オガー島、再興・魔王と勇者が出会うとき part.8
残っている天界獣は――
天を駆ける白い漆黒 スワンクロウ
水を纏いて宙をも泳ぐ突撃天魚 シップウ・ツーレン
伝説のストーンウルフ ロボゥ
以上の3体である。
それぞれ相手をしているのはスワンクロウに対してキジムラ大佐であり、シップウ・ツーレンにはキョウティ、それにロボゥに対してはディアスが当たっていた。
しかし戦況は動いている。ファウと猿山鉄郎が合流したように、この中の2体も合流を果たし共闘を始めていた。
そのうちの2体とは――
「追い込みサンダーで一網打尽!だったのに失敗しちゃった」
「どーせー、そんなことだと思ってたよ」
「ワタシ達のコンビ、侮ってもらっちゃ困りますワ」
スワンクロウとオンミョーン、シップウ・ツーレンとワイパーンであった。
「キャシャーンのモグラは地中専門だし、エクソーンは自己中だからねぇ……」
白いカラスの背に乗ったオンミョーンが大空からキョウティを見据えながらに言った。
「えー、すっごーい!そんなに高いところからキョウティのことが見えるんだねー」
「……ふん、どうせそんなこと言っても内心じゃ僕のことを下に見てるんだろー?分かってんだよ」
オンミョーンは喋らなかったが、大空から地上のことを見る術を彼は持っている。
といっても簡単な『妖力探知』である。キョウティの持つ力は厳密には妖力ではない。しかし普通の生物が持つ『気力』とは明らかに異質な『魔力』を有しているため、オンミョーンにはハッキリと彼女の位置が分かるのだった!
(僕だって、やればできるんだ!!それをアイツらは分からなかっただけ……!!)
宙から位置を確認できれば、後はスワンクロウに攻撃をしてもらえばいい。
『大雹嵐』
スワンクロウが羽を振るうと水分が振りまかれ、そして口から吐かれる冷気は水分を凍らせ、そして地上へと降り注がせる!!
大小さまざまな氷のツブテが地上のキョウティを襲った。
雹の着弾により地上は白い霧に包まれながらも土ぼこりを巻き上げる。
「思い知ったか!これが僕の実力さ!!お前らなんか目じゃないんだよ!ハハハハ!!」
「オンミョーンちゃん、調子に乗りすぎヨ。私の出番がないじゃないのよ」
「その通りじゃ!その通りじゃ若いの。ワシの出番も欲しいのよぅ」
「……誰、アンタ?」
いつの間にかワイパーンの後ろに人影が座っていた。
ぎょっとしてワイパーンが構えても、その人物は座ったまま、手に酒を持って飲んでいる。
「今ちょっとアイツんトコで冷やしてきた酒じゃ。うまいぞ。飲むか?」
「ワイパーン……!!」
さっと殺気が通り過ぎた。ひっ、とワイパーンがシップウ・ツーレンの上で後ずさった時、
「ヒュン!!」
と冷たい風が通り過ぎた。これは……スワンクロウの『瞬氷貫』だ。
「ちょっと!なにすんのヨ!!アレ当たったらお陀仏ですわよ」
「僕が狙ったのはその変なのの方だよ。勘違いしないでよ」
「そんなのウソ!」
シップウ・ツーレンがスワンクロウと向かい合った!
シップウ・ツーレンも今の攻撃が自分に当たりそうになっていたことに怒っているようだ。
身体に纏っている水分が熱を持ち始めている。湯気が立ち上っている。
「あのー、キョウティのこと忘れてない?」
「アンタはちょっとお待ち!コイツと決着をつけてから、改めてアンタに勝負を挑んでやるワ!!」
「望むところだよ。どーせー……なんて思わせない。本当の僕を見せてやる!!」
大空を二つの影がぶつかり合っている。白いカラスと透明に輝く青い魚である。
オンミョーンもワイパーンもまた背中で応酬を繰り広げているようだ。
『大雹嵐』
『水衝撃』
大雹嵐、雹の流星がシップウ・ツーレンへ向けて降り注いでいる。
しかしシップウ・ツーレンの水衝撃は周囲を高圧の水のオーラで覆い、更に前方へ向けて超圧力の水を放射するのだ。
正面からの向かってくる雹はまとめて叩き落されている、その後をシップウ・ツーレンが突き抜けていくのだから、大雹嵐などまるで問題にしていない。
「どーせー、キミなんてザコだと思ってたけど意外にやるね」
「アンタだって、ただのネクラだと思ってた」
シップウ・ツーレンがスワンクロウへ迫った。
速さと高圧の水のオーラを見に纏ったシップウ・ツーレンの突進は、ファウが戦ったシンザンファイブとはまた違った威力と破壊力を持っている。
スワンクロウもただの白いカラスではない。
ひらりと簡単に避けたのもつかの間……
「ぐうっ……!!」
スワンクロウの身体が大きくグラついた。
「キジムラのおじいちゃん、あれは一体何が起こってるの?」
「ふむ、あの魚が纏っているオーラ、あれは激流のオーラじゃな。近くにいれば激流に巻き込まれるがごとく、態勢を崩される……恐ろしい能力じゃ!!」
ということらしい。
オンミョーンとワイパーンのケンカにより、放置されてしまったキジムラ大佐とキョウティは実況と解説を始めたようだ。
これは勝負があっただろうか?
