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突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.8 フェルファルンドゥ

「いやぁ危ない危ない、ね。アンタやるなァ。この間までの感じじゃこうはならなかっただろ?いやぁ驚いたよ」

 アルバは膝をつきながら言った。

 気丈に振舞ってはいるが、呼吸は荒れていて体が小刻みに揺れている。

 

(あれを耐えるなんて……)

 

ファウが歯をかんだ。全力に近い攻撃をクリーンヒットさせたのだ。

 威力、手応えで行けば魔界の反逆型戦闘魔族『ハングレー』も余裕で倒せるほどのパワーはあっただろう。

 『地上爆震拳』は打撃地点に強力な爆発を発生させる技である。

 もちろん爆心地に近いほど威力は高まり、相手に大ダメージを与えることができるのだ。

 それを打ち込まれたアルバは必然的に一番威力のある状態で攻撃を受けることになるのだが――


(こいつはやべェ……!?)


 背中に言い知れぬ威圧感。死の恐怖ともいうべきかもしれない。

 ともかく強く寒いものが背中に近づいたのを感じて、アルバは咄嗟に前へ出た。

 それは一種の本能であったのかもしれない。今まで生きてきた経験と勘が最大限に膨れ上がり、アルバに一つの生き残るための道を示した。

 一言でいえば生存本能だろう。

 これが正しかった。

 爆心地から僅かでも離れた分だけ威力は軽減されたのだ。


「でも無事じゃ済まなかったんだろ?」

「そりゃお互い様だ」


 打撃地点に最大威力の爆心地が生じるということは、攻撃対象にだけダメージを与える訳ではない。


「くうっ、いったたた」


 ファウの全身に痛みがはしった。

 

「いきなりあんだけの威力だ。覚えたてのお前じゃ反動を軽減する技術は持ち合わせていないと見たぜ。相当無理が来てるんだろ?」

「アンタだって……」


 二人とも、肩膝をついてやっとの状態になっている。もうこれ以上はまともに戦うことはできないだろう。


 しかし――



「ギギギャハッハッハ」



 周囲の草むらから続々と黒い影が沸き立ってきた。

 不気味な高笑いが草原の地平線の彼方まで響くようであった。アルバと同種の人狼である。


「お前達……」


 アルバが恐れるものもないように悠々と立ちはだかる人狼を睨みつけた。


「何しに出てきた?手出しはするんじゃねェ!俺の戦いはまだ終わっていないぞ!!」

「アンタはもう戦えないだろ。なら俺達の番だ。その人間はアンタを負けした。そんなヤツを俺達が倒したとあっちゃ、シキレイ様も俺達のことを認めてくださるだろう!!」

「アルバ、コイツらは……?」

「下級戦隊の『フェルファルンドゥ』だ。ひたすらに手柄を求めて戦う仲間内でも評判最悪のハイエナだよ」

「ギギャハハハ!!いってくれるねェ。だがこれは正当な戦いだぜぇ?敵を相手に俺達が勝つ!勝ったからには俺達の勝ちさ。シキレイ様は褒めてくださる。上級戦隊バルトドゥールに昇格だ」


 フェルファルンドゥと呼ばれる人狼達は勝利を確信しているようだった。

 まるで戦うような姿勢を見せず、ただ立ち尽くしたままで手負いのアルバとファウを見下ろすばかりなのだ。

 ファウはアルバを見やり、


「上級戦隊?シキレイ?コイツら何を言ってるんだ?」

「シキレイは俺達ウェアファルフテプのボスだ。実力でもって群を統治、更には世界を支配しようとも考えている」

「へェ……まぁどこも考えることは同じなんだな」

「お話中のところお二人さん」


 ファウとアルバの間にテルルが割って入ってきた。

 テルルはライ・ラビット、更にはファウとアルバの戦いにおいて殆ど傷を受けてはいない。

 この3人の中では一番まともに戦える状態だろう。

 

「ねぇ、狼のお兄さん。アイツらどれくらい強いのさ?」

「下級戦隊なんてザコの集まりだが、奴等は個々の強さより数で攻めるのが得意でな」

 

ウェアファルフテプは主に1体1での実力勝負を信条としている。

 先ほどのアルバがファウに戦いを挑んだのがそのいい例といえるだろう。

 1体1での実力勝負を信条とするために戦いは基本的に先着順である。

 勝負と決まればその戦いが終わるまでは他のウェアファルフテプは、1体1の戦闘に割って入るようなことはしないのだ。

 またその戦いにおいてウェアファルフテプ側が倒され、それにより戦っていた相手が手傷を負っていた場合は続けて2番目に到着した者が追い討ちをかけるといったことも基本的にはしない。

 ……『しない』というだけで相手が危険な対象であったり逆に戦闘を挑まれた場合は応じるなどの例外においてはその限りではないが、中級以上の戦隊のものは基本的に個々の実力を重視するためにその信条を守っている。


 今ファウ達が対峙している相手――


 フェルファルンドゥはそうした精神を持ち合わせていないウェアファルフテプのはみ出し者である。

 相手とまともに戦えるだけの実力を持たないために同士を集めて徒党を組む。

 また標準的な知能も持ち合わせていないために、


「どんな手を使ってでも、相手を倒せば上級に成り上がることができる」


 そう信じて疑わない。


「ハイリエッドがアイツらのリーダーだ。元々上級戦隊バルトドゥールの候補だったが、昇格に目が眩んで他の候補者を罠にかけて殺したんだ。周囲の連中は元上級候補の威を借りるために集まったザコだ。ハイリエッドが倒れれば戦意を失って逃げるだろう」

「そうか……それなら」


 ファウとテルルがニッと笑った。


「私達がアイツをやっつけるよ。アンタはどうする?他のザコやっつけて裏切ってみるか?」

「フン――」


 アルバがすっと立ち上がった。


「あんな奴等を倒したくらいじゃ裏切りにもならねェよ。ウェルファルフテプは強いことが正義だ。仲間内の弱いヤツを倒すことをむしろ労われるくらいだぜ」

「そうか。なるほどな」


ともかくも遠慮はいらないらしい。元より手負いのファウとある場は遠慮も手加減もするつもりはなかった。

 持てる力の全てを出して、この局面を打開するつもりだったのだ。

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