決戦!天界天華 プリンセス・アウラン part.9
「そうと決まったら大きくやろうぜ!!ゼーラー様よ!ホラ準備しねぇとな」
「アウフフフ、さすがは私の見込んだ者だ。キミには大魔王になる素質がある」
プリンセス・アウラン、もとい魔王ゼーラーが嬉しそうに笑った。
どうやら本気でファウのことを信用しているらしい。手まで両手でぎゅっと握ってきた。
柔らかく温かいその手には敵意や殺気というものは全く感じない。
(こんなにあっさり私を受け入れるなんて、コイツ何を考えてるんだ?)
ファウは口では協力の意を示した。しかし、それはあくまで口での話である。
隙を見て必殺の一撃を叩き込み反逆する可能性も十分に考えられる……。
だが、そうした考えも魔王ゼーラーの手の温もりと笑顔を見ると一時でも忘れてしまうのだった。
(コイツも案外寂しがりなところがあるのかもな)
ファウ自身も誰にも構ってもらえない時は、誰かを頼り手を握りたいと思ったのを思い出した。
これが『シンパシー』というものなのかもしれない。
「それでゼーラー様よ。準備といって、一体なにをしたらいいんだ?」
「そだな。実はもう準備は出来ている。私のすることだ、準備なんか必要あるわけがないだろう!」
さっと出てきたのはポップコーンが綺麗に盛られたお皿であった。
まるで雪原のようにソルトがキラキラと輝いている。絶品である。
そして巨大スクリーンが天井から下りてきた、照明も落ちていき必要最低限の明るさだけが残る。
どうやら映画が始まるようである。
「さすがゼーラー様ですワ!それでゼーラー様はどんな映画がお好みなの?」
「ウックック!そうだな。ドカーン!と宇宙戦争ものだな。地上、天界、魔界……どれも私にはスケールが小さすぎるだろう。私が目指すべきは宇宙だ!この戦艦コンセリーグも魔界なんかを攻めるために作ったものではない。宇宙へ進出するためのものなのさ!!」
伝説的な魔王ゼーラーにとって、それらは取るに足らないことなのであった。だから観るならば宇宙を舞台とした
「SF映画に決まっているだろう」
ということらしい。
それから16時間ファウとお払い戦隊、それに魔王ゼーラーはぶっつづけで宇宙戦争を見続けた。
特殊攻撃型戦闘機が光となって敵戦艦を撃ち落すシーンは爽快を極める。
まばゆい閃光のビームファランクスが戦艦中枢に刺さり、発射した対艦ミサイルがすれ違いざまに装甲を弾き飛ばす。
一同が見入ってしまったのは映像の迫力、綺麗さだけではない。その戦い方だった。
美しいだけでなく実用的でスタイリッシュ……いや、これは映画なのだから視聴者を楽しませる演出であることは言うまでもない。
しかしそこにあるリアリティ、現実を思わせる光や物質の重厚感がそれを本物に思わせるのだった。
気付けばお皿に乗っていた雪原はきれいさっぱりになくなっている。
それと同時に戦艦コンセリーグと随伴の艦隊は魔界へと到着したようだった。
けたたましいサイレンの音がなり響いている。
「我々は魔界防衛省の者だ。ここから先は魔界である。未確認飛行物体を通すわけにはいかない」
黒い羽を生やしたカラスのような魔族がスピーカーを片手に呼びかけ、スズメバチ型の魔族も戦艦の周囲をアゴを鳴らしながら飛んでいる。
両方とも威嚇段階である。ここから危険を判断、侵略の意図を汲み取れば、警報フェロモンを散布する。
その臭いを嗅ぎ付ける、もしくは刺激されたデビルホーネットはバーサクホーネットへと変貌し、三日三晩暴れ続けるのだそうな。
もちろんその攻撃は敵を殲滅してなおおさまることがないのでタチが悪い。
だから魔界でも厄介な魔族として認識され、こうした辺境の警備に回されているのだった。
「あー、私はー」
ブリッジに立った魔王ゼーラーがコホンとひとつ咳をすると、
「私は魔王ゼーラーだ!私は帰ってきた!!私は魔界、天界、人間界を全て支配!統一するのだ!!どうだ!?私についてくる気はないか」
