爆弾を解除せよ!魔界イースト高等学校、爆破全壊の危機!! part3 ~ 終
ガラン!と力任せに職員室の扉を開いた。
職員室では先生方が会議の資料を纏めていたり、今後の予定を確認している。
扉を開く音が大きかったので、先生方は扉の方へと注目した。そしてその人物を見るなり、驚いたように目を丸くした。
「おいおい、そんな目で私を見るなよ」
と言いたいがそんな場合ではない。ファウはゼンソク先生の机へと無言で向かった。
やはりゼンソク先生は机に就いていた。
「む?ファウじゃないか。私のところに来るなんて……何か嫌なことでもあったのか?」
今日まで職員室に……しかもゼンソク先生のところへ来るなんて初めてのことだった。
1秒ですら顔を合わせたもない相手に、こうして向かい合うなんて一体どうしたことだろうか?ゼンソク先生はそう思っているに違いない。
「あー、それがですね」
思わず敬語を喋ってしまっているファウである。こんなことも初めてである。
ゼンソク先生は気持ち悪そうにそんなファウを見つめている。
「お前、なにかやらかしたな?生意気なヤツが急に敬語でやってくるのはそういうのが多い」
「ギクッ!?」
「図星か。まぁ、私のところに相談に来たことはお前にしては上出来だろう。助け舟は出すから、言ってみなさい」
「うー、その、机の中に……」
本当ならそのまま放っておいてやりたいところだが、さすがに状況が悪すぎる。
ここで逃げたら『イースト高等学校』はロックリバーのエロ本爆弾で大爆発を起こし、多数の犠牲が出てしまう。
文章に起こすとあまりに意味不明で情けない事件だが、それにファウが関わっているとなると、余計に情けないのだ。
バレたら情けない事件の関係者として『現代魔界史』に載ってしまうかもしれない。それだけは避けなければならない。
「この引き出しか?どうした」
ファウが指差した引き出しをゼンソク先生は空けてみた。中には筆記用具が入っている。
「……あれ?」
ファウは目を見開いてそれを確認した。
ない!!のである。自分が仕込んだはずのエロ本爆弾が姿を消していた。
「なんの変わりもないようだが……」
ゼンソク先生が怪訝な顔でファウを見ている。当のファウですら困惑している事態である。
(アレ?私、確かにそこにエロ本を入れたよな。なにかの勘違いだったのか?もしくは夢?)
汗がだらだらと流れている。ここにエロ本がないとするならば、考えられることといえば、
・ロックリバーのアホに騙された!!!!!!
このことである。
カッ!!と熱くなって、ファウは職員室を飛び出していった。
「あっ、おい!ファウ!!」
後ろでゼンソク先生が呼んでいるが、そんなことはどうでもいい。一刻でもはやくロックリバーをとっちめなければならないのだ。
「このヤロー!よくも騙したな!!」
「あっ、戻ってきた。無事回収できたのかい?」
ロックリバーのアホは先ほどと同じ場所でベンチに座って待っていた。
「お前、私を騙したな!!実は先に自分で回収してたんだろ!!お前のせいで赤っ恥だぜ!ぶっころす!!」
「えっ、ちょっと待って。なんのこと!?」
先ほども説明したとおり、ロックリバーは分身である。分身なので、殴り倒されたり、即死級の攻撃を受けても本体には全く影響はない。
影響はないのだが、この時のファウには鬼気迫るものがあったらしい。
当たらない、当たるはずもない攻撃でも、勢いに押されれば思わず怯んでしまうことがある。
ロックリバーは死を覚悟した。分身なのに死を覚悟した。
「ファウくんの探し物はコレでしょ?」
不意に声がして、ファウは思わず掴んでいたロックリバーの襟首を離した。
ロックリバーが床に倒れたそばで、キョウティが本を持って佇んでいた。
「あれ、キョウティ、なんでお前がその本を持ってんだよ」
「ファウくんが変なことをしてるのを見たから、どうせ悪いことだと思って回収しておいたの。キョウティ、エラいでしょ」
キョウティは薄い胸を張っている。なるほど、ファウがゼンソク先生の机に仕込んでいたのを見て、それを回収していたようだ。
それなら今し方、見てきたところでエロ本が入っていないのも納得できるだろう。
さて……それはそれとして、問題なのは、
「おい、バカ!コレ、爆弾はまだ生きてんだろ?解除しろよ、おい!!」
「…………」
「のびちゃってるね。ファウくんがすごい勢いで脅しかけるからいけないんだよ。キョウティ、しーらない」
キョウティは呆れながらに行ってしまった。
気絶しているロックリバーを2,3発ひっぱたいてみたが、やっぱり起きなかった。
「ちくしょー!どうすんだよ。コレ、ここで取れる方策は……」
1.自力で爆弾を解除する
2.爆弾を何処かに吹っ飛ばす
3.逃げる。
思いつく限りでコレである。
1に関しては爆弾の解除方法なんて分からない。映画や漫画ではエラくメカニックな爆弾が登場していたのを見ていたことがあるが、魔界では機械文明はそこまで発達はしていない。
魔導人形としてマシンゴーレムを作り出すマニアがいるくらいである。手間もお金もかかるためそれで兵団を作ろうなんて考える奴はいない。
今回の場合、エロ本に仕掛けられているのは魔法のようだった。爆発系の魔力を感じるのだ。
爆発系魔力を消去させるには、同程度の爆発系魔力をぶつけて相殺するか、もしくは強力な魔法消去で魔力そのものを消してやるのが良いのだが、パワー系魔王少女のファウにはそうした魔法への興味は持ってはいなかった。
もっぱら必殺技ばかり考えているのだった。
同程度の爆発系魔力をぶつけて相殺するという手法に関しては一応出来なくはないが、イースト高等学校の校舎とその周辺は無事では済まないだろう。
これでは爆発したのと一緒である。
「仕方ない!!コイツを爆弾と一緒に吹っ飛ばして、解決するしかねーな」
ということになった。
気絶しているロックリバーの腰部分にエロ本爆弾を括りつけ、ついでに外れないようにベルトをきつく締めなおしてやった。
そして、外へ運び出すと、
「方角は……あっちだな。あとは――」
『必殺!ビッグバンバンのマーチ』 作詞・作曲 ファウ・イースト
響け雷鳴!燃える思いコメットブースター
迷い星 蹴散らし! 越えろビヨンドザタイム!!
屁理屈OK!なんでもアリさ!いきなり歌詞が出てきても!!
一切!合切!気にすんな!!
ビッグバン! ビッグバンバン!! ビッグバンバカバーン!!!
オーバーザワールド!越えてゆけ!!世界の全てを!!
以上が歌詞である。ファウが1ヶ月は寝る間を惜しんで考えた歌詞である。
頑張って歌って欲しい。
歌詞が響き終わるや否や、ロックリバーは『ビッグバンバンバーン!!』によって、東の方へと吹き飛んでいった。
こうしてイースト高等学校は卑劣な爆弾の脅威から守られたのであった。
しかし、そのことを知るものはファウ本人と、程なくして忘れたキョウティくらいであった。
そして、最後にそれを知らないものとして爆弾によって破壊されたトーク城があったのだった。