爆弾を解除せよ!魔界イースト高等学校、爆破全壊の危機!! part2
かばんの中身を見ると、なんとエロ本が入っている。
「なんだこりゃ?この店ではこんなのを売ってんの?」
「いや、これはうちの店で置いてる奴じゃないよ」
取り返したバッグの中身を商店の親父へ渡すと、親父が目を丸くして、そのエロ本を眺めていた。
そのエロ本は『堕天使エルロフ』と書かれており、いかにもな雰囲気に包まれている。
「あのクソヤローの持ち物と入れ替わっちまったみたいだな。結局、アンタんとこのモノは持ってかれちまったのか……それで、一体何を持ってかれたんだ?」
「スリースターナースです」
「あぁ、そうなの?そんなんどうするつもりなんだろうな」
ファウは素っ気なく答えた。『スリースターナース』などと言われても、ファウには何のことだかさっぱり分からない。
これがキョウティやシュウならば、それがどういう代物であるか学校の授業で習っているので十分に承知している、しかしファウには分からない。
授業はサボリがちだし、珍しく授業に出ても、ノートの中身は必殺技の名前しか書いていないのだ。
結局、あの泥棒は逃がしてしまった。
普通の魔族ならば失神してもおかしくないところなのだが、よろよろと立ち上がると、そのまま駆けて行ってしまった。
「手加減したつもりはなかったんだけどなぁ……」
悔しそうに舌打ちを漏らすファウであった。
それでこれはどうしようか?泥棒が残していったエロ本『堕天使エルロフ』である。
ファウはこんなものに興味もなければ用もない。
「コレ、いらねぇんだけど……お前にやるよ」
商店の店主に押し付けようにも、
「私の店の商品じゃないし、受け取るわけにはいかないよ」
すっぱりと断られてしまった。じゃあどうすればいいのだろう?
これでは呪いのアイテムも同然である。どこか目に付かないところに捨てるしかない。
「仕方ねぇな。コレ」
多魔川の土手に捨ててしまおうか。それとも学校のバックネット裏に捨ててやろうか……。
なんにしてもイタズラに使えそうではある。
「よーし、ちょっち預かっといてやるか」
ファウは『堕天使エルロフ』を上着の中へとしまいこむと、学校の方へと戻って行ったのだった。
ここでファウが考えた『堕天使エルロフ』の活用法について紹介しよう。
『ゼンソクの机にそっと仕舞い込む』
あの憎い担任をアッ!!驚かせるイタズラである。
職員室のゼンソクの机にこっそりと『堕天使エルロフ』を入れてやるのだ。
身に覚えのない変な本……それもエロ本がいつの間にか机の中に入っているのが分かったら、常人ならば驚くだろう。
出来ればそこをファウが指摘してやって弱みとして握ることが出来れば大成功なのだが、そういうシチュエーションに持っていくのは、結構難しいだろう。
難しいというだけならば、こっそり机に仕舞いこむことも難しいのだが、幸か不幸か……
この日は職員会議が行われており、職員室はもぬけの殻であった。
あっさりと『堕天使エルロフ』をゼンソク先生の机に仕込んだファウは、その後の算段を考えた。
前述のとおり、仕込まれていることを弱みとして握るのがベストなのだ。
しかし、そのためには指摘できる状況を作り出さなければならない。
「うーん、そうだな。勉強を教えてもらうフリをして、仕込んだ机を空けさせるように仕向けるか」
仕込んだのは筆記用具が入っている引き出しだ。仕込んだのは良いが、いつまでも発見されないのは困るので、手身な引き出しを咄嗟に選んだのが良かった。
あとは勉強を教えてもらう件だ。項目は……『魔界詠語』が良いだろう。
魔界詠語についてはいくら勉強が大嫌いなファウでも、多少の知識を深めている。
それは何故か?というのも、必殺技のネーミングを考えるのにとても役立つからだ。
人間界の中学生がひびきのカッコいい英語だけはよく知っているのと同じことである。
