決戦!天界天華 プリンセス・アウラン part.3
天界は人間界の天上に存在する。
一同は一度、人間界へ下って、そこから天へと昇っていった。
「へぇ、天界ってこんなところにあったんだなァ」
もちろん魔界では常識である。そんなことは小学生でも知っているし、知らない魔族の方が少ないだろう。
しかしそんな魔界の常識でも、天界の風景や情景までは知られてはいなかった。
天界は宙を浮かぶ島で構成されており、その上に施設が作られ、橋を通して島を行き来することができる。
というのが魔界の教科書に載っている常識なのだが実際のところは、
「なんだァありゃ!?船が空に浮かんでるのか!?」
ファウはあまりの光景に目を丸くして立ち尽くしていた。
島ではなく船、いや要塞というべきだろうか。一言で言えば船のような城が空に浮かんでいるというのだ。
ファウの家も城なのだが、それとは規模が違いすぎる。
息を飲むばかりであった。
「つかぬことをお聞きしますが、そちらの方が背負っているものは一体何でありましょうか?」
白ランの1人がエクソーンに問いかけた。指差す先にはファウがおり、その背中には何やら縦長のものが布にくるまれて背負われている。
「あぁ、あれは弓だ。彼女の武器なんだよ」
「そうでしたか。それは失礼しました」
天界では弓は一般的な武器として普及している。また武器としてだけではなく、的を正確に射る競技、また馬上に置いて的を射る技術など、腕前を競って切磋琢磨されているほどメジャーなものなのだ。
なのでファウが背負っているものが弓だといえば、それで通ってしまうのである。
(アイツら確認ぐらいしねぇのか)
(どうせー、危険な武器でも鎮圧するワザを持ってるんだよ。特殊部隊だから、アレ)
ともかく確認しないのならばファウにとっては好都合である。
下手に動いて目を付けられるのも厄介なので、ファウは空飛ぶ船の隅で外を眺めていた。
大小さまざまな城が浮かんでいる。その天辺やバルコニーには、木や植木が植えられ、船の上だというのに陸地であるように思わせるのだから天上の世界、恐るべしである。
そうしている間に一際大きな城に着いた。
天上で一番偉い人が住んでいるといえば、こういう城になるんだろうなァ……と言った風貌で、ファウはシュウの城攻めをした時のことを思い出した。
(こんなに立派な城じゃ、ピースライムのゲリリを宝くじ1等の当選金額、全額を注ぎ込んでも落とせねェなァ)
それだけ集めれば、魔界の大概の城は落とせるだろうし、人間界は大パニックに陥るだろう。
それができないほどに強固で大きな城が目の前にある。それがプリンセス・アウランの城なのだ。
城の入り口まで来た。
入り口は大きな扉となっていて、外から中へ連絡して3分、ようやく開いて中に入れるようだった。
「コレ、いちいちやんのか?」
「ここだけヨ。数年前はそこまでじゃなかったみたいなんだけど、アウラン様が偉くなってから急速に警備が固くなったの」
「へぇ、そうなのか」
強固な門扉の上部には、なんだか厳しい紋章が付けられている。どちらかというと魔界的な……力のある紋章だった。
門の中へ入り廊下を見ても、所々にその紋章が描かれた垂れ幕が並び、そして至るところに銅像が置かれている。
タイトルには『栄光のプリンセス・アウラン』と書かれており、どうやらその銅像の人物はプリンセス・アウランのもののようだった。
どの銅像も羽が大きく作られ、躍動感と迫力に満ち溢れている。羽を広げ、剣をを片手に飛び立とうとしているものもあった。
「コイツ、どんだけ自分の銅像が好きなんだよ。魔界でもいねぇぜ?こんなヤツ」
「おい、聞こえたら大変だからちょっと黙れ」
慌ててエクソーンがファウの口を塞いだ。同時に案内の兵士が足を止めた。
(勘付かれたか?)
