決戦!大魔界戦艦 コンセリーグ part.14
「やっぱりか……」
これでファウはゼーラーから2発の打撃を貰ったことになる。打ち込み自体は非常に簡単なものである。
なにせゼーラーはプリンセス・アウラン、年齢にして14歳程度の子供のものだ。
そんな子供が17,8歳程度の年齢の女子高生に殴り掛かったところで、軽くいなされるのがオチだろう。
しかも空いてはファウである。そんじょそこらの女子高生とは全く違う。大の魔族でも喧嘩では敵わない大魔王の娘である。
そうした事情があり、傍目にはファウは大したダメージを負っていないように見える。しかし……
それは大きな間違いだ。
「ファウちゃん、あんな攻撃ぐらいで……遊ばれてる?」
「違うね。僕達にはアウランがファウの背中を押して転ばせたように見えてるけど、実際は――」
「…………」
魔力を持つものが見れば、ゼーラーの腕を赤色の魔力が覆っているのがハッキリと見えるのだ。
赤色の魔力は破壊の魔力。
衝撃を与えれば魔力がパワーを増強、大拡散させ対象を跡形もなく打ち砕く!!
ファウとゼーラーの戦いの中でその魔力を見ることが出来ているのはエクソーンとオンミョーンだ。
しかしそれでもオンミョーンは魔力の種類……すなわち攻撃力増強程度にしか認識できてはいなかった。
上記の通りにゼーラーの魔力を認識できたのはエクソーンだけだった。
それが故にエクソーンは一つのも言葉を発することができなかったのだ。
「ファウちゃん、あんなのに負けないで頑張ってー!!」
事実を知らず、応援しているワイパーンはのん気なものである。一方で、
(どうするべきだろうか?)
沈黙しつつ、迷っているエクソーンだった。どうする?というのは、
『助けに入るか否か』のことである。
助けに入れば当然、ゼーラーに敵と見なされファウと同様、もしくはそれ以上の打撃を受けることになるだろう。
エクソーンはファウほどに頑丈にできていなければ戦う力も持っていない。
あんな打撃を受ければ衝撃で脳が破壊され即死する可能性は高いだろう。
ならばどうするか?
そんなのは決まっている。このまま奇跡が起こることを祈りながら見守るだけだろう。
見守る。見守ると言えば聞こえはいい。しかしそれは正しく言えば「見捨てる」ということになる。
「それでいいのか!?」
エクソーンは思わず叫んだ。他の3人がぎょっとしてこちらを向いている。
「これでいいのか!?」再度叫んだ。いや、いいはずがない。
ファウを見捨てれば自分を含め、他の3人の命も助かるだろう。
それだけではない。ゼーラーは自分達を味方として扱い出世を約束してくれるかもしれない。
そうなれば落ちこぼれから一気に貴族、支配者階級へと大昇進だ。こんなチャンスは人生で1度あるかどうか――
宝くじを当てたような栄光が転がり込んでくるのだ。そうしない選択肢はないだろう。
しかし……
そんな栄光にも陰が落ちる。
ファウを見捨てたという事実がいつまでも残り続けるのだ。
そんな未来を、お払い戦隊の誰もが望んではいなかった!!
「お前達――」
分かっているな?と問いかける前に、キャシャーン、オンミョーン、ワイパーンの3人は頷いていた。
手にはそれぞれの武器が握られている。今こそ、命を投げ出してまで戦いに出る準備ができているのだろう。
わー、とトキの声が響いた。勇ましく地を駆ける音がゼーラーへと迫る。
「む!?」
今まさにファウにとどめを刺そうとしていたところだけに、ゼーラーは不意を突かれた。
あんな落ちこぼれに反逆する勇気が備わっているとは欠片も思っていなかったうえに、まさかこちらに殴りかかってくるとは夢にも思ってはいなかったのだ。
「このォー!!」
モップを構えたワイパーンが目の前にきた。しかしファウの攻撃ですら避けてしまうゼーラーにワイパーンの攻撃が当たるわけもなく、振り下ろしたモップは空を切った。
「避けるまでもなかったが……その掃除用具、汚いからね」
「ひっ!?」
後ろから声がした!?と思ったら、ワイパーンは絶命していた。
魔力の刃で首を掻き切られたのだ。即死であろう。
それを見て思わずエクソーンが逆上してしまった。
もうゼーラー以外の何者をも彼の目は捉えては居なかった。ビーカッド66を撃破した剣を手にゼーラーへと迫る。
「さっきのヤツと同じか。さすがだな。考える頭も持っていない」
「同じ、というのは嬉しいな。アイツは掛け替えのない仲間だったからな……だが――」
