決戦!大魔界戦艦 コンセリーグ part.18
「いや、ちょっと待った」
走りながら、ファウはにわかに違和感を感じた。
『違和感』というよりも、何か大事なことを忘れているのではないか――。
「おい、お前達、何かその……忘れてることがあったんじゃないか?」
「えー、今になって何を言っちゃってるのー」
「そうよそうよ。今はココから脱出するのが最優先、忘れてることなんか忘れたままの方がイイに決まってるワ」
「その通りだ。さぁ急ぐんだ」
まるで気にするなとばかりにお払い戦隊は前を向いている。
この状況に置いて彼らの判断は至極真っ当であり、最優先されるべきはこの場からの脱出であろう。しかしファウには何かが引っ掛かっていた。
「うーん、何かなァ。大事なこと大事なこと……あァー!?」
急に大声が響いたので、流石にお払い戦隊の面々も只事ではないと振り返った。
「さっきから何なんだ!?」
「いや大事なことを思い出したんだよ。アレだよアレ」
「アレって何のことなのー?」
「あー、アレだ。何ていうんだっけ……」
「やっぱり忘れているようだな。思い出せないならそのままでいいだろう。早く行くぞ」
「いやっ、そうだ!アウランだ!!プリンセス・アウラン、アイツ置きっぱなしにしてきちゃってるだろ!?」
「それは大事なことだったな」
いや冷静になっている場合ではないだろう。彼らは姿は彼女のままだが人格が魔王ゼーラーに支配されていることに気をとられ、そして強くイメージに刷り込まれていたため、彼女がプリンセス・アウランであることなどすっかり虚空の彼方へと忘れ去っていたのだった。
正直、ゼーラーのことなどはどうでもいいが、プリンセス・アウランのことは助けなければならないだろう。
「アイツを助けるにはどうしたらいい?」
「まず本物のプリンセス……時間がないから以下アウラン様。アウラン様は剣に封印されている。そしてアウラン様の身体にはゼーラーが入っている。ということは何らかの術で中身を居れかえる必要があるだろうな」
「つまり魂を入れ替える術か。誰かできるか?」
「そんなことができたら、こんな落ちぶれ集団に入ってないよー」
「それもそうか」
この場での解決はまず不可能である。
それならばとりあえずゼーラーとアウラン様を外へ運び出して、そこから解決方法――なんとかできる人物に見てもらうしかないだろう。
「それでアテはあるのか?」
「…………」
「お払い戦隊の人脈にそんな大層な人物はいないワ。ファウちゃんは?」
「…………」
強大な権力を持つ父親、姉を凌ぐ魔力を持つ妹、役に立たない自称許婚……。
それに役には立つが魔力とは全く無縁な家畜達。
「ダメダコリャ。仕方ないなー、諦めるっきゃないか」
「いやディアスさんなら、なんとかできるんじゃないか?」
「おッ!!」
ディアスさん、本名を魔王ディアボロスという。普段は中性的な可愛らしいお兄さんを演じているが、実に彼女である。
そんな可愛らしく凛々しい彼女なのだが、その実体はやはり魔王でどす黒い暗黒の魔力を纏った骨の龍であった。
死霊の王を冠する彼女はその姿になると性格や口調は一転して粗暴になる。
ついでに死臭ともいうべき悪臭をばらまくので、高位の魔族でも彼女の前では涙を流して震え上がってしまう。
それだけの実力者である彼女ならば、きっとアウラン様のことも解決できるのではないだろうか?
「でーもー、今からアウラン様を連れてくるには来た道を戻らないといけないよ?」
「そうだ。我々にはもうそんな時間はないぞ」
「じゃあ見捨てて逃げるのかしら?いくらなんでもそれは……」
戦艦コンセリーグは動力を失い、残った力でなんとか持ちこたえている格好だ。
もちろんその動力が尽きれば本格的に墜落し地上と激突を起こすだろう。
その時点で脱出していなければ爆発と衝撃で一同、遺体も残らないかもしれない。
「ここまで来たらしょうがねェ。いやなんでそもそも最初からそうしなかったのか」
ファウが呆れるように呟いた。しかしながら、その答えは簡単なものだった。
「お前ら、今から本気で魔力をぶっぱなすから、その後始末は頼んだぜ」
「エッ!?あっ、あとしまつ!?!?」
「私の魔力を全放出する。俗に言うフルバーストだ。これをやると意識は保てないし後で動けるようになるのもいつになるのか分からない」
「いきなり何を言い出すんだ。そんなことできるのか!?」
「オンミョーン、ゼーラーを置いてきた部屋への向きはあっちで合ってるか?」
「うーんー。でもちょっと左かな。そのままやったらアウラン様に当たっちゃうよー」
「分かった」
オンミョーンが指差したほうへ、ファウは向き立った。
「魔力全放出でアウランの部屋から外までに一直線に穴を空ける。そこでアウランを抱えたら、そのまま脱出するんだ。あとは頼んだぜ」
「分かった。お前達、全力で駆け抜けるぞ。ファウは私とワイパーン、アウラン様はキャシャーンとオンミョーンで抱えていくんだ!いいな!!」
手筈を決めると、ファウは大きく息を吸い込み、全身の力と魔力を一点に集め、そして一度に大放出した。彼女の持ち得る全ての力、強い意志は混ざりあい、そして反応を起こして、強力な破壊の光となった。
光は収束すると瞬く間に解き放たれ、まるで洪水のように壁という壁を押し壊し、やがて天の彼方へと伸びていった。