オガー島、再興・魔王と勇者が出会うとき part.5
「コイツら本当に大丈夫なのか?」
勇者マニアルは現われた助っ人4人を見て呆然と立ち尽くしてしまった。
「人間風情が何を言っている?私は悪魔祓いのエクソーンだ!」
「地獄の沙汰も金次第さ。お支払いなら僕にオマカセ……キャシャーン!!」
「どーせーまんせー。陰陽師のオンミョーンだよ」
「そして私がつゆ払い ワイパーン!雑用係じゃないのだわ!」
ファウが彼らを見たらなんと言うだろうか?
きっといつかの仕返しとして魔力をフルパワーに開放して吹っ飛ばしてしまうだろう。
そう、なにを隠そう彼らは『おはらい戦隊 EXシスターズ』である。
「フッ、その名前も今となっては空しく響くのみか……」
エクソーンがしみじみと言った。
あの事件、魔界での一件以降、『おはらい戦隊 EXシスターズ』は魔界警察に全員逮捕され、迷惑行為防止条例によって地下区画へと送られてしまった。
地下区画は人間界でいうところの刑務所、もしくは拘置所にあたる施設であり、魔界の法を犯したものはそこで労働を強いられるのである。
『お払い戦隊 EXシスターズ』ももれなくそこへ送られた。
しかし、エクソーン、キャシャーン、オンミョーン、ワイパーンの4人はプリンセス・アウランの手引きによって脱獄するに至ったのである。
つまり今残っている『おはらい戦隊』はこの4人のみ……。
兄弟姉妹達は全て魔界の地下に残されており、いつか彼らを救い出さなければならない。
プリンセス・アウランは今回の仕事の成功の暁には、彼らの救出の方法を考えようと話していた。
「それで今回、私達は何をすればいいのかしら?」
「どうせー、僕たちじゃ大したことなんかできっこないんだ……」
「それはお金で解決できる問題なのかい?プリンセス・アウラン様」
「キャシャーン、今の我々は収監時に持ち物を没収されて無一文だぞ」
「…………」
うるさいうえに無一文ときた。勇者マニアルはがっくりと肩を落とした。
到底強そうにも見えないこのノータリン4人組を率いて 魔王を倒さなければならないとはどうしたことだろうか。
しかも魔王自体、正体が不明なのである。噂にも話にも、プリンセス・アウランが存在を話した程度のことである。
(本当にそんなのがいるのかどうかも怪しくないか?)
と勇者マニアルは思ったが、彼の首はまっている服従リングは本物である。プリンセス・アウランが彼の言動で気に入らないことがあれば容赦なく締まり、勇者マニアルを苦しめるのだ。
冗談でこんなことをするとは考えにくい。少し話を聞いてみたいところだが、余計なことを聞くと後が怖い。
「プリンセス・アウラン様、我々はこの人間と何をしたら良いのでしょうか?」
おっ!と勇者マニアルが目を見開いた。このノータリンの中で一番偉そうな男……確か名前をエクソーンとかいっただろうか。プリンセス・アウランに一番聞きたいことを聞いてくれたではないか。
「魔王退治だ。お前達ならできる」
「ええっ!?」
一同が驚いている。
「私達魔界の小娘にすらコテンパンに負けたのだわ」
「どうせー……勝てないどころじゃないね」
「お金で買えない価値がある。命の価格はプライスレス」
要するにできないらしい。それよりも、プリンセス・アウランが本当に魔王退治を自分達にさせようとしていることはハッキリとした。
ここまで言うということは何かの間違いではないようだ。
「おっ、おい!そこのお前達!!」
不意に森の奥から声が響いてきた。なんだか汚い中年男性二人が姿を現した。
「プリンセス・アウラン様、あの二人もアウラン様が呼んだ助っ人なのですか?」
「いや、私はしらないぞ。あんなゴミなどは」
「今、お前達『魔王』については話していなかったか!?」
「ああ、まぁ話していた……と思うぜ」
それだったら丁度良い、と中年二人は今し方オガー島であったことを勇者マニアル一同に話して聞かせた。
「――要するに、土塊の怪物を操る少女二人組に脅されて逃げてきたってところか。そいつの年の頃は17歳と19歳くらい。大したことないんじゃないのかソレ?」
仮にも中年男性が二人である。襲うやら脅すなら、この二人の方だと考えるのが自然であろう。勇者マニアルは疑いの目を中年二人へ向けたものだが、
「うっ、17歳くらいの少女!?」
ノータリン一同がひどく怯えているではないか。一体なにがあったのか、一応、勇者マニアルが聞いてみると、
「過去にそんな年頃の少女に酷い目に遭わされただわ」
ということだった。 19歳くらいの方には心当たりはないようだが、17歳の方がよっぽど怖いらしい。
土塊の怪物を操っているということから、恐らく人間ではないだろう。それならば魔族であり、魔族の17歳となるとノータリンのトラウマを刺激するようだ。
