オガー島、再興・魔王と勇者が出会うとき part.9
「アンタが魔王なの?意外だな。そんなに可愛らしい人だったなんて」
「僕も同感だよ。勇者がキミのような少年だったとはね」
ディアスとマニアルが向かい合っている。マニアルの側にはストーンウルフのロボゥが寄り添っており、下手に近づこうものならばその牙で、
「一刀両断!」
の重傷を負わされることだろう。重い殺気が噴き出している。
(へっ、魔王と聞いて来てみれば、あんなひ弱そうなヤツだったのかよ。コイツと一緒ならすぐに倒せそうだぜ!!)
頼もしいロボゥが傍にいるお陰で気持ちが強くなっている勇者マニアルである。
少し前に厳つい男二人がディアスを目の当たりにして、恐怖のあまり逃亡してしまったことなど、
「髪の毛ほどにも覚えていない」
のである。これはこれは幸せな記憶力を持っていた。
「俺が勇者マニアル様だぜ!おい魔王!痛い目を見たくなかったら、さっさとこの世界から出て行くんだゼ!!」
山賊から奪い取った……もとい山賊のアジトに落ちていた剣を振り上げ、勇者マニアルはポーズを決めたのだった。
(決まった……)これであわよくば、勇者の威光のもと、この魔王が人間界から出て行けば大金星である。しかし、
「おーおー、カッコいい!さっすが勇者だね。惚れちゃうよ!ハハハ」
当の魔王ディアスは手を叩きながら喜んでいる。まるで飲み会で隠し芸を披露させられたかのようである。
「えっ、そう?喜んでもらえて嬉しいなぁ……って、そうじゃないだろ!!」
「もしかして嬉しくなかったの?」
「いや嬉しいことは嬉しいけど……って根本から違う!恐れを抱くモンだろ!?俺は勇者なんだぞ!勇者」
「やっぱり嬉しいんじゃん!コノこのぉ」
「あーもぅ!アンタと話してると調子が狂うぜ。本当に魔王なの?アンタ」
勇者マニアルが抱いていた魔王像と目の前にいる魔王はあまりにかけ離れすぎていた。
まるでどこかの国のちゃらんぽらんな王子様のようであった。ちゃらんぽらんな……
「そうか。アンタ、実は魔王と呼ばれてるだけの何処かの国の王族だろ?だから魔王に見えないんだ」
「いやいや魔王だよ。ホラ、コレ名刺。ここンところに名前書いてあるでしょ」
「…………」
名刺を渡されたものの、魔界の文字は人間の勇者マニアルには読めなかった。
「ともかく!俺はアンタを倒さないといけないの!!勝負しろ!勝負!!」
「はっはァ、挑戦者だね!挑戦者のお相手も魔王の仕事だったね。よし、やろう!」
勇者マニアルが剣を抜いた。横にはロボゥもいる。対するディアスは一人のままである。
(2対1ならこっちの方が有利!さっさとやっつけて、この首輪を取ってもらわないとな)
ついでにプリンセス・アウランからは金銀財宝の報酬も約束されている。これは勇者マニアルが18回くらい人生を周回してようやく稼げる財産らしい。
「よーし、いくぜぇ!!」
気合を込めて勇者マニアルがディアスに飛びかかろうとした、まさにそのとき……!!
「おや、そこに居るのはディアスさんではありませんか?」
ふと紳士的な声が降ってきた。
勇者マニアルはピタリと足を止めて、声のした方へと目をやった。そこには1匹の狼と少年がいた。
「おやおや、お取り込み中でしたか。これは失礼。シュウくん、私たちはお邪魔なようだ。向こうへ行こう」
「し、失礼しましたぁ……ファウ、大丈夫かなぁ」
それは通りすがりのシャーベリアンとシュウであった。
二人は天界獣と相対することなく、戸惑っているうちに取り残されてしまったのだった。
幸い、戦闘力を持たないのでそれはそれで好都合であったが、いつまでも逃げている場合でもない。
「犬くん、ファウの手伝いをしよう」
せめて愛するファウの援護をしようとシャーベリアンと一緒にファウを探していたのだった。
そこでディアスと勇者マニアル、そしてロボゥに出くわしたのだ。
いそいそと二人がその場を離れようとしたとき、
「兄者!!」
「へっ!?」
不意に野太い声がして一同は振り向いた。
――いや、声の出所がはっきりしていないので、振り向いたところもそれぞれにバラバラである。
しかし、この場において声を一度も発していない者はそうはいない。
「まさか……」
そうだ。ロボゥなのだ。
ロボゥだけあの声がした時に驚いてもいなければ振り向いてもいなかった。
声を発したのはロボゥで間違いない。とすれば問題なのは、
「兄者!!」
といったようにこの場にロボゥの親類、つまり兄弟がいるということになってしまう。
「もしかして……シュウくん?」
「いやいや!違うでしょ!!この場で疑うべきは僕じゃないでしょ!!」
それもそうだ。ロボゥは伝説のストーンウルフ、つまりは狼である。ということは――
「そうか。キミはハーナスキーか、久しぶりですね」
答えたのはシャーベリアンだった。シャーベリアンの弟がロボゥだったのだ!!
しかし、シャーベリアンはロボゥのことをハーナスキーと呼んでいた。これは一体どういうことなのだろう?
「兄者!俺はずっとアンタを探していた。一体どうして国から消えてしまったんだ!?」
「…………」
二人の間に重苦しい沈黙が流れている。そして呆気にとられているのが勇者マニアルである。
頼もしい味方であったはずのロボゥに、まるで似つかわしくない親類が現われたのだ。しかも、それが魔王側の関係者である。状況によっては魔王側に寝返ってしまう可能性が十分にある。
「おい、おいっ!お前達、一体どういう関係なんだよ!!説明してくれよ!?」
それには一同、同意であった。ディアスも興味津々に頷いている。
「どうやら説明が必要なようですね。分かりました。私から話をしましょう」