――いや、そうではない。
「これで勝ったと思わないでよ?」
「強がっちゃって!!」
シップウ・ツーレンが宙でフラフラと揺らいでいるスワンクロウへ、
「とどめの一撃!!」
再度激流のオーラを纏い、突進を仕掛けたのだった。
今度は横を掠めるどころではない。ストレートに直にアタックを掛けようとしているのだ。
「アレを受けたらただではすむまいな」
「勝負ありなの?終わったら次はキョウティが戦っちゃうよ。あの攻撃を受けられるかたーのしみ!!」
シップウ・ツーレンがスワンクロウに迫り、そしてぶつかった。
ぶつかったシップウ・ツーレンはそのまま前へと突き抜けた。
矢に射抜かれた野鳥のように、スワンクロウは浮力を失い地面へ向けてと落ちていく。
それをシップウ・ツーレンとワイパーンは勝ち誇ったように横目で見ていた。
「アハハハ!調子に乗るからそうなるのよ!私の力を思い知ったか!!」
勝利を確信して高笑いに励むシップウ・ツーレンとワイパーンだったが、
「ガガッ……!?」
急に身体が重くなった!?重量が2倍、3倍にでもなったように急激に地へと引っ張られていく。
「なっ、なにが起こっている!?アタシ達はなんの攻撃も受けていない。オンミョーンもなにしてないし……まさか!?」
ワイパーンはさっと実況席のキジムラ大佐とキョウティを見た。
「いやいや違う違う。わしらはなんもしとらんぞ!」
「キョウティも同じだよ。キョウティは勝った方と勝負するんだよ――ところで実況です。ワイパーンとシップウ・ツーレンがいきなり墜落を始めました。一体何が起こってるの?おじいちゃん」
「シップウ・ツーレンの身体、ヒレ、尾をよく見てみるんじゃ。なんだか光って見えるじゃろ」
「あっ、本当だ。あれは何なんでしょう?」
「こっ……これは……!?」
それは氷だった!!シップウ・ツーレンの身体のあちこちが凍りついている。これにより身動きがとれなくなってしまい、空中を泳ぐことができなくなってしまったのだ。
一体どうして!?――これはまさか!?
「そうさ。どーせー気が付かなかったでしょ。スワンクロウは冷気を操る冷鳥なのさ。シップウ・ツーレンの激流のオーラは確かに強力だけど……凍りついてしまえば意味ないよ」
ここに来て、スワンクロウが何事もなかったかのように両翼を羽ばたかせ、大空へと戻ってきた。どうやら落ちていったのはやられたフリであったらしい。ついでに言えば、あの突撃による1撃によるダメージも受けてはいない。
当たる瞬間に冷気でオーラを凍りつかせ無効化していたのだ。
あとは寸でのところで避けるだけ。やられたフリをして落ちている間はシップウ・ツーレンもワイパーンも完全に勝利を確信して油断しきってしまっていた。
その隙に凍りついた部分が広がり、やがてシップウ・ツーレンの空での自由を奪ったのだった。
ずしん!と埃を巻き上げながらシップウ・ツーレンが地面に落ちた。
その背に乗っているワイパーンも同様である。共に落ちた後は少しも動かなかった。
「あはは……どう?僕だってやればできるだろ?」
スワンクロウの上で息を吐きながら、オンミョーンが言った。
カァー……クァ……とスワンクロウも明らかな疲労が口から漏れている。
「シップウ・ツーレンの凍らせて激流のオーラを無効化しても『完全に』とはいかなかったようじゃの」
「そうだね。あの子、魔力なさすぎだよ。キョウティだったら、一瞬で氷付けにして、すぐに粉々にしちゃうのに」
スワンクロウの氷攻撃はオンミョーンの魔力によって行われていたのだった。
その魔力が殆ど尽きてしまった今、スワンクロウは飛ぶ気力さえもなくなってしまった。
2度3度、羽ばたいてなんとか大地へと降り立ったが、そのまま眠るように倒れてしまった。
「あはは……むにゃむみゃ」
「魔力を使い果たして眠ってしまったのう……どうする?キョウティちゃん」
「あんな程度じゃどっちにしても楽しめないね。行こう、おじいちゃん、まだ馬とモグラと狼が残ってるよ」
キョウティはそう言ったが、その頃には馬とモグラ――シンザンファイブとヒアイ・モーロンはファウと猿山鉄郎によって倒されており、残っているのは狼である、
『レジェンドオブストーンウルフ ロボゥ』
だけであった。