と思ったが兵士には敵意も殺意も感じない。ただひとこと、
「こちらでお待ちください」
部屋へ案内された。どうやら応接室のようで、部屋の中央にソファが置いてあり、それ意外には特に目の付くものは置かれていない。
廊下にあったものと同じ紋章の描かれた垂れ幕、プリンセス・アウランの銅像が部屋の隅に置かれており、客人を品定めするかのように部屋の中央ソファ部分を見つめている。
「あれ?お前ら座んねェの?」
「お前こそ、目上の人が来るというのにいきなり座り込むヤツがあるか!!」
「いくら底辺でもそれくらいの礼儀は弁えるもんでしょ……」
目上の人が来ても何も気にすることがないのがファウである。先生であっても魔界のトップである父親が来ても、決して礼儀なんか見せたことはない。
ここまで言われても決して立とうとはしなかった。どうせなら入ってきたヤツの驚いた顔でも拝んでやりたい!というのがファウの正直な気持ちであった。
パタン、と音を立てて部屋に誰かが入ってきた。
来たか!とファウはさっそくその人物を見てやった。
見たところ小柄な少女のような姿をしている。年恰好だけならファウとそうは変わらないだろう。
「お待たせしたね。遠いところ、わざわざ来てもらって申し訳ないね」
「はっ……」
「こら、お前も頭を下げなさい!あ、いやコイツ、礼儀をってものを分かってなくて……」
「気にしなくて結構。さぁ、魔界の話を聞かせてよ。とてもとても楽しみにしていたんだ」
「…………」
さっと向かい合ったソファに腰をかける動作も軽やかだ。どうやら本当におはらい戦隊の魔界での話を楽しみにしているらしい。
その幼い顔はきらきらと楽しさに輝いている。
(コイツがプリンセス・アウランってヤツなのか?なんかイメージと違うな)
人間界、地上の生物を天界獣に変貌させ、更にバーサークバンザーによる強化を施した――。
およそ天使の成すことではない。どちらかというと魔界側の所業である。
ファウが訝しげに見ていると、プリンセス・アウランも気が付いたらしい、
「キミ、見かけない顔だね。以前彼等を見たときはいなかったけど?」
「彼女は新しい幹部でカイヤという。魔界の監獄から自力脱獄した実力者だ」
「ふぅん。カイヤちゃんって言うんだ。ヨロシクね!」
プリンセスアウランが笑顔で手を差し出してきた。どうやら握手を求めているようだ。
「…………」
それを無言でファウは見つめた。そして、
「私は握手には応じない。これは挨拶の基本だよ」
さっとその手を払ってやった。
「こっコラ!カイヤ、せっかくアウラン様が握手を求めているんだぞ。その手を払うだなんて……」
「いいよ。気にしないで。それくらい用心深いからこそ、監獄から脱獄できたんだよ。いいよ。面白いコだから」
「プリンセス・アウラン様がそう仰るのでしたら、私からは何も言うことはありませんが」
「それより魔界の話でしょ!そうだ、カイヤは魔界の監獄から脱獄してきたんでしょ?その話を聞かせてよ」
「うっ、そ、そうだなぁ……」
ファウは言葉に詰まった。色々な悪さは働いたが監獄にはいったこともないし、ましてや少年院すら入ったこともない。
そもそも魔界の警察は基本的に不法行為を取り締まっても暴力に関してはあまり取り締まらない。
それが実力こそが第一の魔界社会。しかしその一方で不当な行為や迷惑行為は許さない。
例えばお払い戦隊の件である。彼等は街中で無差別の迷惑行為を働いたため、
「魔界警察にしょっぴかれた」
というわけなのだ。
「魔界の監獄はまるで古代の戦場!墓場みたいな場所で、亡者が延々と土掘ってるんですよ。紫色の光が……ああ、コレ深淵の光だそうでね。そこかしこに満ち溢れてて、夜になっても眠れない。いや深淵の監獄に夜なんてものもなくて、ずっと輝きっぱなしてして……その光にやられて眠れずにいるといつしか亡者になっちまうっていうのが看守の話でしたよ。私はね、そんな場所にいるのが嫌で嫌で夢中で光のないほうに走ってたんです。そしたらいつの間にか外に出ていた。そんな感じです」
「ふーん。まるで映画の話だね」
まさにファウが見た映画の話であった。ただし監獄の話ではなく、死者の怨恨や瘴気で墓場となった古代の戦場の話である。
これが魔界らしくゴシックなホラーで鎧を着けたガイコツの兵士やフワフワと漂う中身のないローブ、更には肉が腐り落ちてボロボロのドラゴンなど――
魔界でもそうそう見ることの出来ない怪物の数々が、幼いファウにトラウマを植えつけた。以外にもファウは怖いものが苦手となったのだった。
そういう事情もあって、ウソの監獄の話は以外にスラスラと並んでいく。それを聞くたびにプリンセス・アウランは幼い目をキラキラと輝かせながら、楽しそうに頷いていた。
「あははは。キミは面白いね。気に入ったよ。そっちの役立たず達から離れて、私のところで働かないか?」
「えー、いやーどうしようかなァ」
「キミがここで働いてくれたら、そこのクソどもの処刑はやめるよ。それにさ、ここの待遇は外の世界とは次元が違う。私に付いててくれればキミの欲しいもの、揃えてあげるよ」
「…………」
エクソーンが肘でファウをつついている。
(おい、コイツとんでもないこと言ってんぞ。どうするんだ?)
(一先ず私たちのためにも話を受けてくれ。機会を見てあとは好きにするといい)
「そ、それじゃあお世話になります。どうぞヨロシクお願いします……」
「そうそう!そうこなくてはね。衛兵、そこの人たちは外に出しちゃっていいよ」
部屋にはカイヤことファウとプリンセス・アウランだけが残され、エクソーン達は部屋の外へと連れ出されていった。