決戦!大魔界戦艦 コンセリーグ part.19 ~ 終
「残念だけど両方とも僕の力じゃ治せないなー、ゴメンねぇ」
「は、はァ……そうですか」
戦艦コンセリーグから脱出した後、お払い戦隊はディアスのもとへと向かっていた。
意識のない人間を二人、それにとても重量のある剣を抱えてネオ19区画を走るのは非常に大変だった。
下手をしたら魔界警察に職務質問を受ける危険もあったが、そこはオンミョーンの術で存在感を希薄にして乗り切った。
さて……
一旦、剣とプリンセス・アウラン(魔王ゼーラー)を預けたお払い戦隊は一度休息を必要とした。
何しろ一度は死んでいるだけに体力の消耗は激しく後遺症も少し残っている。
それだけでなく当事者の1人であるファウが目覚めない。
コンセリーグ脱出時に魔力を大放出したせいか、そのまま意識を失って5日ほどは目が覚めなかった。
そして目が覚めるや否や彼女に一つの異変が起こっていたのだった。
「うーん、力が出ねェ。何やってもパワーが放出されないんだけど……」
体には常に脱力感が付き纏っている。それも目覚めて2日ほどで抜けたものだったが、肝心の魔力は戻らなかった。
普段なら魔力を込めて壁を殴れば、粉塵を立てて粉砕できる。どんな不良魔族が相手でも、半殺し程度はすぐにできていた。
しかし今はどんなに力を溜めても壁どころか樹木すら吹き飛ばせない。不良どころか子供すら泣かせられない。
原因といえばやはりコンセリーグでの一件だろう。どうにかディアスに元に戻る方法を相談してみたものだが、先に述べた通りの答えであった。
「しょうがないか。それよりも――」
ファウが気になっているのはもう一つあり、
『戦艦コンセリーグのこと』であった。
お払い戦隊もファウも脱出に精一杯で戦艦コンセリーグのその後については何も知るところではなかった。
あれは天界の兵器である。魔界に侵略してきたとなれば大事件である。
ことの顛末は確認しておかなければならないだろう。
「あー、それなら問題ないよ。いくら調べても何も出なかったから」
戦艦コンセリーグは地上に墜落した後で完全に石化してしまっていた。
キャシャーンによるエクソーン、ワイパーン、オンミョーンの3名もの蘇生の代償はコンセリーグ全体を持って支払われていたらしい。
地上に激突した衝撃で外装内装ともにグシャグシャに崩れており、中を探索するどころか通路や部屋などは形も残っていない。
入り口すらないのだから魔界警察も調べようがなかったのだった。
「それよりも問題なのは天界の方だね。こっちの方がかなり深刻だ」
コンセリーグが完全に崩壊したことでそれについての調査はできなくなったが、コンセリーグに追随して魔界へやってきていた天界の飛行艇はそのまま魔界に取り残されてしまったのだった。
飛行艇には天界の兵士が乗っている。彼らから侵略の意図が語られれば天界と魔界の摩擦は激しくなるだろう。
「こっちもコレだけなら、全く問題なかったんだけどね……」
天界を支配している天使達は残らず魔王ゼーラーのマインドコントロールを受けていた。
そんな魔王ゼーラーが倒されたのだから、今現在、マインドコントロールは解除されている。
ということは、
「今飛行艇に乗っていた天界の兵士達は魔界の侵略について何もしらなかったってことなんですか?」
「そういうこと。いくら調べても自分達がなんで魔界にいるのかすら知らない。マインドスキャンを通しても反応ナシ、お手上げだったよ」
「それでは今回の件で天界と魔界の関係は問題ない、ということになるのかしら?」
「いやいや。そうも簡単にいかなくてね……」
ここから先が問題だ。
確かに天界側は魔王ゼーラーのマインドコントロール、そして解除により侵略の意図は表には出てこないだろう。
しかし――
「アレ。君達が持ってきた剣」
「あっ……」
そう。本物のプリンセス・アウランだ。
天界にとって指導者として仰いできたプリンセス・アウランが消失してしまっているのである。
