決戦!大魔界戦艦 コンセリーグ part.10
ビーカッド66は戦意に集まる習性を持っている。
よって向かってきたのは迎撃に出たお払い戦隊ではなく、その後ろのファウへであった。
「ちょっと!なんでワタシ達はスルーなのよぅ!!」
「どうせー、やる気がないのがバレてるんだよ」
「お金はなくても武器はある。武器があってもやる気がなけりゃ戦えないのさ」
「お前達、大魔王さまから貰った武器なんだぞ!いくらお前達がへなちょこでもこの武器があれば、あんな虫ケラ風情イチコロだろう!!」
エクソーンが声を張り上げるも、そこは負けに負け続けて戦いに勝ったことのないワイパーン、オンミョーン、キャシャーンである。
いくら強力な銃を与えられたところで、弾の装填方法も知らず、撃ち方も知らず、それどころか銃を銃身でなぐるものだと思っている猿ではどんな相手にも勝てはしないだろう。
まさにその3人はそんな状態なのであった。
しかもここは空飛ぶ船の上である。下手に戦って転落すれば死亡まであり得る。
そういったプレッシャーも3人から戦意を奪い取っていた。
「情けない。まったく情けない!お前達、それでもお払い戦隊なのか!?」
「えー、というかそもそもこの集まりって元は学校のお掃除同好会じゃなかったかしら?」
「そうそーう。落ちこぼれの帰宅部じゃダメだからってエクソーンが始めた同好会だったよ」
「ボランティア活動はプライスレスだって言っていたさ」
「むむ……」
確かにそうだった。今までやってきたことなど、学校周りの掃除程度のものであった。
しかしそれが事実だったとして、今の状況に何の関係があるだろうか?
「そうだ」
目の前に強敵がいる以上、排除する必要がある。戦うしかないのである。
「いくら過去が掃除のボランティアであたとしても、今の戦いが消え去る訳ではないぞ!!」
声をあげて、エクソーンはビーカッド66に駆けて行った。
手には魔王ゼーラーから受け取った魔法の剣『テンビュリオン』が握られている。
この魔法の剣『テンビュリオン』 柄の部分に備えられたパズルを解くことで強大な力を解放できるという天界の宝である。
パズルを解きさえすれば何者をも粉砕できる光エネルギーを発揮できる反面、難しい条件、制約を抱えている。
というのもパズルを解くのは『戦闘中』でなければならない。
戦列を離れ、安全な場所でパズルを解いたところで、それはただ単の遊びとして捉えられ、光エネルギーは放出されない。
大昔、この剣を携えた英雄はこの性質を利用して、戦闘中に手早くパズルを解くことができるよう、普段からパズルを解いていたという。
戦時中でなければ発動しないという制約は、その練習において大きな意味を持ったというワケだ。
あともう一つ、練習が大きな意味を持つ発動条件として、
・1分以内にパズルを解く
「って、条件もあるみたい。こんなんできるヒトいなかったんじゃないの。どーせー」
後方で取扱説明書を読んだオンミョーンが言った。
「な、なるほど。この絵の部分、色の付いた板を一列に揃えれば良いんだな!!」
目の前には巨大なスズメバチ、ビーカッド66がアゴ鳴らしを通り越して既に臨戦態勢に入っている。
尾には黒光りする鋭い針、その先をエクソーンへと向けて今にも飛び出してきそうであった。
剣で針を弾いて、手元はパズルを動かしている。
目はビーカッド66へと向いているため、とてもじゃないがパズルを見る余裕はない。
この状況ではパズルが完成する可能性は極めて低い。いやほぼ0に近いだろう。
「ぐァ……」
隙をついてビーカッド66の針がエクソーンの腰元を掠めた。
いや隙を突いたというよりは全身が隙だらけであったといっていい。
もともとビーカッド66は攻撃の正確性において魔界でも随一の生物である。
そんな生物相手にパズルを解きながら対するのは無謀というべきだろう。しかも1匹ではなく大量に、だ。
一度手傷を負わせてしまえば、あとは殺すだけである。針には神経毒が流れており、手には触れただけで痺れを起こして物を握ること、下半身に当たったならば立ち上がることすら困難になってしまう。
今回は腰元に当たった。ガクりとエクソーンの身体が崩れる。
ガガガガガ!!まるで羽音とは思えない。重金属音のような音がこだましている。
それが徐々に大きくなったところで1匹のビーカッド66が迫った。針が光りなく輝いたところで、
「やらせないワ!!」
大声と共に横槍にワイパーンがビーカッド66へ体当たりを食らわせた。
対格差は明らかである。人型で165cm程度のワイパーンに対し、5mの巨体だ。
吹き飛びもしないしよろめきもしない。しかし注意は逸れた。エクソーンは絶体絶命の危機を逃れたのだ。
しかしその一方で、ビーカッド66は逆上した。
「ギシャアア!!!」
金切音が響き、頭部を天へと突き上げると口から紫色の液体を高圧の水鉄砲のごとく噴き出した。
これは強酸だ!!液体を吹き付けられた箇所は白い煙を上げながら、鉄の床を抉っている。
「あー、コレまともに浴びたら即死だね」
「アブナイ!!ってオンミョーンちゃん!いつの間にそんなトコロに隠れたの!?ズルいじゃないの!!」
「僕達に戦闘は無理だよ。あんな怪物じゃ袖の下も通じないさ」
こうしている間に、ビーカッド66強酸はワイパーンを狙って2度3度と吹き付けられた。
(なんとか狙いがワタシに向いているのは良かったワネ)
動けないエクソーンなら確実に強酸を浴びさせることができるだろう。
しかしビーカッド66はそれをしない。『エクソーンが動けない』以上は仕留めたも同然だ。今仕留めても、後でとどめを刺しても同じことなのだ。
ところで状況は少し変わってきていることにワイパーンは気が付いた。
(次の攻撃の感覚が段々、大きくなってきている?)
2射目と3射目はすぐに撃たれ、ワイパーンは必死に逃げていたものだったが、4射目はそれらよりも遅れて発射されていた。
5射ともなると「もう諦めたのかしら?」と思うほどに間が空いていた。思えば相手を油断させるための戦法かもしれないが、その割には狙いが段々雑になっている。
(もしかしてこっちの位置が分からないのかしら?)
強酸により立ち上った白煙はもくもくと周囲の視界を遮っている。ワイパーンでさえ周囲の状況は掴めないが、ビーカッド66の特徴的な羽音により、相手の居場所は大体分かる。
なのでそこから離れるようにして動いていれば強酸を浴びることはないだろう。
「…………」
攻撃が止んだ。恐らくは白煙が晴れるのを待っているのだろう。
(こうしている間にあの子達と合流して、ゼーラー様に助けを請うしかないわね)
「オンミョーンちゃん……はっ!?」
迂闊にも思わず声を出してしまったことに驚いた時には遅かった。
固く重い羽音がワイパーンへとぶつかってきていた。
「グウッ!!」
がっちりと密着され、目の前にはビーカッド66の巨大な頭部が見えている。
爪が身体に食い込んでいる。これでは到底逃げることはできないだろう。
(こっちが音を立てるのを待っていた!?)
強酸噴射を当てることができないならば、距離を詰めて確実に当たるようにすれば良いだろう。
強酸攻撃を避けることに必死でワイパーンはそのことを忘れていた。
そしてビーカッド66はガガガガ!!と低く大きな唸り声を立て、至近距離で強酸を噴射したのであった。
「ぎゃっ!!」
ワイパーンの声と白煙が高く上がった。