決戦!大魔界戦艦 コンセリーグ part.16
大見得を切ったものだがここまでの戦い。ファウは2回戦って2回ともゼーラーに負けている。
同じように戦ったところで勝ち目などは到底見えたものではないだろう。
「アイツらのためにも、何としてもアイツをぶったおしてやるからな!!」
気合だけは十分に入っているがそれだけでは精神論、勝つための根拠にはならない。
「それでもやるっきゃないんだよ!!」
ファウは拳を握り、ゼーラーへと飛びかかった。
ゼーラーの防御用魔力は既にない。ファウの打撃ならば、一発当てればゼーラー……もといプリンセス・アウランの細腕に折れるだろう。
胸にあたれば肋骨は粉々に砕け再起不能。腰から下に当たれば二度と歩行はかなわない。
つまり致命傷になるのだ。
(一発でも当てれば……)
それを狙って無数の連打を繰り出した。
数は多いだけに一発一発は非常に軽い。ただし命中率に関しては非常に高く、大なり小なり相手に手傷を負わせたい場合には有効なワザである。
ファウはそれを『流星群』と名づけている。
並大抵の相手ならば何も考えなくても8,9割ほぼ全弾が命中しているのだが、今回の相手は伝説の魔王である。
前述の通り防御が脆い状態であるだけに、何とか1発を当ててやりたいところだが――
「ハハハ、さっきと変わってないじゃないか!当たらない魔弾も数撃てば当たるというが、あれはウソだ」
当てる意志のこもっていない弾は当たるつもりのない的には決して当たらない。
特にそれが格段に実力を持っている相手、実力差であれば尚のことと言えよう。
この状況、ファウがゼーラーに打撃を当てるならば、
「ファウが100戦練磨のツワモノ」
である必要がある。読者諸君の見たところ、今のファウにそんな実力があるだろうか?
恐らくそんな風に思う読者はいないことだろう。
将来的、この戦いを乗り越えた先ならば、そうしたこともあるだろうが……
今のファウにはそんな実力は到底ない。
つま今の事態を打開することは「100%できない」ということになる。
しかし……しかし、ファウは諦めずにゼーラーへと立ち向かっている。
何か考え、策があるのだろうか?
だが時間が経つにつれて、ファウの呼吸は次第に荒くなっている。
「もうバテてきているな。それもそうだ。キミは私と3回も戦っている。あぁ、偉大な勇者でさえ私と戦うのは1度っきりのことだ。それも圧倒的な力の前に倒れる。そうだろう?」
「へっ、それなら私にだってお前を倒すことができるじゃないか」
「話を聞いていなかったのか?勇者は私に打ち倒されているんだよ?」
「都合の悪いことは忘れちまったのか。アンタ、勇者に負けて封印されてるじゃないか」
「…………!?」
ゼーラーの言葉が詰まった。その昔、自身が封印された時のことを思い起こしたようだった。
状況はあの時と似ている。勇者とその仲間を簡単に打ち倒した。
自身にダメージはほぼなかった。勇者はなんとか手傷だけでも与えようと光の剣を振り回していた。
諦めずに――諦めずに。
「諦めずに……!?」
思わず勇者の面影がファウに重なった。
「思い出したか。顔が強張ってるぜ。さて、その後どうなったんだっけか」
「…………」
勇者にとどめを刺せば戦いはゼーラーの勝利に終わっていた。
人間界、魔界、天界、その全てを手に入れられるはずだった。しかしそのような歴史は残されはしなかった。
なぜなら――
「勇者は自分を、そして仲間を信じていたから」
ゼーラーに勝利はなかったのだった。
一体何が起こったのか?きしくも、状況は重なりつつあった。
ゼーラーの足元、コンセリーグ艦橋が光を放ち始めた。
「これは!?」
光っているのは床全体だ。床には特に発光するような仕掛けは施されてはいない。
この場合、床を光らせているのは魔力であった。
それならば一体何の光!?魔力なのだろう?
この艦橋、戦場を真上から見てみればその光の正体は瞬く間に判明する。
「フダ?あの陰陽師のガキがばらまいた札か!?」
そうだ。オンミョーンが絶命前に操っていたお札の龍、あれはただ闇雲にゼーラーを追い詰めていたわけではなかったのだ。
お札の輝きは命の輝きである。お札は五芒星を描き、白く輝いている。
そしてその中心に、今、ゼーラーは置かれているのだ。
ファウはそれに気付いては居なかった。
気付いたのはキャシャーンだった。何しろもっとも身近な仲間なのだ。考えや狙いが分からない訳がないだろう。
それをこっそりファウへ伝えたのだった。
図らずしてファウはゼーラーへ無数の打撃を打ち込むという、ゼーラーの注意をファウ本人へと向ける戦法を取っていたことが幸いして、ゼーラーはこの状況に気が付くことはできなかったのだ。
「くそっ!よくも!!」
オンミョーンの残したお札は強力な魔力で相手の自由を封じる効果を持っていた。
しかもその効果が一番強い場所、五芒星の中心に置かれたゼーラーは幾重の光に縛り付けられ、これ以上動くことができなくなっていたのだった。