決戦!大魔界戦艦 コンセリーグ part.17
勝負はついた。
オンミョーンのお札で完全に動きを封じられたゼーラーを、波頭のヤリでポンと叩くと彼女が纏っていた防御系魔力は全て四散し完全に無力化したのだった。
更にファウは散らばっているオンミョーンのお札を拾い集めた。
集めたお札を縄状に繋ぎ合わせ、手足を縛ったうえで何重にも何重にもしっかりと縛り上げたのだった。
これだけやれば簡単には外れないだろう。
ゼーラー本人も白いお札を前身に張り巡らされ、まるでミイラのようになっている。
目元も閉じられ眠ったように静かだった。
「これだけやっときゃ大丈夫だろ」
「もし動き出したらどうするんだい?」
「そんときゃ今度こそ私だけの力でやっつけるよ。今回だって私の力で倒したんじゃない。アイツらとお前の助けがあって倒せたんだから」
「へぇ。意外に謙虚だね。見直したよ」
「へっへー!ってお前私をなんだと思ってたんだよ」
今やゼーラーには強力な魔力の結界、封印がなされているのと同義である。
もしもこれが破壊・解除されるようなことがあるならば、とてつもない力が発散されることだろう。
そうなれば必然的に周囲に多大な影響を与える。それが起こっていないということは、今は危機的状況にないということになるのだ。
「さてコイツらを復活させてやらないとな。金目のものが必要なんだろ。どれくらい必要なんだ?」
「そうだなァ。一人頭35兆くらい?3人合わせて100兆、あとの15兆は割引サービスってところさ」
「ひゃ、ひゃくちょうだァ!?」
とてつもない金額である。
そんな金額は見たことも触ったことも聞いたこともない。
「まぁ死者を生き返らせるのを単独で行うとそれくらいにはなるさ」
「うーん、まぁとりあえずココで金になりそうなものでも探そうか。なんとか1人くらいを瀕死程度にはできるんじゃないか」
そうしてファウとキャシャーンは2時間ほどコンセリーグを荒らしまわった。
元々天界の城を空飛ぶ戦艦に改造しただけあって、多少は金目のものが置いてあったが、そんな用途で使われているだけに金銀宝石の類は殆どなかった。
置いてあるとしたら天界の倉庫であろう。
「もう全部探し回ってようやく集めたぜ。これだけありゃ私の欲しいものは結構買えそうだなァ」
「価値がありそうなのはそこの魔法石や剣、鎧盾あたりかな。ほかは価値が分からないからやってみないと分からないね」
「とりあえずこれでやってみろよ。ダメだったらコイツを動かして天界の金品を頂戴しよう」
集めた金品を広間に集めて、キャシャーンは呪文を唱えた。
宝物は強い光を放つ。金色の光、青白い光、明るい橙色の光。
虹のように様々な色の光が力強く輝き、
「おおっ!?」
思わずファウは目を瞑った。
そうしている間に、光を放った宝物は段々と光を失い、更には色をも失い、最後にはただの石ころと化した。
「うう……」
まばゆい光が収まった大広間に、かすかなうめき声が響いた。
「おっ!?これはまさか」
ファウが目を丸くして見る先にはエクソーンの手があった。その手は何かを掴もうとするように小さく動いている。
それは並んで倒れているオンミョーンとワイパーンも同様だった。
「まさか、いやこんな程度のもので成功するなんて……奇跡としかいいようがないなァ」
「奇跡なんかじゃねェだろ!私が言ったんだよ。ムダな訳がないじゃないか!オイ、お前ら生きてるか!?」
ファウが歓喜に満ちた表情で3人の頭をボカスカと叩き始めた。
「いたい、いたいぞ。何をするんだ。まったく……」
特に人格障害や後遺症もないようだった。まだ意識が完全にはっきりしていないようで、立ち上がることはできないようだったが、今のところ、死者の蘇生には成功したといってもいいだろう。
「やった!!やったぜお前達、よくやったよ!!」
「むー」、頭がフラフラするぅ。今まで一体なにがあったの?記憶がぼやけててぇー」
「よっしゃ。その後の説明も兼ねてファミレスで祝勝会をしようぜ!その時のためにコイツを残しておいたからさ」
ファウがポケットから取り出したのは金色のインゴットだった。いかにも豪華に輝く表面には天界の紋章らしき絵と文字が彫られている。
「やっぱり少しちょろまかしてたんだね。まったくどうしようもないなァ」
「へへっ、終わりよければすべてヨシ!だろ。上手くいったんだから、コレでうまいものを食えるだけでも、大儲けだと思わねぇと……」
そう大見得を切った直後、ドカン、と艦が大きく揺れた。
「なんだ!?」
一瞬、ゼーラーが息を吹き返したのではないかと思ったが、これは魔力の暴発による揺れではない。
物理的な爆発。衝撃であった。
それと同時にけたたましくアラームが鳴り響いた。
「緊急事態発生!緊急事態発生!動力が停止致しました。動力が停止致しました。本艦の航行続行は不可能、繰り返す~」
天井には赤いランプが灯され、いかにもこの状況が危険であるということを示している。
「なんだなんだ?動力が停止って、私らなんか悪いことでもしたっけか!?」
「もー、ファウが金のインゴットをネコババしようとしたから、この艦の動力が止まったんでしょ」
「そんなことで戦艦の動力が止まるわけねーだろ!!、お前ら私が見てない間に何かいじったんじゃないのか!?」
「何もしてないぞ。そもそも今、息を吹き返したばかりじゃないか」
さすがにお払い戦隊の蘇生が動力の停止のスイッチであるとは考えにくい。
それでは一体何が引き金で動力の停止が起こってしまったのか。ここまでで、ファウ達が行ったことといえば――
『お払い戦隊の蘇生』
これしかない。いや、それはエクソーンたちが生き返ったこと事態が原因ではない。原因なのは、
「ファウ、あれを見るんだ!!」
エクソーンが指差す先には、石化した巨大な装置が煙と火花を吹いて置かれていた。
『置かれている』というよりは部屋そのものに組み込まれていると言ったほうがいいだろうか。
まさしくあれが戦艦コンセリーグの動力部であったのだ。
「なるほど!戦艦コンセリーグの動力部をコストにしたから巨額な復活費用を賄うことができたんだ!!」
ポンとキャシャーンが手を打った。さっきまでどうやっても解けなかったなぞなぞが、一気に解けたような曇りのない表情が浮かんでいる。
「って、そんなこと言ってる場合じゃないだろ。アレはなんとかできないのか!?お前の復活の術でパパーっと、とかさ!!」
「いやー、さすがに生きてもないものを生き返らせろったってムリだよ。そもそもコストとして使ったから石になっちゃってるし」
「お前達、言い争っている場合じゃないだろう!!はやく脱出しなければ……!!」
一同、外を求め――
すたこらさっさと必死に廊下を駆けて行った。