オガー島、再興・魔王と勇者が出会うとき part.7
「手応えアリ!どうだぁ!!」
魔力を込めたビッグバン・ストライク(右ストレート)である。魔王の娘だけに有する魔力の量は膨大だ。シンサンファイブも天獣として魔力は多少有している。しかしそれは生命エネルギーとして自身の防御能力の向上や突進での破壊力に使われていて、突発的な集中防御に使うことはできない。
シンサンファイブが崩れ落ちた。前足を砕かれたことで歩行が困難になったのだろう。こうなればファウは好き勝手にシンサンファイブを攻めることができるだろう。しかし……
「これで勝ったと思っているのか?フン、確かにコイツだけがお前の相手だったなら、弾けた岩の攻撃だけで倒されていただろうな」
そうだ。今回のファウの相手はシンサンファイブだけではない。馬上のエクソーンも倒すべき相手なのだ。
「私のことを忘れてもらっては困るな。私が倒れていなければこれくらい」
すっと手に持った杖の先端をシンサンファイブの前足に当てると、みるみるうちに砕けていたシンサンファイブの前足が再生していった。
「なっ、何やってんだよ!せっかく動けなくしてやったのに!!」
「動けなくするなら私の方をやるべきだったな」
粉々に砕いた骨を動けるまでに元通りに戻すと言うのは回復魔法にしては非常に高い効果である。
それも術者である本人が殆ど疲労の色を浮かべていないのだから相当だ。
ここに来てファウはエクソーンがただのテロリストではないことを悟った。
「お前、それだけの実力があればあんなアホどものリーダーなんかやってることなかったんじゃないのか?」
「…………」
エクソーンは黙っていた。少し考えるように首を傾げた後で、
「私には愛している人がいた。ポニーテールの良く似合う女性だった……」
「ハァ?」
「私は天界で一番の名門高校へ進学するはずだったのだが――」
その女性は魔法も勉強もできなかったため、底辺の高校へ受験するという話になっていたのだった。
「名門高校へ進めば私は大天使の一人になれるだろう。しかし、私にはその女性が諦め切れなかった」
そういう訳で、エクソーンは天界の底辺高校『駄天商業高等学校』へと進む羽目になってしまったのである。
しかし、あろうことか肝心の女性は直前で心を入れ替え、本来、エクソーンが進むはずであった『大天大付属大天使高等学校』へ進学してしまったのだった。
「なんということだ……」
呆気にとられたエクソーンであったが、今更、決まってしまった進路を変えることはできない。
幸い、高い能力を有していたお陰で不良の多い駄天商業高校ではいじめや暴行のターゲットになることはなかった。
それどころか高いカリスマ性と頭脳、それに能力を生かして学校を支配するに至ったのである。
『駄天商業高校の生徒』それが今の『EXシスターズ』なのだ。
その後、底辺として普段から天界のお荷物とされていた『駄天商業高校』は廃校となった。
それを行ったのが、あのプリンセス・アウランだったのだが、そのことはエクソーンの知るところではなかった。
プリンセス・アウランは廃校となり行き場を失った生徒、もとい『EXシスターズ』を操り、魔界へと送り込んだ。
それが前々回の話『おはらい戦隊 EXシスターズ』に至ることとなった経緯であった。
前述のとおり、駄天商業高校の廃校から魔界への派遣まで、その全てにプリンセス・アウランが絡んでいることをエクソーンは知らない。
知っているのは魔界警察に捕まり地下区画脱出の手引きをしてくれた部分だけである。
それ以降はプリンセス・アウランの指示によって勇者マニアルの元へとやってきたのだった。
「――って、話が長いぞ。誰もお前のつまんねぇ話なんか聞いてないってさ」
「お前が聞いたんだろう?聞かれたから話してやったんだ。感謝して欲しいところだよ……ついでに言えば、プリンセス・アウラン様は魔王を倒せば、大天大付属への編入をも認めてくださるそうだ。私達の物語もハッピーエンドとなるのだ」
「クソッ!!」
長々と話は続いたが、ファウが窮地に陥っていることに変わりはない。
前足が完全回復した。大地を硬く踏みしめているシンザンファイブに痛みの色はない。
「これで終わりだ!魔族の小娘が!!」
ピシリ!とエクソーンが持っていたムチを振るうと、シンザンファイブはファウへ向けて突進を始めた。
「クッ……」
絶体絶命の大ピンチ!あの超速突進を受ければ、ファウでも致命傷は避けられないだろう。
(無駄でも必殺の一撃を叩き込んでみるか?)