同じようにはやられない!!ゼーラーの声に間髪のところで冷静さを取り戻したエクソーンが、即座に呪文を繰り出した。
「これは……」
あまり活躍する部分はなかったがお払い戦隊はもとは悪魔祓い集団であった。魔界にやってきたのもその力を生かした破壊活動のためで、その活動はファウによって阻止、その後には魔王ディアスのもとで働くこととなったが悪魔祓いの力は失ってはいなかった。
エクソーンが唱えた呪文は相手の動きを封じる呪文だ。
ただしどんな相手でも封じることができるというわけではなく闇の属性を持つもの……すなわち悪魔にしか通用しない。
「この呪文は5秒しか通じないが……」
「へぇ5秒か中々や――」
まさしくゼーラーの動きが止まった。5秒、一言でいえば短い時間だが相手に致命傷を与えるには十分すぎる時間だ。
ワイパーンのカタキ!!思いを込めてエクソーンは剣を振るった。しかし――
「おいおい、それをやったらアウランは死ぬな。それでいいのか?」
「!?」
エクソーンは一瞬戸惑った。
自分が倒そうとしているのはゼーラーだ。一方でその身体はプリンセス・アウランのものなのだ。
このまま行けばゼーラーもろともプリンセス・アウランも殺してしまう。
「くっ……!!」
迷ったがこのままゼーラーを放置することはできない。意を決してゼーラーを打とうとしたところで……
「ぐうっ――」
急に胸が熱くなるのをエクソーンは感じた。何が起こったかは分からない。そのままいけばゼーラーの首へ剣が差さっているはずであった。だが現実はそうなってはいない。
剣が刺さっている。刺さってはいるが、それは魔力の剣で刺さっているのはエクソーンの胸、心臓であった。
「なにっ!?」
未だ呪文をかけてから5秒は経っては居ないはずだ。ゼーラーは動けない。エクソーンを攻撃できるはずがない。
ゼーラーの言葉に戸惑ってしまったことでタイムロスをしたのか?
必死に原因を探してもそれくらいしか思い当たらない。
アウフフフ、とゼーラーは笑っている。
「せっかくヒントを与えてやったのに分からないのか。やっぱり考える頭を持っていないじゃないか」
ヒント?5秒動きを止める呪文を無効化するヒントをゼーラーは口にしていただろうか?
『それをやったらアウランは死ぬな。それでいいのか?』
『アウランは死ぬ』
『アウラン』
(そういうことか……!!)
確かにエクソーンの呪文は効果を発揮していた。それはゼーラーが魔王、つまりは悪魔であったからだ。
その効果を解除するには悪魔であることを消さなければならない。そう、
『瞬時にプリンセス・アウランの魔力を纏ったのだった!!』
ゼーラーのもともとの魔力の放出を止めれば、エクソーンの呪文は効果を失うだろう。
しかし動きを封じられている状態ではそれを行うことはできなかったのだ。
だからゼーラーは代わりに別の魔力を放出してエクソーンの呪文を無効化したのだった。
「アウランの魔力を纏っている私を殺せば魔力の持ち主であるアウランも死ぬ、ということだ。まぁお前達にはそんなこと知ったことじゃなかったか。アウフフフ!!」
「勿論、それくらいのこと知っているよ」
不意にゼーラーの背後から声が響いた。振り向くと同時に、ゼーラーの手から光の剣が伸び、その声の主の眼前へ迫った。
「ギリギリセーフ。背が低くて助かった。どーせー、こんな身体的特徴が生きるとは思ってなかったけど、まさかこんなところで」
「まだ生き残りが居たのか。存在感がなくて気が付かなかった」
オンミョーンの手が開かれる。その両手には5枚ずつ、計5枚のお札が挟まれている。
その手からお札がゼーラーへと向けて飛ばされた。投げる素振りも強い風が吹いている訳でもないのに、お札は鋭い刃のようにゼーラー目掛けて飛んでいった。
「チッ!!」
この近距離では飛び掛るお札を避ける、もしくは切り払うことは困難であろう。
ゼーラーは後ろへ飛び退いて距離を取り、光の魔力を壁として作り出しお札を弾いた。
「どーせー、僕の作ったお札なんか大したことないって思ってるでしょ?そのまま受けても良かったんじゃないの?」
「アウフフ、お前達を少し侮っていた。だから不用意に当たることもないと思ったのさ」
背後から続けて放ったお札が迫るのを、前へに走りかわした。
四方八方から放たれるお札はまるで龍のように群となった。こうなればちょっとやそっとの光の壁ではもはや弾くことはできないだろう。