決戦!大魔界戦艦 コンセリーグ part.13
「なるほどな……」
話を聞き終えてゼーラーは興味深そうに頷いた。
自身の魔力を打ち払った宝具が目の前にあるのである。
普通なら慌てふためくところだろうが、そんな様子はまったく見せない。
まぁ、そうだよな。とファウは胸のうちで舌打ちをした。
いくら自身の魔力を打ち払ったとはいえ、やはり道具は使い手を選ぶのである。
伝説の武具を揃えていても、使い手が猿では兜さえ鈍器として使うだろう。
「たあっ!!」
ファウが波頭のヤリをゼーラーへ叩き付けた。
びぃんと打ち込むや、青色の波動がゼーラーの腕を伝わり、彼を覆っている防御用の魔力を吹き飛ばした。
(コイツがアレか)
あの時、ファウの攻撃を受け止めた防御結界だ!!
これなら好機だろう。もう彼を覆っている防御魔力はない。
さっとヤリを引くとファウは渾身の力でゼーラーの心臓を目掛けて、ヤリを突き入れた。
「ぐうっ……」
唸り声をあげるゼーラー。あの時とは違い、ちゃんとダメージは入っているようだ。しかし、
「ファウ、君は魔力よりも力に自身があるんだった」
ゼーラーの身体が持ちこたえている。倒れてはいない!!
「そのヤリの力で私の防御魔法は消えた。今なら、君の得意な殴打がよく効くだろう。だが……」
何やらぶつぶつと小言を呟き始めた。分かる魔族ならば、それが呪文であることが理解できるのだが教養のないファウにはただの独り言にしか聞こえなかった。
構わずに槍を叩きつけようとするところへ、
「消えた魔力は戻らない。が、まだ魔力は残っている」
目にも留まらない疾風だ。ファウには瞬間移動したようにしか見えていない。
槍を空振った勢いのまま、ファウは倒れそうになるのをなんとかこらえ、ゼーラーの姿を見た。
色の付いた魔力を纏っているのがファウでも分かる。
色は全部で3色だ。
赤色、青色、そして緑色である。
赤色からは力を感じ、青色からは風のような軽やかさ、緑色は温かい生命力だろうか?
察するに攻撃力、素早さ、回復能力を向上させているようだ。
先ほど消滅させた防御力を向上させる魔力と同様に、身体能力を上昇させているならば非常に厄介なものである。
「…………!!」
ファウは無言で正面から槍を叩き込んだ。――と見せかけて、ゼーラーに迫ったファウの姿は打ち込まれる寸前に煙のように消え去る。
「小細工か」
正面からの一撃を避けるまでもなく受け止めるつもりだったゼーラーだ。怯む姿勢など欠片もない。
ファウは背後に回っている。狙うは一撃、心臓だ。
「はあっ!!」
気合声を発し渾身の一撃を叩き込もうとした。相手は反応できていない。反応できたとしても、回避行動をとるにはもう間がない。
もらった!!とファウが思った。しかしその瞬間、
(――後ろ!?)
急に背後に気配を感じて身体が止まった。同時に前へ目をやるとそこに居たはずのゼーラーが消えている。
ということは背後にいる気配はゼーラーである可能性が非常に高い?
そう思ったところでファウは前へと走った。後ろを振り返る暇もない。
もしも振り返ったものならば、それだけ隙が生じて致命傷を受けかねない!!
何度も言う。ファウは背後をとられているのだ!
しかしそんな心配も無用だった。
「なっ!?」
気が付いた時には既に目の前にゼーラーが立っていた。しかも額に指を当てられている。
不思議と人は額に指を当てられるとそれより前に出ることができない。
それは人間とは違う魔族においても同様のことだった。
ゼーラーの指先から波動が生じた。
「ぐあっ!!」驚くこともできずにファウは大きく吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられてようやく驚くと同時に痛みが走った。
(後ろに居たはず?いや正面、瞬間移動!?)
瞬間移動には移動先に魔力を生じるのが一般的である。魔力の扱いに不自由なファウでも魔力の検知については相応に可能だ。
そんなファウでも魔力は感知していない。ということは魔力を用いた瞬間移動の移動ではない。とすると――
(身体能力、実力によるものか!!)
至極単純な答えになる。身体能力によるものならば、言うなれば『高速移動』の一言になる。
「確かにポインター指定に魔力を使ってはいない。しかし移動能力向上に魔力を使っている」
ゼーラーが言った。
その瞬間にすら、ゼーラーは10mもの距離を1秒も掛からずに詰めていた。
「ほらチャンスだろ?今の私は防御増強魔力を失っている。ファウの渾身の一撃を当てれば倒せるぞ」
「わざわざそれを言うかよ」
ファウのすぐ背後から声がした。振り向くこともなくそのまま高くハイキックを仕掛けた。
ブン!と鋭い音が響くも、その後に続くはずの渇いた音は立たない。
「遅い遅い。ファウの攻撃なんて当たらない」
鳴ったのはゼーラーが後ろへ飛んだ足音だけである。
「アウフフ、そんな大当たりを狙わなくても簡単なパンチでイチコロだよ。なんせ身体だけならアウランのものだからな。あ、そうだ。アウランの身体に致命傷が当たったらアウランの身体は死ぬな」
ゼーラーは思い出したように言った。
ゼーラーはプリンセス・アウランの身体を乗っ取って今に至っている。彼女の身体は生者そのもので死者ではない。
つまりプリンセス・アウランの身体に致命傷を与え、最悪、死に至らしめた場合、ゼーラーは死亡するのだ。
この物語がゼーラーを倒すことが目的ならば、それで話は解決するだろう。
だがそうなった場合、終わることが出来ない問題が『一つ』存在する。
「ちぃ……」
ファウが舌を打った。その問題をなんとか解決してやりたい気持ちがあるが。この状況・実力差では最善策となるのは、
「プリンセス・アウランの身体もろともゼーラーを倒すこと」
なのであった。
しかし迷っている暇もない。
「でやあっ!!」
槍を上段に構え、リーチを伸ばしつつ、ゼーラーへと打ち込んだ。
ムダだよ。と小さな笑い声が響くと、ファウの体が前のめりに倒れた。
攻撃に出ていたのに、である。目の前に居るぜーラーは瞬時に消えて、後ろから背中を押されたような強い衝撃が身体に響いた。