オガー島、再興・魔王と勇者が出会うとき part.10
シャーベリアンは昔、驚くべきことに一国の王子であった!!
「それ本当なの犬くん!?」
「経歴詐称なんじゃねぇの?この役立たずが」
ファウがこの場に居たら、疑いの目を向けていただろう。
しかし、それは紛れもない事実なのであった。よく見ると、シャーベリアンの額には王冠のような模様がついている。
これが紛れもない王子である証拠なのだ。
「それでなんで国を飛び出しちゃったのさ?キミだって王子なら、かなりいい身分じゃないか」
「私は王様には向いていなかったんです。外の世界へ出て、自由に暮らしたかった」
シャーベリアンは本で読んだ外の世界の施設へ思いを馳せていたのだった。
その施設は色とりどりのネオンが灯り、多くの人で賑わっていた。
中でもガシャガシャと数字や模様を揃える箱にシャーベリアンは興味を覚えた。
他にも馬の競走だ。自分ならばどの馬が実力を有しているか分かるつもりでいた。
そうして城のお金を持ち出して夢の世界へ向けて度に出たのだった。
おや……
ちょっと待って欲しい。シャーベリアンとファウの出会いを思い出して欲しい。
あのとき、シャーベリアンがやっていたことはなんだっただろうか?
「私はお腹が空いている。そして貴方はコミックミートを持っている。そこから導き出される答えは……」
(商家の息子を救え!オガー島 襲撃作戦!! part.2より引用)
物乞いである。
つまりこの時にはシャーベリアンは持ち出していたお金を全て失っていたことになる。
「それが私がウルファウスト王国を出てから、ファウさんと出会うまでのあらましですよ。どうでしょう、お楽しみいただけましたか?」
「犬くん……」
こんな犬ならさっさとウルファウスト王国に連れ戻して貰った方がいいだろう。一同はそう思って、
「こんなので良かったら、連れて帰ってあげてよ、ね」
「クッ、ようやく見つけた兄者がこんなものであったとは……」
思わずロボゥの目から光が流れた。
「それよりロボゥ、さっきから気になっていたんですが、その姿はどうしたんです?イメージチェンジ、というやつですか?」
「これはあの人間……グッ!?」
不意にロボゥが苦悶の表情を浮かべたと思いきや、その場に崩れるように倒れた。
「どうしたんだい!?石の犬くん!!」
「なにが起こってるんだよ!おい!!」
辺りをピリピリと焼け付くような空気が取り巻いている。
魔王として強大な魔力を持っているディアスでさえ、多少の痛みを肌に感じているのだ。
「このたわけが!なにをやっておるか!!」
「ヒエッ!!いきなり大声出すなよ……いや違う、出さないでください!!」
「フン、もはやお前などどうでも良いわ。それよりも他の天界獣が全滅した。もはやお前に勝ち目などないのだ」
「そ、それじゃあ俺を解放してもいいんじゃないか?もう戦う必要もないんだろう?」
「フッフッフッフ!!そうではない。お前に一発逆転のチャンスをやろうというのだ!」
「それはどういう……!?」
『バーサークバンザー(死に急ぎの運命共同体)』
「ググググゥ……!!」
「えっ!?」
赤黒い光がほとばしると、倒れていたロボゥがすっと立ち上がった。
しかしその姿は伝説のストーンウルフと呼ばれていた先ほどまでのロボゥの姿ではない。
身体を覆っている石は高熱を帯びたように赤黒く燃え、強い熱気をオーラのように燃え上がらせている。
魔力も格段に強くなっている。今のディアスの魔力をはるかに凌ぐほどの強大にして凶暴な力だ。
「おおっ!強くなった!!これならアイツらを倒して晴れてお役御免ができるワケだな!プリンセス・アウラン様!!」
「プリンセス・アウラン……!!」
「そのとおり!能無しのお前でもそれくらいは分かるようだな。しかし……」
生物へ自身が持ち得ない強大な能力や力を与えるには、
『相応の代償』
を要する!!
この場合、強化した対象はロボゥである。それならばロボゥに強化の代償はあるのだろうか?
――いや、ない。強化により凶暴性に支配され自我を失っているだけで、攻撃力と防御能力は別次元で増強されている。
それならば代償としているのは一体……
「まさか!?」
そうだ。代償となったのは勇者マニアルなのだ!!
「ハハハ!バカめ!!お前とロボゥは運命共同体となったのだ。これがどういうことか分かるか?」
「……そ、それは……」
勇者マニアルに教養はない。この状況が何を示しているか?皆目見当がつかなかった。
「凶暴性に支配された自我のない狼、コイツは自分か相手が死ぬまで戦い続ける」
強化されたことにより強靭な肉体に精神力をその身に宿したロボゥである。
痛みや苦しみすらも感じないその身体は、どんなに無茶な攻撃も実行に移し、更に相手の攻撃をも進んで受け止めようとする。
――ただし、無茶な攻撃や防御は決してダメージとなっていないわけではない。
蓄積された負担はストーンウルフ改め、ブリガンウルフの身体を砕き、最終的には死に至る!!
そうなればどうなる?運命共同体となっている勇者マニアルにも死が訪れるのだ。
「そっ、そんな!アウラン様!!そんなことって……!!」
「ハッハッハ!!絶望するにはまだ早いじゃないか?お前とロボゥが魔王に勝てばそれでお前達は助かるのだぞ。さぁ、死ぬ気で戦うのだ」
「グルルルルゥ!!」
勇者マニアルが混乱している一方で恐怖や痛みを感じない『ブリガンウルフ』ロボゥはディアス達へと牙を剥いていた。