決戦!天界天華 プリンセス・アウラン part.6
「どう?ポップコーンおいしかった?天界で一番光が当たり場所で作らせた特別製でね。私のお気に入りなの」
「むむ……」
「あっ、ごめん。お口にチャックをつけたままだったね。外してあげる」
「チッ、なんてもん見せやがるんだ。面白くもなんともねェよ!!」
「アウフフフ、じゃあせめてポップコーン食べてよ。塩加減も厳しくチェックしてあっておいしいんだから」
「……む、これは本当においしい」
「でしょでしょ!!」
プリンセス・アウランが飛び跳ねて喜んでいる。そんなにポップコーンがおいしいと言ってもらえたのが嬉しかったのだろうか。
やはり彼女のことは良く分からないファウだった。
こんな幼くて無邪気そうな子供がイカツイ戦艦を引き連れて魔界を侵攻しようなど、どこからそんな考えが出てくるのだろうか。
ともかくもプリンセス・アウランをそのままにしておいては、先ほどの映画のように魔界は戦艦によって侵攻され、大変なことになってしまうだろう。
それだけは食い止めなければならない。
(しかし、どうしたものか)
先ほど攻撃した具合だと、プリンセス・アウランの魔力は相当に強くて多い。
ファウの魔力と腕力ではどうやっても倒すことはできないだろう。
クソッ、ファウはポップコーンをつまみながら、プリンセス・アウランの顔を睨んだ。
そういえば……
あのお払い戦隊の面々はどうなったのだろうか?
プリンセス・アウランに気に入られて部屋に残されて以降、彼等は処刑を免れて部屋を出て行っていた。
あの後のことは分からない。
別室で衛兵に捕らえられていなければ、何か手立てを考えてくれているかもしれない。それに……。
どちらにしてもファウ自身の力ではどうにも打つ手がない。
むしゃむしゃとポップコーンをむさぼるだけであった。
「それでどうするのヨ。ファウちゃんをこのままおいてくワケにもいかないでしょ?」
「ファウはどうせー、僕達が見捨てると思ってるよ」
「友情はお金で買えないのさ!」
「うむ、どうせー……我々はもう天界に居られないからな。プリンセス・アウランに一泡吹かせてやらなければな」
「ちょっとー、僕の口癖マネないでよ」
あの後、捕縛されないうちにそそくさと城の外に出ていたお払い戦隊は、茂みに隠れて作戦を練っていた。
茂みから入り口の様子をうかがっていると、数人の衛兵が出入り口を塞ぐように見張り始めたので、恐らくは自分達を捜索しているのだろうと察したのだった。
「それよりコレ、持って来ちゃったけど、ファウちゃんに渡した方がいいんじゃないかしら」
ワイパーンが布に包まれた一本の棒状のものを前に出した。
「親衛隊には弓って言っちゃったけど、コレ、中身は剣なんだよねー」
「この剣……私とファウが戦った時に彼女が使っていたものだ。この剣には何やら強力な力が封じられているらしい。私はそれで彼女に倒されたのだ」
「そんな高価な剣なのかい?」
「ともかくエクソーンを倒した剣なら、何か突破口が開けるかもしれないね。エクソーンを倒した剣ならー」
「痛いところを強調しないでくれ。あっ、口癖をマネしたことを僻んでいるな」
ということで彼等の目的は決まったようだ。ファウの剣を彼女の元に届け、
「何か突破口を開いてもらおう!」
なんとも他力本願な目的だ。
しかし彼等だけでこの事態を突破するのは到底不可能である。しかもあの警備では天界から人間界、そして魔界に戻ることもできないだろう。
だから彼等は頼らざるを得ないのだった。彼等の仲間であるファウ、もといカイヤに。
「それでどうやって城の中に入ろうか」
「出入り口はしっかり見張られちゃってるワ。いりぐちに2人、その周辺を3人見回ってる」
「そんな時はボクにオマカセさ!!」
キャシャーンが前へ出て行った。
「あのおバカ!あんなに堂々と出て行ったら捕まっちゃうじゃないの!!」
ワイパーンが哀れみの声を発したが、数秒経ってもキャシャーンが捕縛される様子は見られない。
そうしているうちにキャシャーンが手招きをした。こちらに来るように促しているらしい。
