突入!神魔界 ~ 遭遇編 part.3 人間の村
「いやぁ、まさかこんなところで会えるなんて思わなかったね。あたしのこと覚えてるぅ?」
「特徴的なツインテール、そしてちょっと高めのこの声は……!!」
「まさしくオガー族のお姫様!テルル参上!!」
颯爽と風とともに現われたのはオガー族とテルルであった。
彼女達はファウによる商家の息子救出作戦の一件以来、新天地を求めて旅立ったのだった。
数々の地を巡った末、どういった訳かオガー族は神魔界へと辿り着いた。
「こんなトコまでどうやってきたんだよ?」
ファウが不思議に思うのも無理はない。神魔界は魔界の辺境で、それもゲートとして発見されたに過ぎないのである。
「あァ、旅をしていたら知らない間に入り込んでいたんだぁ。なーんか見たことのない奴等とばかり出くわすなァとは思ったんだけどサ」
「なんじゃそりゃ」
どうも話によれば知らないうちに迷い込んでいたらしい。ここを神魔界だと気付いたのもつい最近のコトだとか。
「私達より先に、この世界に住んでる人々がいたんだよ。聞いてみると、この世界は人間が住んでいる世界とは違うトコロだって……まぁアタシ達は住む場所に拘りもないからね。今はその人達の村で持ちつ持たれつ、お世話になっているんだぁ」
「へェ……」
テルルは人間の村へファウを案内した。
(フゥーン、まぁ人間界の村と同等ってトコロか)
村を覆うように塀が立ち並び、木造の小屋が建っている。
外には先ほどファウが戦ったような生物が数多くいるらしい。それらの侵入を防ぐために強靭な素材を用いた塀が必要なのだそうだ。
正面の門から入ると、村人達はオガー族を迎え入れた。
顔を合わせるごとに明るい調子の挨拶が交わされるところをみるに、村の人間とオガー族は良好な関係を築き上げているようだ。
村長の家へきた。
村長は意外に若い。男性でしかも20代前半といったところだろうか?
(へェ、村長っていうのはもっとジジイみたいなのを想像してたけど、人間の世界じゃこんなに若いのがフツーなのか?)
若い代わりに何処か高貴、神秘的な雰囲気を持っている若者だ。
「おやテルルさん。今日は我々だけでも三つ目タイガーを狩れました。貴方がたが教えてくれた戦技、それに罠のおかげだ」
「いやぁ、それほどでも」
「そこお方。見たことのない顔ですね。見たところオガー族とは違うようですが……
村長の若い男が怪訝そうな顔でファウを見ている。
「彼女はファウ。私の友達で、ある目的のためにこの世界に来たんだって」
「この世界に……ですか」
男は静かに言ったが、その声にはただならぬものが込められているのをファウは感じ取った。
「私はファウっていいます。こっちの剣、中にはプリンセス・アウランって人の魂が入っていて――」
ファウはこれまでの顛末を簡単に若い男に説明した。
一応人間の前である。魔界から来たことや魔界と天界の闘争や関係については喋らない方がいいだろう。男の前では、
「剣に封じられた重要人物、プリンセス・アウランを元の姿に戻したい」
と話したのだった。
「ほぅ、そうですか」
男は考えるように俯いた。プリンセス・アウランの名前を聞いても驚いたりはっとしたりする様子を見せないあたり、彼は天界のことは知らないらしい。
「申し遅れました。私はこの村の長、アンシといいます。この村に集まった人間を束ねている者です」
「ど、どうも。アンシさん」
「この世界については今なお調査をしているところです。ファウさんが探している、プリンセス・アウランさんを元に戻す方法についてですが、残念ながら私達は知りません」
「そうですか」
「しかし心当たりはあります。ここから北へ行ったところにあるのですが……」
そういいかけたところで、アンシの表情が僅かに暗くなった。
「どうかしたんですか?」
「いえこの話は長くなりますので、今この場で話すことではないなと思いました。そうですね。今夜はここで夕食にしましょう。テルルさんの教えで獲れた三つ目タイガーがあります。それを食べながら……お話しましょう」
夕食をご馳走になるということで、ファウとテルルは川へ魚を獲りに行くことになった。
「別に私らで獲りに行かなくても良かったんじゃないか?」
