突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.13 渾身
ファウとシキレイの距離が縮まる。シキレイの周囲を回っているギンレイがピタリと動きを止めて、青白く光る瞳をファウへと向けた。
「主へは指一つ触れさせない」言葉は発していないが目がそう語っている。
今のギンレイの大きさは10cmほど、その身が放つ電光も出現当初よりは大分小さくなっている。
これなら電撃を受けてもそのままシキレイに攻撃を加えることができる。
いやこれだけ小さくなれば回避することもできるかもしれない。
覚悟を決めて更に距離を詰めた時のことだった。
「…………なにっ!?」
突如としてギンレイが光る。その光が消えるとその姿は4匹から2匹になっている。
(数が減った!?いやこれは――)
確かにギンレイの頭数は4匹から2匹に減っている。しかし生じた変化はそれだけではない。
「フフ。驚いたかい?実体を持たない電撃生命体というのはこういうこともできるんだ」
2匹になったギンレイは大きさを取り戻していた。
「合体したのか!?」
サイズを取り戻したギンレイだ。勿論その身に宿している電撃の威力も回復していることだろう。
「ファウ、危ない!!」
テルルの悲鳴が響いた。元より弱化したギンレイを受けきる(できれば回避する)つもりだったファウだけに意外な方法で強さを取り戻したギンレイへの対抗策は――
「それならっ!!」
ギンレイが迫ったその時、ファウはコブシで大地を叩いた。大量の土塊が宙へと舞い上がった。
「おおっ、これがライ・ラビットをやっつけたワザだね。すごいなぁ。これはライ・ラビットにはツラいだろうねぇ」
さっとシキレイは後方へと飛び退いた。
一方でギンレイはその場に留まっている。一度ファウを標的として定めている以上は、シキレイが距離をとっても彼の元へは戻らないようだ。
(どうだ!?)
巻き上がった土塊がギンレイを襲う。
一匹は土塊を正面から複数浴びた。中には人間の頭部ほど大きさのものもあり、それが直撃したものだから流石の電撃生命体もたまったものではなかった。
「ギギキィ……!!」
鳴き声とも電撃が弾ける音とも分からない声を発して1匹は消滅した。
もう一匹は――
一方が直撃を受けたお陰で難を逃れていた。
一瞬でも隙を見出せば大小様々な土塊はある程度避けることができる。
ギンレイが持つ特殊能力である『合体』があるならば、その逆である『分離』も可能である。
合体を行うことで2匹が持つエネルギーを足し合わせ、ついでにそのサイズを増大させることができるなら、一匹が持つエネルギーを分割しそのサイズを小さくすることもできるのだ。
勿論、合体と分離は無限に行うことができる訳ではない。
合体と分離にはその個体の持つエネルギーを消費する必要があるのだ。
先ほど合体して見せたギンレイも一見するとサイズが元に戻り、その身に宿す電撃も回復したように見えたのだが、厳密には元の状態には戻っておらず2匹が持つエネルギーの5分の1ほどを消費してしまっていたのだった。
つまり合体と分離を行ったギンレイは『見た目』と『その身に宿す電力』は必ずしも一致しないのである。
いやもっといえばサイズ以上に電力を保有することはできないのだ。
こういった事情……もとい弱点を知っていればギンレイの攻略はそこまで難しくない。
(ただしこれはあくまでギンレイ単体での話であり、シキレイが戦闘に加わった場合はその限りではない)
ファウはこれらの性質を一切感知してはいない。
(くっ、あれだけ手傷を負わせても全くエネルギーを消費していないのか!?)
ファウが知る限りでのギンレイの性質は『時間の経過と共に保有する電力が減退する』ことのみである。
最初の2匹が合体するまでの時間とほぼ同量、いやそれ以上は使わせているはずなのに、
(なんでアイツのサイズは大きいままなんだ……!?)
このことである。
考えられる可能性としては、
・前提となっている性質が間違っている。
・今だ知らない能力をギンレイが有している。
この二つであろう。
(どっちだ!?いや……)
考えている暇はなかった。ギンレイは既に目の前に迫っている。
こうなったら――
「でやあああっ!!」
ファウは気合声を発してギンレイへと向かった。
相手は電撃を使う。しかしゼーラーのように超威力の打撃を打つわけではない。
電撃、それは不用意に浴びれば思わず怯んでしまうものだが、覚悟を持って受け切ろうとするならば、
(もうそれでやるしかない!今は神通力だってあるんだから!!)
神通力で身体の防御能力を高めればきっと電撃の威力も軽減できるはずだ。
試したことがあるわけではない。本当にそんなことができるのかどうかは分からない。
しかしこの局面を打開するにはそれしかないのだった。
神通力はイメージをもって形とする。神通力が電撃を軽減するとイメージすることができるならば、それは現実にすることができるだろう!!
ファウはそう信じてギンレイへとその身をぶつけた。