オガー島、再興・魔王と勇者が出会うとき part.6
『天上天下唯我白烏 スワンクロウ』
『超天地馬神 シンサンファイブ』
『堕天潜土龍 ヒアイ・モウロン』
『神烈疾風天魚 シップウ・ツーレン』
『天涯孤独狼 ロボゥ』
突如として5匹の天界獣がオガー島を襲った。
世界でただ一つ、天を駆ける白い漆黒 スワンクロウ。
大地を走る5本の脚を持つ天馬 シンサンファイブ。
地の底に沈殿した暗き夢 ヒアイ・モウロン。
水を纏いて宙をも泳ぐ突撃天魚 シップウ・ツーレン
誰にも知られぬ伝説のストーンウルフ ロボゥ。
「なんだありゃ!?」
ファウが声をあげた。
あんな生物、人間界はおろか魔界ですら見たことがない。
そもそも纏っているオーラが違う。魔を払う聖なる力をその体躯から放出しているのだ。
「あれは天界獣だね。天界の生物だ」
「天界だって!?」
ディアスが暴れまわる天獣を見つめて言った。
「どうやらエサに掛かったみたいだね。僕が人間界に降りてきたかいがあったよ……ともかく、天界獣を全て倒すんだ。僕はあの狼をやろう。君達は他の4匹の相手をして」
さっとディアスは頑強な岩毛を纏ったストーンウルフ、ロボゥへと向かっていった。
「私たちはどうする?」
この場にいるのはファウ、キョウティ、シュウ、猿山鉄郎、シャーベリアン――それに、
「困っておるようじゃな。ワシが助太刀いたそう」
なんとキジムラ大佐が駆けつけてくれた。
「お前、なんか企んでんじゃねぇだろうな?」
ファウがキジムラ大佐を睨みつけると、
「ファウ、今は人手が一人でも欲しい。この人と何があったかは知らないけど、協力してくれるっていうからにはお言葉に甘えようよ」
「むう……」
シュウの言うとおりであった。
天獣はいずれも驚異的な力を持っているようだった。
スワンクロウは大空から『灰燼の風』を起こし、せっかく作り上げた城を砂へと変えている。
5本の脚を持つシンサンファイブは、強靭な脚力による突進で城壁を破壊。
地中を進むヒアイ・モーロンは城の真下を掘り進み地盤を緩ませ城を崩壊せしめ、
シップウ・ツーレンは宙を駆け巡り、邪魔者を排除しようとしている。
この4匹の天獣に対し、ファウ達は3人と3匹いることになる。
しかし、まともに戦えるのはファウとキョウティ、猿山鉄郎……それにキジムラ大佐くらいで、シュウとシャーベリアンは戦闘には向いてはいない。
とりあえず天獣1匹に対し、一人は対峙できるようであった。
「私はあの馬をやるよ」
「じゃあキョウティはお魚をやるね」
「アイはモグラですな。今までにない敵を相手にするのは腕がなりますわな」
「あんな鳥公、ワシが瞬殺してやるわ!!ファウちゃん、見ていておくれ~」
そうして各自が4匹の天獣へ立ち向かうことになったのであった。
「久しぶりだな。魔界の小娘」
「て、テメェは……!!」
ファウが向かった天馬シンサンファイブ、その背の上にはエクソーンがいた。
「魔界警察に捕まったんじゃなかったのか!?」
「プリンセス・アウラン様の手引きで脱出したのさ」
「プリンセス・アウランだとぉ……」
ファウには聞いたことのない名前であった。しかし、魔界での授業ではしっかり習う名前でキョウティやシュウなら知っていることだろう。
「そんなことはどうでもいい。人間界に降りてきている魔王の手下がお前とは好都合だ。魔王もろとも打ち倒してくれるわ!!」
シンサンファイブが高く大きくいなないた。
それと同時に5本の脚をストライドさせ、ファウへと突っ込んできた。
「チッ……」
ファウは間一髪でそれを横っ飛びに回避すると、すぐさまシンサンファイブへと向き直った。
(やっぱり馬だな。動きが大振りだが速すぎる)
速さはそのまま破壊力へと繋がっている。『相手の動きを止める』もしくは『ダメージを与える』には、あの速さ以上の力をぶつけなければならないだろう。
やれるだろうか?ファウは考えた。
(いや、アイツの動きが速すぎる!!)
効果的なダメージを与えるには、打撃を与えるタイミングが勝負となる。
必殺の一撃を与えるには向かってくる相手に対して、早すぎてもダメだし遅すぎてもダメだ。
100%ベストなタイミングで打撃を与えるには相手のスピードが速すぎるのだ。
(せめて体勢を……呼吸を乱すことができれば……)
「ハハハ!!どうした!?逃げ回っているだけなのか?」
シンサンファイブの上でエクソーンが笑っている。
「チッ……」
さっと向かってくるシンサンファイブをかわすと、ファウは背を向けて走り出した。
ファウとすれ違ったシンサンファイブが向きを整えて向かってくるまでには、それなりの時間を要する。その間に――
(せめてアイツがスピードを発揮できない場所へおびき寄せてやる……!!)
このことであった。
ファウが駆け込んだ先は森であった。
森といっても木々が生い茂っている訳ではない。
キジムラ大佐とカメの衝突によって発生した衝撃波によって、葉っぱは全て吹き飛ばされ、残った木々も辛うじてその場に残っているような荒地である。
木々は立っていても緑の葉がないため、空は見えるし先も見通すことができる。
この場所なら多少はシンサンファイブのスピードを、
(殺すことができるかもしれない)
そう考えたのであった。
後ろから怒涛の足音が聞こえる。ファウの体が僅かに重くなったような気がした。
それが真後ろに迫ったところでざっと横っとびで突進を回避すると、即座に立ち上がり、迎え撃つ準備をした。
「なるほど、この場所なら俺のシンサンファイブの突進を防げると考えたか。小賢しいな、悪魔の小娘が」
振り返ったシンサンファイブが脚を止めて、ファウを睨んでいる。
「だが無駄だ!こんな枯れ木はシンサンファイブの障害にもならんわ!バカタレが!!」
ザザッと一直線に向かってきた。木々はまるで紙のように簡単にへし折られ、突進にまるで影響を及ぼしていない。
やっぱりダメか……とファウは歯噛みをした。それならば――
「コイツならどうだ!!」
右手に魔力を込めて、地面へ大きく叩き付けた。
大地は大きく砕け、その破片や岩がシンサンファイブ目掛けて弾けて飛んでいく。
「小癪なマネをする。だが……」
エクソーンが迫り来る岩の弾丸へ手をかざすと、魔力の障壁を発生させた。
「魔力はお前達の魔族の専売特許ではないんだよ」
強力な魔力の障壁だ。ぶつかった岩はことごとく砕けるかそのまま落ちてしまい。シンサンファイブとエクソーンまでは届いてはいない。
「チッ。確かにそうだけどな。脚が止まってンぜ!バーカ!!」
さすがのシンサンファイブもファウが地面を殴りつけた光景に驚きを隠しきれてはいない。
エクソーンが防いだものの、シンサンファイブ自体は岩の破片を無効化できるとは到底思ってはいなかったのだ。
自然、脚が止まったばかりか、それを避けようという動きを既にとってしまっているのだった。
そこが狙い目だ。「こンのやろォ!!」
ファウが渾身の力を込めて、シンサンファイブの前足3本を殴りつけたのだった。