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突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.6 ライ・ラビット

 神通力の基本は『静』と『イメージ』であるという。

 

「心を静かに保ち、イメージもって形とする」

「イメージねぇ」


 抽象的な言葉は勉学に疎いファウにはイマイチ頭に入らなかった。

 といって魔界の魔力を用いた魔法においても同様に『想像による創造』が重要となっている。そのことを考えると、ファウがそういったことに向いていないだけなのかもしれない。

 

「できないものはできませーん!!」


 開始して1時間も経たないうちにファウの悲鳴が村中に響き渡った。

 

「やはりいきなり実技というのは難しいですよ。講義で知識を得てからにした方が良いと思います」

「そうは言ってもなァ」


 授業による勉強はファウのもっとも苦手としていることの一つであった。

 もしもそれが人並みに出来ていたならば、今頃ファウは魔界でも随一の実力者になっていたことだろう。

 余所見、居眠り、必殺技名の考案……。

 授業中に行っていることなどそんなことばかりであったのだ。

 勉学に励む志を僅かにでも彼女が持っていたならば、この物語で起きていたことの3分の2近くは無難に解決されたことであろう。

 しかしながら、彼女が勉学を苦手としているのは、この物語を面白おかしく進めるためではない。



「言いたい放題いいやがってぇ」

「ハハ、勉強ごとが苦手ですか。大丈夫ですよ。勉強が苦手な人は他にもいました。そしてその人は見事神通力を使いこなし今では……」

「今では?」

「……いえ何でもありません。とにかく勉強といっても計算や暗記の類ではありません。イメージの


お手伝いといったところなのです」

 

「へぇ、それならできそうな」

 

 アンシは神通力の使い方を絵を使ってごくごく簡単に解説し始めた。

 一つの苗木がある。

 それに水をかけると、苗木は大きくなり赤色の実をつけたのだった。

 


「分かりますか。神通力とはこの場合、水を指しています。水を苗木に浴びせることで赤い実である力が発現するのです」


 先日戦ったウェアファルフテプのアルバが使ったものを例に考える。

 アルバは苗木に水をかけることで燃え盛る赤い実へと成長させたといったところである。


「ファウさんも苗木に神通力もとい水を注いだら、どんな実が成るのか。それを考えるのが良いでしょう。もちろん木の実は1日して成りません。じっくり考えていくことです」



 

「うーん、そうかなぁ」


 そこまで解説を言われても、なおファウには分かりかねた。

 そんなことよりも、


「ちょっと身体を動かしたいな」

 

 そのことである。

 先日ウェアファルフテプのアルバに大怪我を負わされながらも、新たな戦いを求めて外へ出て行こうというのだった。

 勉強そして考えるよりもまずは実戦にして実践である。


「そうですね。実際に見聞して得られるものもあるでしょう。外に出てこの世界の生物を観察し経験を積むのも良いでしょう」

 

 アンシも快く勧めてくれた。

 ただし一人で行って神通力を操る生物と戦うのは非常に危険である。

 

「テルルさんと村の者を2人護衛につけましょう」

 アンシは提案したが、あんまり人数をつけられても、

「ありがたい話だけど、それじゃ私が落ち着いていられないよ」

 ファウは断った。しかし単独で行かせる訳にもいかないというので、せめてテルルを同行させるという結論で話がついた。

 


 さっそく二人は村を出た。アンシが修行を行うには丁度良いと話した場所へと向かったのだった。

 その場所は『電光平原』というらしい。

 見たところは普通の草原だ。ヒザの辺りまで伸びた草が風になびいて揺れている。

 頬を撫でる風が涼しげで気持ちがよい。しかしその一方で、

 

「なんだ、こりゃ!?」

 

 何故か身体に電流が走っている。服の上から皮膚を刺激しているようだった。

 どうやら風に乗って電気が流れているらしい。いや風に電気が含まれているというべきだろうか。

 電気が空中を流れるということは人間界でも魔界でもまず起こることではない。

 だがここはそんな常識の通る世界ではない。神魔界なのだ。ということは、

 

(これは自然に起きていることなのか!?それとも――)

 

 生物が神通力を用いて発生させている現象ではないか!?

