。コニシキ隊長に頼んで採ってきて貰わないといけないですね」
「すぐに頼んでよ。あぁファウちゃん達は明日、いや1時間後にはくるかもしれないんだ。帰ったらすぐに頼んで早く作るんだ。アズスーンアズ‼アズッ――」
言いかけたところで電光がシキレイとコニーを包み、光が弾けると同時に彼等はいなくなっていた。
「シキレイって、なんだかヘンなヤツだなァ」
「アレで俺達の中で一番頭がいいからな。頭がいいってことは戦い方がウマいってことさ。だから一番強いんだよ」
「なるほどね~。やっぱり勉強って大切なんだね~ファウぅ」
「ちっ、なに言ってやがんだよ。アルバだって頭良さそうに見えないけど強いじゃないか。関係ないんだよ、頭と戦いってのは」
「俺はどっちでもいいよ。それよりいつウェアファルフテプの本拠地『モート・ウーサビット』に行くんだ?」
アルバはそう言ったが、まずは今あったことを人間の村のアンシに伝えなければならない。
ファウはシキレイと友好的な関係を築けそうである。そこから人間の村とウェアファルフテプが友好関係を築くことができるならば、両者にとってプラスになり、更にはプリンセス・アウランを元に戻すための手がかりも見つけやすくなるだろう。
ともかく今後のことをアンシと相談するため、ファウは人間の村へと向かった。