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決戦!大魔界戦艦 コンセリーグ part.12

「おーおーよくやった。お前達ぃ、やればできるじゃないか。感心したぜ」

 

 上機嫌なプリンセス・アウラン、もとい魔王ゼーラーである。

 ぱちぱちと軽やかな手の音がまるでタンバリンのように響いている。


「見ていてくださったのでありますか。光栄であります」

「ああ見ていたさ。映画を、な」

「…………」


 思いも寄らない返事だった。一同は足を崩して倒れそうになったがなんとか持ちこたえ魔王ゼーラーの前で凜として立っていた。

 はっはっはと楽しそうに笑っているのを見ると、どうにも悪いようには思っていないらしい。

 しかし心配なのでエクソーンが恐るおそる自分達の戦況について尋ねてみると、


「一部始終といったところだ。なんだお前ら、全部観ていて欲しかったのか?悪いがお前達の戦いなんて、ナメクジの決闘と同じだ。面白いか?そんなものを観ていて……」


 ナメクジの決闘なんて見たことはないが、そんなものを見ているくらいだったら、米でも炊いたほうがまだ時間の節約である。

 こうも言われると到底反論もできない。そもそも相手が強大すぎる魔王ゼーラーでは反論どころではないのだが、せっかく命を懸けて戦ったのだから、何かしらのお言葉を頂きたいところであった。

 何もいえない時間が続く。そこへ突如、

 

「はいはい!!」

 

静けさを破る掛け声が響いた。

 

「驚いたな。なんだファウか。君はあの戦いで姿を見せていなかったようだが、一体何をしていたんだ?」

 

「そりゃあアレですよ」

「トイレか」

「違いますー!違いますって、私の戦いなんてつまらないものをゼーラー様にお見せする訳にはいかないでしょう?」

「どういうことだ?」

 

 魔王ゼーラーが怪訝な表情を浮かべている。

 表情自体は可愛らしいプリンセス・アウランのものだが、その表情から醸し出される威圧感は彼女のものではない。

 威圧感。そうもはや威圧感を発しているのだ。

 もう少し不快や不満を感じたならば、何も言わずして相手を倒してしまいそうな、そんな強烈な寒気を伴う威圧感。

 それがファウに向けられている。ファウもそれには気付いている。もとよりそのつもりで、

 


「もうアンタに従う気なんかないってことだよ。おい、お前らもそうだろ?」

「そ、そんなこともも毛頭も思っては……そもそもファウ、お前ゼーラー様に逆らうのか?ゼーラー様はお前なんかより絶対的な力を持っているんだぞ」

「それを覆してやるのがオツってもんだろ。確かにゼーラー様は私の憧れだった……」


 ゼーラーは伝説の魔王である。マンガ以外の本を読むことが大嫌いなファウでも、ゼーラーに関しての本は集中して読むことができたのだった。

 彼の持つ魔力は全てを屈服させ支配した。力による支配、子供ながらにファウが持つ魔王そのものだったのだ。


 単純な思想、単純な考え。


 単純だからこそ分かりやすく、ファウの胸も大きくときめいた。

 今日この、あの瞬間までは……。


「アンタは確かに強いが、私が目指しているものとは違ったんだ。魔界の支配は面白いけど、私はな……今の魔界が大好きなんだよ」


 ファウの故郷、魔界イーストにはダルさなら一番の学校だってある。面倒な父親もいる。鬱陶しい幼馴染に意外に強い猿山もいる。

 そんな魔界を力づくで破壊して支配しようとは、今のファウには思えなかった。

 まだまだ魔界は捨てたものではない。ゼーラーの野望を聞いて、考えもしていなかったその思いが急速に形になったのだ。

 そして何よりも、


「私を負かしておいてそのままにしておけるかってんだ!!」


 このことであった。


 自分を負かした相手には例え憧れの相手であっても認めることはできない。

 打ち勝ってこそ、ファウのプライドは守られるのだった。

 ふっ、とゼーラーは嘲笑を浮かべると、


「だからお前はオレに負けてるだろ?それも圧倒的に、だ。勝ち目なんか万に一つもない。そうだろう?」


「…………」

 

 ゼーラーの言うとおりだ。

 ファウとゼーラーでは竹やりを構えた人間と超古代魔象くらいの力の差がある。

 身体能力、魔力、経験――どれをとっても到底敵わない。


「…………」


 それならば――

 

 それならば、なぜファウはゼーラーとの勝負を選んだのだろうか?