「なに言ってるの?ご馳走になるからっていって、何もせずに待ってるなんて失礼にも程があるでしょ!!」
「そうだぞファウ。ご馳走になる以上はこちらからも誠意をみせるべきだ。ただ施しを受けるだけなんて、無礼にもほどがある」
「むー、お前に言われるとなんか腹が立つなぁ」
「ちょっと何起こってるのよぅ」
「あ、いやちょっとコイツがな……」
剣の姿となっているプリンセス・アウランの声はファウ以外の者には何も聞こえない。
たとえ相手の前で舌打ちをしても奇声をあげても、高笑いをしてもである。
「――ということなんだよ」
「ふぅん。そんなことってあるのねぇ。それでなんて言ってたの?」
「ご馳走になる以上は誠意を見せろって」
「私と言ってることが一緒じゃん!ホラ、恩知らずなのはファウだけだよ。まったく」
「へいへい。そうですね」
「それにこの世界のことも見ておかなきゃ!この間の風刃チーターなんてまだまだ序の口なのよ?」
「それもそうか」
風刃チーター。確かにあの生物の持つ能力は魔界では見たことのないものであった。
魔界において風の刃を武器として操る魔物は数々存在している。
しかしそれは魔力を用いての術である。
魔力を扱うが故に相手の魔力を感知することで、
『威力の度合い』『攻撃範囲』などはある程度分かるのであった。
「アイツら風の刃を作るのに魔力を使ってなかったな。何か別の力……」
ファウは自分の手を見た。
今の彼女は魔力を有してはいない。同時に神魔界は魔力の存在を許容してはいない。
(ここの生物は魔力以外の力で能力を発動させているのではないか?)
そう思い立った時、ファウは反射的に跳ね起きた。
「テルル、ここに来てどれくらい経った?」
「そうだなぁ。半年くらい?ファウと分かれてから1ヶ月ほど経った頃に、いつの間にかこの世界に来てた」
「そしたら何か特別な力とか、そういうの何かできなかったのか?」
「おや。ようやくやる気になったね。出てきて正解だったでしょ」
「ちょっと悔しいけど」
「いいのいいの。ココでアイツらとやりあうんだったら必須の力だから――」
テルルは右手を握り、集中するように目を閉じる。
2秒、3秒沈黙が続き、カッ!と目を見開いた時、
「はあっ!!」気合のこもった大声を発すると、
「うわぁ!?」ファウの体が宙へと吹き飛んだ。突風?いや衝撃波?ビリビリと空気が電気を帯びたように揺れている。
そして驚くべきことが一つある。目の前の川が大きく抉れているのだ。
巻き上げられた水が空へと舞い上がった。その中を固形物が踊っているのを確認できる。
「はいっ、はい!こんなもんでしょ!!」
テルルの腕には12匹ほどの魚が抱えられていた。
「どう?こんな感じ」
「すげぇ。どうやったんだ。魔界じゃ素の力でこんなのとてもできないぞ」
「説明はあと。ホラ、早く落ちてる魚を回収して。コレやると騒ぎを聞きつけた奴等が集まってくるんだから……」
そう言いかけた頃にはもう遅かった。
周囲には生物の気配が感じられる。草むらの間から、ネコのように光る目が覗いていれば、木の上にはリスのような小動物が並んでこちらの様子を窺っているのが見て取れる。
幸い、その中には風刃チーターのように攻撃性の高い生物はいないようだ。
おこぼれを預かりたくてファウとテルルが去るのをじっと待っているようだった。
しかしそんな彼らとは一線を画すような、力強い方向が遠くから上がった。
「さっきのお前の声と同じくらいデカいぞ。オガー族の仲間かコレ?」
「この鳴き声、ウェアファルフテプ!?」
「ハァ!?なんだよそのウェアファなんとかってのは?」
「ウェアファルフテプ。高度な知能と能力を身につけた人狼集団」
先ほどファウが訪れた村の人間達やオガー族達と同じように、外の世界から紛れ込んだ集団が他にもあったのだ。
狩りや戦闘が大好きで特に自分達より強いものとの戦いを求めているバーサーカー。
「コイツらは他の種族を片っ端から駆逐して、この世界で最強の種族になることを目指してる」
人間の村も勿論ウェアファルフテプの標的となっていた。
人間の村とオガー族が問題なく手を結んでいるのはこのためだった。
人間とオガー族が力を合わせてウェアファルフテプの襲撃を退けていたのだ。