キーン!!とメガホンのハウリング音が鳴り響いた。
これがとてつもなく耳に響くのでファウなどは思いっきり耳を塞ぐだけでなく、近くに置かれたティッシュを耳栓代わりに捻じ込んでやった。
「…………」
応答はない。ハウリング音はうるさかったが、魔王ゼーラーの言葉は間違いなく聞こえていたはずだった。
それなのに返答がないということは、
「アウフフフ!迷うことなどないぞ。私の手下になれば給料もボーナスも居住地もドーン!と出してやる。ほうら、明るい未来が待っているぞ。ウックック」
魔王ゼーラーはプリンセス・アウランの幼い顔に満足気な笑顔を浮かべ、声高らかに笑っている。
その後ろでおはらい戦隊の一同がぱちぱちと手を叩いている。どうやら今の話で自分達にも十分な得があると思い込んだらしい。
そうしているうちに返事がきた。
「魔王ゼーラーだと?何を言っているんだお前達は。それよりも小うるさい超音波で攻撃とは……我々の忠告が理解できなかったようだな。いいだろう」
ハウリングのお返しとばかりにけたたましいサイレンが鳴り響いた。
それを合図に地上からスズメバチ型魔族『ビーカッド66』が湧き出してきた。
黒と赤、それに黄色と刺激色を身にまとったビーカッド66は、非常に目立ち存在感を放っている。
本来生物としては目立たない体色をまとい、危機をやり過ごしながら生活を送って居るものだが、魔界極限戦闘魔族ビーカッド66はそんな生物界の常識を覆す存在だ。
たちまちに戦艦コンセリーグはビーカッド66に取り付かれ、攻撃に晒されてしまった。
ガツン!ガツン!と尻尾の調合金よりも固い針で装甲を突いている。
恐ろしいことにその衝撃で船が小刻みに揺れているのだった。
「ゼーラー様、この船、大丈夫なの?」
「どーせー、ゼーラー様のお造りになった船、大丈夫なんでしょ?」
「そうだね。僕の見たところこの船には相当なお金が掛けられている。その規模、天界の国家規模だ」
「ふむ……」
魔王ゼーラーが首をかしげ考え込んだ。
「お前達、力を貸してやるから外に行ってアイツらを追っ払ってこい」
「えっ!?」
「この船じゃあんな細かいの相手にできないだろ。あれくらいのザコ、私なら一瞬で倒せるが……なんだ?お前達は何もしないで私一人に働かせる気か」
「いえいえ、滅相もございません」
「なら行ってこい……あっお前ら、この間バーサークバンザー掛けたから警戒してるな。大丈夫だ、今度のは副作用なんかないヤツだ」
パチン!と魔王ゼーラーが指を鳴らすと床が動き出し、その奥から大きな宝箱が現われた。
魔王ゼーラーはおもむろに宝箱を開けて中身を探ると、中からいくつかの物体をホイホイと取り出した。
「天界の宝だ。私にはこんなもの興味がないからお前らにやる……一応言っておくが、コイツを使っても私を倒すことはできないぞ」
「め、滅相もございませんよ!」
(ま、持ってるのがコイツらじゃ何を持たせてもブタと心中だぜ)
とはいえおはらい戦隊の面々でも天界の宝を持てば、上級天使に近い実力を得ることはできるようだ。
各々が力が沸いてくるのを実感すると共に、ファウもまたそれを感じることができたのだった。
「私はどうしようかな……ってか、天界の宝じゃ魔族の私にゃ力を得ることができないじゃないか」
「そうだな。ファウにはこれをあげよう」
そういって手渡されたのは手袋だった。
「ファウは魔法よりも打撃の方が得意だろう?これには私の魔力がこめてある。魔族ならこれで力を得ることができるだろう」
「ゼーラーさま……」
ファウの手が震えた。まさか憧れの魔王ゼーラーからこれほどのものを手渡して貰える日がくるなんて思いもしなかったのだ。
「さぁ行ってこい!そしてお前達の力を見せ付けてやるのだ!!そのうちに私とコンセリーグはこの戦闘宙域を突破する。お前達は航行可能な随伴艦を使って追いついて来るんだいいな」
かくしておはらい戦隊とファウによるビーカッド66戦闘部隊との戦いが幕を開けたのだった。