突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.4 ウェアファルフテプ
そんなことを行っている間に森の奥から大きな影が現われた。
「俺が一番乗りだ!!さぁお前、俺と勝負しろ!!」
出てくるや否や、大きく叫んだ。
「おー、コイツがウェアファルフテプか」
見た目は魔界にいるようなウェアウルフ、人狼と同じだった。
違うとすればその巨体から溢れるような攻撃性――威圧感だ。
魔力ではない。かといって素の腕力でもない。見た目に押されている訳でもない。
(コイツ、強いな)
ファウはごくりと唾を飲んだ。
これほどの相手は魔界でもそうそういないだろう。
「さっきの力を放出してたのはお前か!?それともお前か?どっちだよ、オイ!!」
「そりゃ私だ。相手をしてやるよ」
前に出たのはファウであった。読者の皆様方はお分かりだろうがこの人狼が戦闘の相手としている、
「さっきの力を放出した」者はファウではない。
「合意と見ていいんだな」
人狼が小さくいった。もしもどちらかが戦闘を拒否したとしても、そのまま逃がすつもりはない。
力を放出したものが目の前にいるならば、襲撃すればそのまま戦いになるだろう。
『合意』といったのは戦闘の確約、その確認なのだろう。
ファウと人狼が向かい合った。
テルルはファウの嘘を知っているが、それを口に出そうとはしなかった。
ファウがこの戦いを求めたからである。人狼の言うところの『合意』であろう。
同様の意志を後続に続いてきた人狼も感じ取っているようだ。
姿自体は見せてはいないが、複数の気配がこちらに意識を集中しているのが窺える。
「へっ、お嬢さん、アンタ武器は持ってないのかい?人間の村の連中は皆何かしらもってるもんだがね」
「持ってるけど、コイツは違うな。私は素手の方が得意なんだよ。アンタは?」
「分かった。こっちも素手でいいよ。俺だってこっちの方が得意なんだよ実は」
「…………」
二人が構えをとった。人狼は屈強な体つきをしていて隙がない。
(あれだけ大口を叩くだけのことはあるワケだ)
ファウは胸が躍る思いがした。神魔界にもこんなに面白いヤツがいるとは思ってはいなかった。
先ほど戦った風刃チーターのように、特に意志や矜持を持たず目に映った相手を襲撃する程度の相手ばかりだと思っていたのだった。
そういった輩ならば魔界にだってゴロゴロいる。
しかし彼はそんな魔界のゴロつきとは違う。
本人は「素手の方が得意だ」と言っていたが、
(アレは剣を使う方がメインだな)
背中には剣を納めた鞘を背負っている。しかしそれよりも注目するべきは彼の手であった。
(タコがすっげぇ出来てんな。相当修練に励んでるヤツだ)
そっと自分の手へ目をやった。風刃チーターとの戦いでキズだらけにはなっているが、その手には修練の後は見られない。
(こんなことだったらちゃんと学校の授業を受けておけば良かったか)
いつでも思うその後悔である。皆様方は是非とも受けられる勉強は受けておいた方が良いだろう。
さて……
「それでお兄さん、名前はなんてーの?」
「聞く意味はあるのか?まぁいいや。俺の名前はアルバって言うんだ。お前は?」
「ファウだよ」
それが戦闘開始の合図だった。即座に二人の姿が消えると衝撃が走った。
「ぐっ……」
二人のコブシが正面からぶつかりあったのだった。
まずは互いの相手の力量を計ったというべきだろうか。
コブシを合わせたまま静止し、そして押し合いになった。
「思ったよりはやるな。お嬢さんだからって手加減しようかと僅かに思っちまってたが――」
「そんなこと考えてたのか。それならすぐに殺すよ?」
ぱっと二人が離れ殴打の仕合へと移った。
(コイツやっぱりかなり強い、な)
腕力だけなら魔界でも指折りの使い手だろう。しかし、
(ゼーラーと比べれば……まったくのザコだな)
先の戦艦コンセリーグでの戦いにおいて、ファウは魔王ゼーラーと死闘を繰り広げている。
その中で強烈な打撃と殴打を数多く受けた。そのお陰か、物理的な殴打には多少の耐性を得ているのだ。
「思ったよりタフじゃないか。他の人間なんか、一発で山の向こうだったんだぞ」
「身体のデキが違うのよ」
「そりゃありがたいな。まだ本気を出せるよ」
「…………むん!?」
一気に空気が変わるのをファウは感じ取った。ピリピリと肌が焼けるような熱さを伴う殺気である。
さっきまでの戦いではああした気配は全く出してはいなかった。新しく別のモノが宿ったような……
(コイツは何かやるきだな)
ファウがそう思った矢先のことだった。
『爆熱抜刀腕!!』
突如として高熱を発したかと思うと、アルバが目にも留まらぬ速さで突進をかけてきた!!
「速い!?」
言葉を発するのも間に合わない。しかし狙いは一直線である。射線を外れることは事前に、
(何らかの攻撃が行われる!!)
と踏んでいれば回避は容易だった。
だがこの攻撃はただ“ 単に直線上にいる相手を攻撃する”だけものではなかった。
「ぐっ……!?」
完全に突進を避けたはずのファウの身体が衝撃によってはね飛ばされていた。
しかも右方向へ飛ばされている。正面からの攻撃を避けたはずなのに左方向からの衝撃を受けているのだ。
(全く違うトコから攻撃!?何が起こった!?)
更に吹き飛ばされたファウの身体に熱気が生じいくつかの小さな爆発を起こし、それがダメ押しとなりファウは木に叩きつけられた。
めきめきと音を立て木が倒れる。その様子をぽかんと口を開けたままテルルが見つめていた。
「クリーンヒットだな」
フッとアルバが煙をあげている右腕に息を吹きかけた。右腕は黒く焼け焦げている。
(あの攻撃、自分の右腕をも焼いてしまうのか……!!)
ごくり、とテルルは息を飲んだ。今の技は自分へのダメージを要するものだったのか。
もしくは自身へダメージを加えることで威力を上昇させているのかもしれない。
どちらにしてもそんな技をファウに打ち込んでいるということは、アルバはファウを特別な相手として見ていたのかもしれない。
「回避は見事だったよ。何もしてなけりゃ避けられてたな。だがそれは当てる直前に俺でも分かったことだった。だから俺は威力を上乗せしてやった。それも特大にな……そうでもしないとお前を倒せないと思った」
ぱらぱらと倒れた木が音を立てている。
土煙の中らは“ 二つ”人影が浮かび上がってきた。
「おっ?」
「あ、アンタは……」
ファウに寄り添うように立っている人影が一人。人間の村のアンシだった。