 風刃チーターは風刃を操り狩りを行っていた。それならば、この場には電気を操る生物がいるのではないだろうか。

 

「テルル、コイツら」

「そうだね。何かがいて電気を放出してる」

 

 電気には流れが存在し、四方八方へと流れを作っている。

 段々とその流れが多数に分岐する。それに伴い電気の量も増えた。目に見えて『何者』かの存在が明らかになっていく。


「出たな」

 

 呟くと同時にビリッ!!電光がファウの頬を掠めた。

 これは攻撃が外れたのではない。ファウが回避したのだ。

 頬に向けて放たれたのは牽制だった。本命はファウの上半身、胸の辺りを狙って突進をかけてきていた。

 

(動きが速すぎて姿が見えなかった!?本体の殺気と電光の狙いが別々だったから避けられたものの――)

 

 かわした本体が折り返し、ファウの背後を狙ってきた。

 速すぎる攻撃だ。振り向く時間もない。ファウにとっては反応することもできていないかもしれない。

 

「あぶない!!」

 

 とっさに割って入ったテルルが電光を叩き落した。

 ぼっとりと鈍い音を立てて電光が地に落ちた。白くふわふわした物体だった。

 

「さ、さんきゅー。くるだろうとは思ってたけど、とても間に合わなかったよ」

「まったく。世話が焼けるんだからさ」

 

 それにしても……

 

「なんだコイツは?」

 

 目を落としたとたん、その物体についている青い光をファウは見た。

 光り輝く眼球、つまるところ目が合ったというべきだろう。

 

「くっ……ブナッ!?!?」


 瞬間、光が天へと抜けていった。同時に白い物体は姿を消していた。

 あの光は鋭い電気の矢だ。危うくファウの顔に穴が開くところであった。

 凍えるような青い瞳を見てファウは思わず寒気を感じて顔を背けてしまったのが幸いだったといえよう。


「あっぶねぇ。なんなんだよアレ」

「神魔界の生物だね。ああいうの多いんだ」

 

『多いんだ』その言葉の通り気付けば周囲の空気が更に冷たくヒリヒリしたものへと変わっている。

 ファウとテルルの周りを白くふわふわしたものが取り囲んでいる。

 それぞれが電光を帯びており、ふわふわした毛はまるで針のように逆立ち輝きを放っている。

 

「結構な数がいる。コレ、さっきのヤツの仲間か?」

「逃げちゃった以上は仲間を呼びにいったんでしょ」


 電撃を操る白いふわふわ……名前をライ・ラビットという。

 神魔界に飛ばされたうさぎ、ルノーマ・ラビットが神魔界で生きていくために電撃を操る力を修得したのがライラビットである。

 電撃は威嚇から牽制、更には自身の身体を一時的に電光と同化させ超高速での移動を可能にするなど攻守においてバランスの良い能力なのだ。

 しかしライラビット自体は小型の神魔獣である。小型であるが故、一度に扱える電気の量はそこまで多くはない。

 牽制に使えばそれだけで全体の半分以上を消費してしまうのだ。攻撃においても同様だ。

 だからこうして――


「それにしても数が多すぎる。こんなの全部相手にするなんて無理だ!!」


 群れで相手を襲撃することにより自身の生命エネルギーの低さを補うと同時に相手に悟られないようにしているのだった。


(まずいな……)


 ファウが息を飲んだ。

 周囲を無数のライ・ラビットに囲まれている以上、あの電光攻撃を回避する術はない。

 何か遮蔽物があれば――電撃を遮り相手の攻撃をある程度防ぐことができるのだが……。


「何もない、か。それなら――」


 平原だけにあるのは風に揺れる草だけである。もっともそういった場所だからこそライ・ラビットの縄張りとなっている。

 もしもこれが木々が乱立する樹林であったとしたら、ライ・ラビットの雷撃はことごとく木々に遮られ、生態系において優位にたつことができないであろう。

 ファウとテルルは背中合わせになった。

 周囲の状況を見極めなければならない。

 数えられる範囲で白いふわふわとした塊が30群、その1群にどれほどの数がまとまっているかは分からない。

 その白い塊が徐々に光を纏い始めている。


『ボルトランサー』


 それがライ・ラビットの必殺技である。

 発射にはチャージを要する。しかし持ち得る生命エネルギーの総量が非常に低いライ・ラビットである。

 必要以上に生命エネルギーを消費しないようノーチャージで発射できる『ボルトニードル』という放出方法も修得しているのだ。

 今回はチャージを要するボルトランサーだ。

 相手を取り囲んでの必殺ショットはライ・ラビット得意の戦法だった。

 パッと大きくなった光が弾けた。強力な電光の矢が全方位からファウとテルルに襲い掛かる。

 

「上に跳んで避けないと!!」

 

 テルルが叫んだ。しかしファウは首を振った。

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