一同が恐る恐る茂みから城の前へ出ても、衛兵は彼等を捕まえようとはしなかった。
「どういう手品なんだ?キャシャーン」
「入場料を渡したのさ!お金があれば入れない扉はないのさ!!」
「つまりは買収だね」
もともと城の衛兵はプリンセス・アウランに忠誠をあまり抱いては居なかった。
それは彼女の容姿や考え、ワガママが過ぎるからであった。
ついでに給料に関してもかなりシビアだった。少しのミスやプリンセス・アウランが気に入らないことがあれば即座に給料は削られた。
削られた給料を使って城を戦艦に改造する費用は賄われていたのだった。
減給はするがそれは一時のものであり、魔界を侵攻した暁にはその戦利品で褒賞を与えるとプリンセス・アウランは話していたが彼女の日頃の行いから、そんなことを信じている者は僅かなアホだけだったのだ。
おはらい戦隊は城の入り口を堂々と通っていった。通っていったが、外の衛兵は誤魔化せても中の衛兵は誤魔化せない。
「いやぁ、さすがに5人分も払ったら僕のソデを振ってもなにも出なくなっちゃったよ。いや、まいったなァ」
お支払い専門のキャシャーンはもう役に立ちそうにもない。それならば!とワイパーンが前へ出た。
「ワタシ、ココを出るときに更衣室をみつけたのだワ」
「更衣室?」
更衣室、つまりはお城で使えるための制服がそこには保管されているらしい。
そこで城の衛兵に成りすませば、
「誰にも怪しまれずにファウのところまで行けるのではないか……」
という作戦のようだ。
「いやダメだコレ。重くて動けない」
エクソーンが悲鳴をあげた。衛兵用の鎧は合計で40kgはある。
普段から身体を鍛えている戦士ならば着用したうえで走り回ることもできるだろうが、そんなこととはとても縁がないうえに、運動不足のフシがある魔法使いなエクソーンにはとても装備することは敵わない。
エクソーンがダメなら更に小柄なオンミョーンもダメ。キャシャーンなどは運動オンチの極みである。100m走は転ばなければ45秒で走りきる。
辛うじて着たうえで動けるのは露払いのワイパーンくらいであった。
「モウ!みんなちゃんと鍛えないとダメよ!!」
「こんなもの着ることができなくても、生きていくうえではなんの支障もない」
「どーせー、僕らがこんなのを着て戦場の最前線を走るなんてあり得ないよ」
必要がなければ触ることもしない。そんなことだから彼等は底辺なのであった。
しかしだからといって城の中を探索するには変装するのが不可欠である。
「仕方ないわネ……あっ、これならいいんじゃない?」
代わりに出てきたのが衛生兵の衣であった。
『衛生兵』とは言うものの、厳密には清掃員である。かぶとの代わりに三角巾、鎧の代わりにエプロン、そして剣の代わりにモップであり箒がある。
「これならボクでも持つことができるよ!モップだってホラ、自由自在さ!!」
あのキャシャーンがモップを自由自在に振り回しているところをみると、相当に軽くて扱いやすい用具のようだ。
エクソーンとオンミョーンも衛生兵の衣装に着替えると更衣室を出て行った。
衛兵の鎧を身につけたワイパーンは彼等の引率という格好で先頭を進んでいく。
「あっ、すいませーん!プリンセス・アウランさまのお部屋のお掃除を頼まれてるんだけど……部屋はどこでしたっけねん?」
「ああ、この廊下を一番進んで行った先を右に行ったところだよ。部屋の前に像があるから見れば分かるよ……アウラン様は今、モニタールームで戦艦映画を観ているから、戻ってくる前に済ませたほうがいいぞ。鉢合わせると面倒だから」
「分かったワ!ありがと~」
とりあえず言われたとおりにプリンセス・アウランの部屋へ行ってみると、衛兵の言ったとおり部屋の中には誰もいなかった。
「やっぱりモニタールームに居るみたいだね」
「コレ、ファウちゃんの剣だワ!このままだと目立っちゃうから衛兵の私が持っときまショ!」
「ではモニタールームに移動しよう」
「エクソーン、ちょっと待って」
「む、なんだ?オンミョーン」
「これを見て、日記帳みたいだけど……」
「ゲエッ!!なんだこれは――」
そこには驚愕の事実が書かれていた。