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突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.10 矢文

「ふぅ、アブナイところだったぜ……」


 一同が息をついた。多勢に無勢、あれだけの数をまともに相手にできるとはファウとテルルは思ってもいなかった。

 相手に出来なければ無理に戦う必要はない。包囲の一部を突破して突風のごとく逃げることを考えていたのだった。


「お前達、強いな。俺達が戦ってきた人間達とは違う。一体何物だ?」

「へへ、私は魔界の魔族だよ」

「人間界 気は優しくて力持ち!オガー族のプリンセス、テルルだよ!!」

「なーにが気が優しくて力持ちだよバーカ。お前が最初にやってたのは人攫いだったじゃねぇか」

「しょ、しょうがないでしょ!オガー族ってのは人攫いをするように言われてるんだから!!」

「誰にだよ?」

「誰にって……そのぉ……まぁ昔の話はいいじゃん。今は気は優しくて力持ちワルいことは何もしない!それがオガー族なの!!」


「ふむ――」


 見た目だけは年端もいかない少女である。しかし先ほどの戦いを見ると、


 (やはり只者じゃない。こうしてじゃれててもいざとなると力を発揮できる。それが強さというものだ)

 

アルバは胸のうちで頷いていた。


「それでお前達はココに何しに来たんだ?いや別の世界から飛ばされてきたのか?」

「あぁそれは――」


 ファウは神魔界に来た目的をアルバに話した。魔界と天界の対立、魔王ゼーラーの騒乱のこと。その顛末である。


「何の話だ?まったく理解ができないぜ」


 ずっと何もない世界で闘争に明け暮れていたウェアファルフテプのアルバだ。文明都市の魔界も空中要塞を戦艦として運用している天界のことも、何一つピンとはこなかったようだった。

 最終的には、


「つまりその剣に封印されちまったお姫様を助ける方法を探しにきたってコトか」


 その部分だけしかファウの話は通じなかったのだった。


「むー、結構長くしっかり話したのにィ……」

「悪いワルい。俺達は戦い以外のことは物覚えが悪いんだ。分かるだろ?生きてくのに必要でもないことを覚える必要なんかない」

「あ、それ納得。私もさー学校の勉強なんて――」

「はいはい。それはそれとして……ウェアファルフテプにはお姫様を助ける手掛かりがあるって聞いたんだけど。何か知ってる?」

「いや知らんな。全く心当たりもない」

「えっ……なんで!?」

「なんでって言われてもな。さっきも言ったが俺達は生きていくために必要なことしか覚えておかないんだよ。お姫様を助けるための方法が生きていくなんの役に立つんだ?戦いに必要なことか?」

