突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.11 シキレイ
シキレイはウェアファルフテプの首領である。
「あぁ、今日も麗しい朝!新しい風、今日も素晴らしい1日になることだろう!」
彼女の1日は身だしなみを整えるところから始まる。
自慢の白く輝く髪は一糸として乱れてはいないか……。
鋭くも宝石のように美しい爪は汚れてはいないか……。
そんな彼を引き立ててくれるスーツには折り目やシワが入っていないか……。
「もちろん今日もバッチシですよ!なにしろあたしコニーのすることです。今までに何か間違いでもありましたか?」
シキレイの近くにはいつも小柄な少年が付いている。
彼の名前はコニーといいシキレイの従者である。
「そうだね。キミのやることはいつも間違ってはいないよ。キミがいれば僕の美も世界で一番に引き立つことだろうね」
「えへへ、ありがとうございます。ところでシキレイさま~」
コニーはシキレイの髪を特注のブラシでとかしながらふと外を見た。
ここはウェアファルフテプの拠点『モート・ウーサビット』その中心部にある宮殿である。
シキレイはこの宮殿の最上階を居住区として生活している。この場所には朝方には非常に澄んだ風が通っていく。
シキレイはこの風を浴びるのが毎日の日課であり、その風の中でコニーによる身だしなみの整理を行うのだった。
この場所からは神魔界を一望することもできる。
対抗勢力である人間の拠点は流石に見ることはできないが、侵略行動など何か不穏な動きは十分に察知できる。
「人間達の里の方で異邦人との接触があったそうですよ」
「アルバが話していた人間のことだね」
「はいっ。はい。そうですそうです」
アルバはウェアファルフテプでも最高位の等級を持つ戦士である。
上級戦隊バルトドゥールの戦闘員でも全く相手にならないし、その部隊長である『コニシキ』でも彼とは互角がいいところであった。
ウェアファルフテプでは強いことが一番に重視される。バルトドゥールよりも強いとあっては、彼はウェアファルフテプにおいてある程度の行動を制限されることはないのであった。
もちろん最上位で首領であるシキレイの命令なら別である。しかしシキレイは別段アルバに命令を下すようなことはしなかった。
「シキレイさまはどうしてアルバさまを自由になさるのですか?立場を与えて手元においておけば良いのに……」
「彼はとても強いだろう?強いものを縛っておくなんて勿体無いことだと思わないか。現に彼は自由であるが故に異邦人の情報を私に届けてくれたんだよ。彼が話すにはその異邦人はとっても強いそうじゃないか。アルバがそう言うんだよ。面白いじゃないか」
「なるほど。それもそうですね。これは出過ぎたことを言ってしまいましたね。それにしてもシキレイさま、嬉しそうですね。そんなに嬉しそうなシキレイさま、久しぶりに見たなぁ。あははあたしも嬉しくなっちゃいましたよ」
ブラシをかけた後で余計に伸びた髪を少しずつ切りながらコニーは笑った。
「さっそく接触を図りますか?準備ならもうできていますよ」
「そうなのかい!?これから言うつもりだったのにもうやってあるなんて――流石はコニーだね。はいコレ」
「あはは。シキレイさまだって準備ができてるじゃないですか。コレですね。いつもどおり矢文でちょちょいっとやってきますよ」
「あぁ、それともうひとつ」
「ハイリエッドの件ですか。弱いくせに勝手な行動ばかりとる軟弱者。こちらも命令とあらばすぐにでも……」
「違うちがう。彼は一応、異邦人の情報を提供してくれたからね。少しばかりは大目に見てやるさ。ただ――」
「ふふ、以降は指示の必要なしですか。邪魔もしくは不要と感じたらあたしの判断で始末しても良いのですね」
「そういうこと」
「あはっ、あはははは!!」
二人の笑い声が遠く空の彼方へ響き渡った。