「アイツら、あの島に城を造ってんだ。その所有権もプレゼントとしてちらつかされたが……コイツはアレだ。所有権を得たら、城の主として魔物に改造されるんだ。きっとそうに違いない」
「それがアンタ……いえ、アウラン様の話している魔王なんですかね?」
「恐らくそうだろう。勇者マニアルよ。その魔王を討伐するのだ!!――それと今、私のことをアンタ呼ばわりしたな。お仕置きだぞ」
「ぐえぇ!!時間差~」
こうして勇者マニアルとノータリン4人組はオガー島へ向かうことになったのだった。
「それにしてもよォ。敵の本拠地に乗り込むのに、俺とこの4人組だけじゃ心もとないんじゃないか?」
オガー島に乗り込むに当たって、当然の疑問を勇者マニアルは呟いた。
オガー島は人間界でもオガー島と言われている。それはオガー族自身が人間と同じ言葉を持ち、自分達のことをオガー族と言っていたためである。
自然、それを聞いた人間は彼らのことをオガー族と呼んだし、彼らの住む島をオガー島と呼んだ。
さて……問題なのは、今その島にいるのがオガー族ではなく魔王であるという点だ。
オガー島での衝撃波事件、詳細に言えば『カメとキジムラ大佐の衝突事件』なのだが、何も知らない人間達にとっては『オガー島、謎の大爆発』として扱われている。状況を確認するために周辺の人間達が島に渡っていたのだが、その頃にはオガー族は新天地を求めて島を出て行ってしまっており、ついでに当事者であるファウも魔界に帰っていたため、島はもぬけの殻となっていたのだった。
あるものといえば爆発によって抉られた大地だけである。
人間界に降りてきた魔王はそこを修復して城を建てているという話だが……
「おいおい、やっぱり城が建ってるじゃないか。まだそんなに大きくないみたいだけど、中に住んでるのは強いぞ、多分」
海岸線に見えるオガー島、衝撃波によって木々は吹き飛んでしまったため、建造物があれば離れた場所からでも十分に見ることができるのだ。
「俺、勇者とか言ってるけど全然強くないし、戦いだってシロートだぜ?どうするんだよ」
「何を怯えているのだ。お前の首についている服従リングはただのリングではない!着けた者に力を与えるスレイブリングだ」
「――って、それだったら、俺じゃなくても良かったんじゃないの?もっと強そうなヤツに着けて勇者にすれば良かったんじゃないのか」
「愚か者め。話は最後まで聞くものだ。このリングは勇者の資質を持つものにしか力を与えないのだ」
「俺って勇者の資質があんの?そうは見えなねェんだけど」
勇者マニアルの人生、これまで特筆すべき部分はまるでなかった。
喧嘩はまったく強くないし、頭が良いわけでもない。ついでに女性にモテるわけでもない。
平凡というよりは出来の悪い人間という方が正しいかもしれない。それがただの人間マニアルである。
その人間マニアルが今やプリンセス・アウランという謎の存在のお陰で勇者マニアルとなったのだ。
本人は実感はないが、プリンセス・アウランの力は強大なようだ。きっと大きな力を得ているに違いない。
「――というワケだ。分かったか?勇者マニアルよ」
「…………はい」
「しかし、お前の言うことも一理ある。確かに我々には戦力が足りていないだろう」
珍しくプリンセス・アウランが勇者マニアルの意見を肯定したではないか。
(結局、コイツもあの4人を信用してないんだなァ)
EXシスターズと言った4人組は見るからに強そうではない。これくらいまだ野生のクマ1匹の方が強いだろう。
「そこでお前に与えたスレイブリングだ。そのリングを通して、生物に私の力を与えることができる」
「というと……どういうことだよ?」
プリンセス・アウランが話すには、スレイブリングを通して人間界の生物に天界の力を与えることができるらしい。
天界の力を得た生物は聖なる力をその身に宿して、限界を超えたパワーを発揮するのだそうな。
「ただし力を与えられるのは1つのリングにつき1体までだ。2体以上与えると人間程度の精神力じゃ焼ききれるぞ。分かったな?」
勇者マニアルは頷いた。1体まで……ということは慎重に選ばなければならないだろう。
強化されるとはいえ、強化された生物の持つ能力は元の生物の身体能力に大きく影響されるらしい。
例えばチワワをスレイブリングで強化したとしよう。
チワワが『カイザーチワワ』のような凶暴種ならともかく、人間界に存在するチワワはごく普通の超小型犬なのだ。
強化しても大型犬程度の力しか持たせることができないだろう。
とにかく強化して仲間に加えるならば心強い仲間の方が良いだろう。
ついでにノータリン4人組にもしっかりとスレイブリングは装着されてしまっており、彼らもまた相棒を捜し求めることができるようだ。
「勇者マニアルとEXシスターズよ!お前達が心に決めた手下を我が元へ連れてくるがいい!!」
そうして勇者マニアルとEXシスターズの相棒探しは始まったのだった。