「むー、そういわれると」


  確かにそうである。しかしプリンセス・アウランを助ける方法を持っていると人間の村のアンシは話していた。

 それはアンシの思い違いだったのであろうか。それともアルバが知らないだけで実は存在しているのだろうか。


「うーん、アルバが知らないって言うんだったらしょうがないな。一度アンシさんのところに戻って確認してみるか。アルバはどうする?」

「オレはそうだな。せっかくだからお前達についていってみるか。お前達が一緒なら人間の村に入っても大丈夫だろう?」

「大丈夫だとは思うけど。お前のトコこそ大丈夫なのか?」


 ファウはアルバを心配した。現状、下級戦隊のフェルファルンドゥを打ち倒し一部戦闘員を逃がしてしまっている。

 逃げ帰った戦闘員がアルバの裏切りを首領のシキレイに報告している可能性は高い。

 その心配に対しアルバの答えはあっけらかんとしたもので、


「今オレが戻ってもややこしいことになるだけさ。どうせフェルファルンドゥの負け犬どもが何を話したところでシキレイは聞きゃあしない……それに――」


 ウェアファルフテプは強いことが正義である。強さこそが自由である。

 強いものは何一つ行動を制限されず何一つの制約も受けない。極端な話で言えば仲間を倒したとしてもそれは弱者を排除したこととしてむしろ賞賛されることなのだ。

 しかし例外も勿論存在する。直近の例で言えばハイリエッドの件である。

 彼は確かにバルトドゥールへの昇格を目論み仲間を打ち倒した。しかしそれは罠を張ってのことだった。

 罠を張るだけならまだ弁明によっては正義が認められるだろう。

 ハイリエッドは罠を張ったうえで多数の弱者を利用し、上級戦士を打ち倒したのだった。

 1体1での勝負に重きを置くウェアファルフテプではそれは到底認められるものではない。

 ハイリエッドは処刑とまではいかなくとも下級戦隊への降格処分となったのだった。


 ――話が逸れた。元に戻そう。


「まぁとにかく暴れないでくれよ」


 一同は村へ戻った。


「…………」


 やはりというべきだろうか。村中は騒然となった。

 村の外敵であるウェアファルフテプを連れて帰ってきたのだから当然である。

 

「ファウさん、これは……?」

 すぐにアンシが飛び出してきた。ファウとテルルが事情を説明すると、

「なるほど。とりあえずここでは目立って仕方がありません。まずは私の家へ行きましょう。話はそこで……」


 隠しようのないアルバの巨体をなるべく人目に触れないようするのは一苦労であった。


「まずあなたは、この村へ攻撃の意思はない……ということでよろしいですね?」

「あァ、ねぇよ。オレ一人がこんなところで暴れても何にもならないだろ」

「他のウェアファルフテプはどうでしょうか?あなたお手を組んで村の襲撃を企てているのではないでしょうか?」

「それ本気で言ってるのか?オレ達が村を襲撃するのにそんな煩わしい方法をとるとでも?」

「フフ、聞いてみただけですよ。分かりました。あなたには村への害意はないようです」

 アンシは小さく笑った。それと同時に一つの決心を抱いたように頷いた。


「一つ質問をしてもいいですか?」

「オレに分かることなら話すよ」

「他のウェアファルフテプはあなたが拠点に戻らないことについてどう考えるでしょうか?こちらに拉致されたと考えて報復に攻め込んでくるということは?」

「オレが戻らないことについては別になんとも思わないよ。仲間内じゃ定期的に数ヶ月くらいは戻ってこないヤツもいるからな。強ければ大体のことは何しても問題にはならないさ」

「そうなんですか」

「後者についてはオレが拉致されたと思って報復に乗り出すヤツはまずいないな。理由はさっきのとおり。ただそこのお嬢ちゃん……ファウに興味を抱いたヤツが決闘を申し込んでくることはあるかもな。でもその場合はこの村の人間には一切手を出さないと思うぜ。オレ達、ここの連中には全く興味持ってないから」


「…………?」


 ファウは今の話に僅かに違和感を覚えた。

 それがどういう意味だったのかは分からないが、今まで思っていたことと


(ちょっと違っているような……?)


 そんな感じである。


「そういえばさー。コイツを元に戻す方法、アルバは知らないって言うんだけど……」

 

 アンシの家に置いたままになっていたプリンセス・アウランを指差してファウが言った。

 

「…………」

「術とか頭をつかうことだったら、むしろ人間達の方が詳しいんじゃないかって話なんだけども」

「…………」

 

 どうもおかしい。その話を出したとたん、アンシが考えるように黙ってしまった。

 

「ん、なんだ?もしかしてアイツらのことを話していないのか。あの……」

 

 言いかけたところで村の住人が一人、アンシの家に駆け込んできた。


「たっ、大変です!!た、大変なんです!!」

「落ち着いてください。何があったかゆっくりでいいから話してください」

「はい。外から矢文が打ち込まれまして……!!」

「矢文だって!?」


 中身は非常に整った文字でこうあった。

 


「私はウェアファルフテプのシキレイ。見慣れぬ客人と手合わせ願いたい。場所は明日、白銀山脈にて……そちらに居るアルバに案内を頼みましょう」

 


「おっ、さっそく来たな。シキレイも新しいものが好きだから、3日も4日も間は空けないな」

「ふむ……どうしましょうか」


 文面にある『見慣れぬ客人』はファウのことを指しているのだろう。

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