ぞろぞろと人の気配と足音が響いてきた。どうやら職員会議が終わったらしい。
「よっしゃ!早速、やろうぜ善は急げだぜ」
もっともそれは善ではなく悪だろう。しかし、ファウはそんなことは気にしない。
魔界詠語の教科書を携え、職員室へ向かおうとしたそのときだった。
「おっ!?」
ぐっと、後ろから服をつかまれ引っ張られた。
咄嗟のことだった。ファウは対応することが出来ずにそのまま放り投げられた。
「いいて……なにしやがるんだ、このヤロー!!」
顔を上げてみるとそこには見たことのない顔があった。
「誰だテメー」
「俺の名前はロックリバーだ。好物はハムで趣味は爆弾造りだ」
よく見れば商店の泥棒である。フードは脱いでいるものの黒いローブはそのままだった。
「そのロックリバーさんが、私に一体何用だよ?というか何しやがんだ。もう一回痛い目を見たいのか!?」
「ふっ。キミは先ほど、私を逃がしているじゃないか。そんなキミが私を捕まえることができるかな?」
「チッ……そういうことか」
コイツは実体ではない。ファウはそう見た。実体を持つ分身を操っているのだろう。
商店から出てきたときは急なことで感知できなかったが、こうしてじっくり対峙しているからには、かすかな魔力で相手の性質が理解できるのだ。
さて、そうした分身が出てきたことで一体何の用があるというのだろうか?
「お礼参りか?」
「違う。君が持っていったものを返して欲しいのさ」
「あぁ?あのエロ本に未練があんのかよ!こりゃ傑作だな、アーハッハッハ!!」
「あれは爆弾だ。威力はこの学校を吹き飛ばす程度だね」
ハァ!?ファウが思わず声をあげた。
「テメェ、なに冗談言ってんだよ。なんでそんなもん作ったんだ!?」
「それを言う必要はない。とにかくあの本を返してもらう」
ロックリバーの上から目線な態度に、ファウは堪らず腹が立った。
「あんなもん捨てちまったよ。私は女だぜ?そんなもん手元に置いとく訳がない」
「キミは嘘を吐いている。あの本を、何処かに隠したんだろう?」
「なんだよ。知ってんなら自分で取りにいけばいいだろ?好きにしろよ。じゃあな」
本当なら殴り倒したいところだが、場所が場所だ。今、こうして話しているのでも、誰かに聞かれたら面倒なことになる。
分身とはいえ、コイツを殴り倒せば大なり小なり騒ぎになってしまう。
そうなれば事情を聞かれるし、また問題児として説教なり厳しいマークに当てられてしまう。
そこまで考えて、ファウがぐっと我慢した。それよりもエロ本爆弾の件である。あれが本当に爆弾だとしたら、ゼンソク先生が直に爆散してしまう。
いや、ロックリバーの話に寄れば学校を吹き飛ばす程度の威力らしい。そんなものが爆発すればゼンソク先生だけでなく、生徒全てが被害に遭ってしまうだろう。
(学校が爆発するのは構わねぇけど、残った連中を巻き込むのは不味いな……)
悪いのはロックリバーのアホだが、それにファウが関わっているとなると、さすがに後味が悪いし、万一、ロックリバーが捕まった場合、ファウのことが話される可能性もある。
そうなれば共犯扱いになってしまい、ガッツァー諸島に流されるだろう。
(コイツは実体がないから、シメても意味がねーな)
とするとファウが爆弾を解除するか回収するしかないではないか。
「おい、エロ本爆弾を回収してきてやるから、ちょっと待ってろよ」
「フフ、やっとその気になってくれたみたいだね。あっ、そうそう、爆弾の爆発まで後10分しかないんだ。早くしてくれよ」
「な"ァに"ィィ!!お前、なんで時限式になってんだよ!!」
「時限爆弾はロマンなのさ。地雷はエレクトリック!リモコン式爆弾はテクノだよね!……と、こうしている間に、2分過ぎてしまった。早く持ってきてくれ。僕はそこのベンチで待ってるから」
はっとしてファウは職員室へ走っていった。職員室には既に会議を終えた先生方が残りの仕事を片付けている。