何も知らない天界の天使はプリンセス・アウランの失踪を魔界の仕業と決め付けようとしているのだ。
「お互い仲が良くないからねー。こっちは穏便に片付けるようにしたんだけど、天界の偉い人は火種を探しているみたいでさ……困ってるんだよ」
天界がプリンセス・アウランの失踪を魔界による拉致と決め付け、新しく指導者を立てて戦争を起こそうとしているという。
「結局、アウランがいてもいなくても天界と魔界はぶつかり合う運命なのだろうか。悲しいなァ」
「そうと決まっている訳ではないだろう!きっと解決する方法があるはずだ!そうでしょう、ディアス様」
「様付けはやめてって言ってるでしょ!」
「あ、申し訳ない……」
「もーエクソーンちゃんったら真面目が過ぎるのヨ。私なんてナチュラルにディアちゃんって呼んでるワ」
「それよりこの問題を解決しないといけない。どーせー、なんかいい考えがあるんだよね?デぃーアぁスぅ」
「まぁね。解決法は一応あるんだ。それは――」
問題の発端がプリンセス・アウランの失踪にあるならば、プリンセス・アウランを返還すればいい。
そのためにはプリンセス・アウランの魂を元の彼女の身体に戻さなければならない。
「僕の力じゃ治せないけど、それを可能にできるものが『天魔界』にあるんだって」
「天魔界?」
天魔界、そこは天界と魔界の狭間にある世界で互いの不干渉地帯となっている地域である。
不干渉地帯となっているだけに、その地域の詳細は明らかになっていない。
「天界でも名前だけは知られているけど、全くのブラックボックス。どうしてそれがあると分かるんだい?」
「その剣の形状、そして材質。これは人間界にも天界にも魔界にも存在しないものなんだ。そしてその剣に彫られている紋様、天魔界で使われている文字と似ている」
「なるほど。そういうことか」
「天魔界への往来は魔力を持つものが通ることの出来ない結界が張られている。普段だったらどうしようもない状況なんだけど……」
「へっ?それって――」
ファウは思わず胸が鳴った。
今現在、魔力を発揮できない自分ならその結界をすり抜けて天魔界へ行くことができるのではないか――。
「それって私達は行けないの?ファウちゃんだけじゃ危険ヨ!!」
「残念だけど僕たちは落ちこぼれでも魔力を持ってるから無理だよー」
「一時的に魔力を封印する術でなんとかならないのか?」
「術自体が魔力を持ってるから無理だよー」
「むー、何かいい方法が……」
お払い戦隊は持ち得ない脳をフル稼働した。なんとか結界をすり抜ける方法を考えるものの、やはりそんな方法は一つも思いつかなかった。
「私が行くしかないんだろう?どちらにしてもコイツを戻さなきゃ大変なことになるんだったら、やるしかないじゃないか!!」
ファウは手を叩き、プリンセス・アウランが封じられた剣を手に取った。
パンパンと埃を払うように叩いてやると、剣が震え小さな声が響いてきた。
「くぅ~……オレのせいで大変なことになって。申し訳ねェ」
「お前、出てくるの久しぶりだな」
「情けなくって声が出なかっただけだよ。でもよォ、ここまでくると黙り込んでるワケにもいかねェだろ。協力するよ。オレ」
どうやらプリンセス・アウランは天魔界の探索に協力してくれるようだった。
ちなみにこの声はファウ以外の者には聞こえてはいない。
通訳するとそれとなくお払い戦隊もディアスも分かってくれた。
「それじゃあ決行は1週間後、アズマさんや学校には僕の研修に参加するってことにしておくから、単位や出席日数は気にしなくて大丈夫だからね。それと――」
無理は絶対にしないように、とディアスは言った。
別段、天魔界との往来は閉ざされてはいない。
行ったら目的を達成するまで帰ってこれない訳ではないのだ。
「問題が起きたらすぐに戻ってくるようにするんだ。分かったね?」
そうして1週間後、ファウが天魔界へと旅立つ日が来たのであった。