超速のエネルギーに対して必殺の一撃を加えれば、多少の威力は緩和できるかもしれない。
しかしシンザンファイブの持つエネルギーは大きすぎる!到底ファウでは太刀打ちできないだろう。
しかしそれでもやらなければならない!
グッとファウは拳に力と魔力をこめた。魔力だけはしっかりと膨大に――
「これでどうだァ!!」
シンザンファイブとファウの必殺『グラン馬殺ストレート』(以下バッサツストレート)がぶつかりあおうとしたその瞬間――
ゴゴゴゴ!!激しい地鳴りをあげて大地が揺れた。
「なにっ!?」激しい揺れにたまらず、ごろん!と馬上のエクソーンが転がり落ちた。
シンザンファイブは揺れに足をとられ、直進のエネルギーがだいぶ削がれた。
そこへバッサツストレートを受けてようやく、ぶつかり合うエネルギーが相殺されたのだった。
「この揺れ……まさか!!」
エクソーンが地に腰を落としながら周囲を見渡すと、地鳴りをあげて地面が沸きあがりそして陥没していく。
これは――堕天潜土龍 ヒアイ・モウロンだ!!
ファウが駆け込んだ先、それはヒアイ・モウロンと猿山鉄郎の戦場付近であった。
ファウはただ逃げていた訳ではない。猿山鉄郎との共闘を画策していたのだった。
猿山鉄郎の重力魔法ならシンザンファイブの動きを止めるとまではいかなくとも鈍らせてることができるであろう。
動きが鈍れば必然的に突進攻撃の威力も落ちる。そこが狙い目であった。
ただファウにも誤算はあった。
戦う相手が『堕天潜土龍 ヒアイ・モウロン』であったことだ。
ヒアイ・モウロンは地中を進むモグラ型の天界獣である。
したがって、地中を進めば地上へは地鳴りと大地の隆起や陥没といった悪影響をもたらしてしまう。
いわゆる害獣なのだ。
そうした特徴は、シンザンファイブの活動領域である整った地形を壊してしまった。
誤算は誤算でも嬉しい誤算だったのだ。
「ええい!キャシャーン!!なにをやっているんだ!!このぉ!?」
エクソーンが怒りの声をあげている。
「寄ってきたのはキミの方じゃないか。僕のせいじゃないよ」
「グぅ……」
確かにキャシャーンの言うとおりであった。地中を掘り進むヒアイ・モウロンの戦場へ足を踏み入れてきたのはエクソーンでありシンザンファイブの方だった。
「だからといって、もっと配慮とかあるだろう!私の魔力を察知するとかそういう気遣いがないからお前は……!!」
「お二人さーん」
はっとしてエクソーンとキャシャーンが顔を上げた。
そこにはファウと猿山鉄郎がいた。
エクソーンとキャシャーンはお互いに魔力を察知することができず、戦場に関して配慮することができなかった。
しかしファウと猿山鉄郎は違った。
「ファウ姉さん、うまいことアイの魔力察知してましたな。おまけにファウ姉さんの魔力も、びんびんに感じましたわ。あんなにデカくて強い魔力、ファウ姉さんのオハコですわな」
「あんがと。コイツと馬をやっつけてお前の相手もボコすつもりだったんだよ。こっち手伝ってもらってそのままって訳にもいかないからさ」
というワケであった。
落馬して動けないエクソーンと砕けた地面に足を取られて倒れているシンザンファイブ、それと何もできないでいたキャシャーンはボコボコにして拘束した。
地中に潜んだままのヒアイ・モウロンはファウの『グランドクラッシュストレート』で倒された。
地上からの特大魔力の殴打攻撃で大地もろとも叩き割られたのだった。