決戦!大魔界戦艦 コンセリーグ part.11
反撃もない。そして気配もない。
数秒の沈黙の中、白い煙が流れていく。
「…………」
反撃に備え身構えていたビーカッド66が態勢を解いた。
とりあえず相手を仕留めたと判断したのだろう。次に周囲を見渡し、ワイパーン以外の相手、
エクソーンとオンミョーンを探し始めた。
特に獲物と定めているのはエクソーンである。オンミョーンとキャシャーンはビーカッド66とは直接戦闘を行ってはいない。
畏怖の念こそ向けられていても殺気と敵意は持っていない以上、獲物としての優先度は低くなるのだ。
「目標撃破」
次は元々の狙いであったエクソーンだ。この騒ぎの間にどこに隠れたかは分からないが、戦場は空を飛ぶ船の上である。
逃げる場所は何処にもない。探し出して殺処分をする。ワイパーンの時はついつい強酸をかけて蒸発させてしまったが、今度はちゃんと死体が残る形で殺さなければならない。
一応任務としては『逮捕』もしくは『確保』とにかく生きている状態で連行することを命令されている。
しかし魔界極限戦闘魔族にそんな器用なことはとてもできない。出来れば……といいつつ、ついつい殺してしまうのだった。
それが死体が残る形ならまだ良いのだが、夢中になりすぎると先ほどのように強酸を吹きかけて蒸発させてしまう。
そうなると任務の成果が挙がらないため報酬がでない。
ビーカッド66としても任務を達成しなければ魔界防衛省で立場を得ることはできないのだ。
魔界防衛省の所属であれば常に強者と戦うことができる。多額の報酬よりもその点をビーカッド66は重視していた。
現時点において、ワイパーンの死体は残ってはいない。従って、この船に乗っている者の死体を確保する必要があるのだ。
「…………」
くるくる周囲の状況を窺い、先へ進もうとしたときであった。
「まだ勝負は終わってないぞ!!」
突如として声が響き、ビーカッドの頭上から重いものが叩きつけられた。
鈍い音が響き、ビーカッド66の巨体が通路に倒れる。
一体何が起こったのだろう?見てみると声の主はエクソーンであった。
「まさかこれほどの力が出るとは……パズルを解き剣の力を解放したのだ」
見るとエクソーンの持っている剣がまばゆい光を放っている。柄の部分のパズルは一列に同じ色が揃い、まさに剣を彩る模様のようになっていた。
仲間を倒されたビーカッド66も黙ってはいない。1匹が戦闘不能に陥ると即座にそれを知らせるフェロモンを散布し仲間に危急を報せる。
無色で無臭、鼻のいい魔族でもその合図を察知することは出来ないが同属のビーカッド66のみ、倒れた仲間の合図を察知して、即座に敵討ちに駆けつけるのだ。
「沢山集まってきたか……」
驚くべきことにこのフェロモンは記憶や言語を含んでいる。
ビーカッド66が倒されたときの状況、相手の状態、それらが仲間に伝わるので即座に最適な戦法を取ることができるのだった。
ガチガチとアゴを鳴らしている。見たところ、先ほどワイパーンを蒸発させた強酸攻撃を繰り出すようだ。
数にして12匹、これだけのビーカッド66が強酸を一斉放射すれば広範囲にわたり相手を一気に殺傷することができるだろう。
何にしても逃げ場がない。これが一番大きな効果である。
エクソーンは剣を構えた。剣の力がビーカッド66の大量の強酸に太刀打ちできるかは分からない。そこは、
「剣の力……いや、仲間を信じているんだ」
ビーカッド66が強酸を放射した瞬間、さっと二つの影がエクソーンの前へと躍り出た。
「どーせー、こんなときしか期待されませんよ」
「さっきはよくもやってきれたワネ!もう許さないんだから!!」
オンミョーンとワイパーンだった。
「ちょっとー、ワイぱんは出てこなくてもいいでしょ?僕の防御結界そこまで広くないし……ほら、お尻のトコはみだしちゃってる」
きゃっ!声を上げてエクソーンとオンミョーンの間に身体を割り込ませるワイパーンである。
先ほどのワイパーンの絶体絶命の危機を救ったのは何を隠そうオンミョーンであった。
本来ならば彼の結界はビーカッド66の強酸にとても対抗できるものではなかった。
しかし魔王ゼーラーから手渡された『天界の御札』により彼の結界の力は飛躍的に向上したのだ。
強力な結界を作り出すことの出来る『天界の御札』しかし、その使い手であるオンミオン一族は天界では稀有な存在になりつつあった。
悪魔祓いで有名な一族だったのだが、そもそも悪魔に相対する種族である展開の天使にそんな一族は不要であった。
大半のオンミオン一族は天界での立場を失い地上へと逃げていった。その逃げ遅れた落ちこぼれがオンミョーンであり、そして天界の名の下に置き去られた『天界の御札』なのだ。
見事にビーカッド66の強酸攻撃を防いだエクソーンは即座に反撃に打って出た。
強酸により煙が上がっている。ビーカッド66は相手の位置を感知できていない。
エクソーンは剣の力で相手の位置が分かっており、剣の導きのままにビーカッド66を叩き落していく。
煙が晴れる頃、周囲に戦えるビーカッド66は残っていなかった。
「ふぅ、全部倒したのか」
「気配と殺気……微力だけど持ってる魔力は感じないね」
「強敵だったワ」
「全くだったね。金よりも血が好きな相手には僕の出番は全くなかったよ。参ったねアハハ」
「…………」
火花が散った。キャシャーンの頭には大きなコブがいくつも出来上がっている。
そこへ通路の角から一人の人影が現われた。その人影もまたキャシャーンと同様にこの戦いには一切関与していない。
「お前、今まで一体どこに行っていたんだ?私たちが必死……絶体絶命の戦いを繰り広げていたというのに」
「あぁ無事で良かったよ。これでも急いだんだ。問題なのはビカッド68じゃないからさ」
「…………?それはどういう?」
まさしくファウであった。おはらい戦隊がビーカッドと繰り広げた死闘はおよそ1時間半、その間、ファウは一体どこで何をしていたのだろうか?
キャシャーンのように「怖気づいて隠れていた」という理由はファウには当たらない。
ファウの戦闘能力ならばビーカッド66くらいは素手で倒すことができるだろう。
ならばどういう理由があるのだろう?
それはこれから始まる『面白いこと』の準備のためだった。
一体何が起こるのだろうか?乞うご期待である。