 

「負けたことが気に入らなかった」とファウは言った。

 たしかにそれはある。しかしだからといって、それが勝算になるわけではない。

 勝算を得るためには、何かゼーラーの魔力に対抗できる切り札が必要だろう。

 

「切り札――」

 

 ぐっとファウは手を握った。その手には何かが握られている。

 ひょっとしたらそれがゼーラーに対抗するための切り札であるのかもしれない。

 手の中にあるものは外から見るだけでは何であるかは分からない。

 ゼーラーでさえ分からないのだ。ただ……

 その中身を知っているものがこの場所に、ファウ以外ではただ一人存在している!!

 一体誰だろうか?お払い戦隊の面々?いや違う。

 

 それは……それは何を隠そう、この物語を読んでいる読者諸君のことなのだ!!

 

 知っているだろうか?いや覚えているだろうか?その勝算、切り札のことを。

 ファウが握っていた手を前へ出すと、そこには一つのロザリオがあった。

 船についているイカリの形をしたロザリオだ。

 それが手を前に出したところで、大きく光を放ち、一本のヤリへと姿を変えた。

 キレイな澄み渡った海を描いたような青色の光を放つ神々しいヤリである。

 ファウがこんなものを持っていたことは、この物語においては1度としてなかっただろう。

 ヤリ自体も非常に高価なもので到底ファウが手に入れられるようなものではない。

 ファウが持つに似つかわしくない非常に高価なものはそれだけではなかった。

 それは彼女の首にかけられているネックレスだ。

 

『一千万の総星群』

 

 そう、この財宝はこの物語において1度だけ登場し、そこで大いなる魔力を打ち破っているのだった。

 それは――それはまさしくファウが対峙しているゼーラーの魔力。

 『魔王ゼーラーがかつて着用していた衣、ゼーラー服』

 

 ゼーラー服はかつて魔王ゼーラーが身につけていた服で、強力な魔力を宿していた。

 ファウはゼーラーの大ファンであった。古物市でゼーラー服を見つけたときなどは、飛び上がるほどに心を躍らせその値札に絶望した。

 しかしどんなことがあっても勉強には励まないのに、愛するもののためにはどんな努力も惜しまない。

 知る限りの金策を巡らせ、苦労の末にファウはゼーラー服を手に入れたのだった。

 

 そして――その結末はこの物語の当初にあった通りである。

 

 さて……


「それがどうしたというのだ?笑い話か、映画でもそんな話は語るまでもない」

 

 笑いもせずに言った。

 ゼーラーはまったく怯んでいない。しかし彼の魔力を打ち払ったのは事実である。

 打ち倒す可能性はあるだろう。


 

 しかし今回は使い手がファウである。

 ゼーラーの魔力を打ち破ったのは妹のキョウティだ。

 彼女の魔力は魔界でも随一であり、ファウなどは到底及ばない。

 そんな彼女がファウに『一千万の総星群』と波頭のヤリを届けてくれたのだ。

 お払い戦隊とビーカッド66が死闘を繰り広げている間……

 ファウはキョウティに連絡をとり、


「すまねぇ、ワケは聞かないでくれ。お前のアレを私に貸してくれ、一生のお願いだ!頼む」

 

 携帯電話を構えながらも土下座をしながら頼み込んだのだった。

 当然、電話越しでは土下座など見えようもない。伝わるのは必死な口調だけである。

 それでもそんな気持ちが伝わったようで、


「いーよ。というか面白いことになってるみたいだね。ワタシも一緒に遊びたいな、ね、いいでしょ?」

「いや、届けるだけにしてくれよ。カリ……クッソ、あぁなんでもない。ともかく私の力でケリをつけたいんだ」

「ワタシの物を使って戦うんでしょ?ファウくんの力じゃないじゃん。そんなんでいいの?」

「ま、前払い。将来的には私は道具に頼らずにこの困難を突破できるようになってるさ!なっ!それでいいだろ!!」

「ははっファウくんおもしろーい!ま、頑張ってよ。お土産話、楽しみにしているよ。それじゃあネ」


 手を振ってキョウティは帰っていった。

 もしもここで彼女に強力を求めていたならば、事態はもっと簡単に収まってだろう。

 キョウティが魔王ゼーラーを倒し、その場で戦艦コンセリーグも叩き落す。

 そうすれば全てが解決する――しかしそうならなかったのは、それがもっとも簡単な展開だからではない。

 

「アイツだけは絶対に私が倒すんだ!!」


 一回負かされただけで憧れのあの人もアイツに成り下がる。

 ファウ自身が成長するため、ついでに魔界を守るためにも必ずや自分の手で決着をつけなければならないのだ。 

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