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オガー島、再興・魔王と勇者が出会うとき part.4

勇者マニアルは山を歩いていた。


「きびきび歩け、キビ団子」

「えー、でもよォ……」

 

 勇者マニアルは山賊に襲われた過去を2日前に持っている。

 勇者とはいえ、ただただ謎の存在に指名されたくらいで特別な力も使命も持っている訳ではない。

 そんな彼がどうやって山賊を退けたかといえば、それは謎の存在が救ってくれたからに他ならない。

 

「丁度、私が見ていたからいいものを…・・・私だって暇ではない。24時間お前の世話を焼いている暇はない。つまり、お前を手助けする仲間が必要だというワケだな」

 

「アテがあるのか?オイ」

 

 勇者マニアルの首輪がキュッと締まった。

 


「ぐええ!何か気に障ること言ったか!?オイオイ」

「これ以降、『オイ』という言葉の使用を禁止する。言ったら首が絞まるから以後注意するように」

「へいへい……グエエッ!!」

 


 謎の存在は言わなかったが『へい』気に入らなかったらしい。

 勇者マニアルはそれ察すると、余計なことは口にするまいと心に誓ったのだった。

 


「お前の助けになりそうな奴等が4人いる」

「へぇ!4人も居るのか!一体どんなヤツなんだ!?」

「うーむ。まぁ一生懸命な奴等だ」

「一生懸命?」



 あまり具体的な表現が出てこないことに勇者マニアルは一抹の不安を覚えたが、謎の存在も人智を越えた強大な力を持っている。そんな存在が呼ぶ助っ人なのだから、まず頼りないといったことはないに違いないだろう。

 早速手配する。と謎の存在が呟くと、勇者マニアルは4人の仲間に思いを馳せながら再び山道を進み始めたのだった。



 

 

 バリキダックの活躍でクレーターの補修はほとんど終わった。

 あとは寝泊りするための施設づくりということで、新しくお城を造り始めていた。

 今ある住居でも寝泊りくらいなら十分に出来るが、魔王なのだから大きなお城が欲しいよね!とディアスは語っていた。

 


「今日もお疲れ様、いやぁファウくんは頑張るね!得意なのかい?お城作り」

「まぁちょっと経験があって……」


 シュウとの縁談を破談にするために破壊した彼のお城を修復した経験が役に立っているなどとは、とても言えないファウである。

 なのでファウはちょっと話を逸らすことにした。



「あっ、そうだ。ディアスさんに話があって」

「ディアスでいいよ。さん付けなんて堅苦しい」


 とはいえ、ファウにとってディアスは雲の上の存在である。さんはいらないと言われても中々口に出しづらいのだ。



「あの、うちに喋る剣があるんだけど。何か知ってないですか?」

「喋る剣?」

「とてもうるさいんで地下の物置に置いてあるんだけど、その声、私にしか聞こえてないみたいで」

「へぇ。どんな剣なの?」

「見た目はすっごい無骨で飾り気もないんだけど、喋ることだけは立派で……一度、危機を救ってもらったことがあるんだ」

「すごいじゃん!なんで持ち歩かないの?そんなすごい剣、使わなきゃソンでしょ!?」

「そりゃそうなんだけどさ」



 あの口煩さは父であるアズマにも負けてはいない。しかも中身は少年のようで声は若干高くキンキンと耳に響く。

 そして極めつけはデリカシーのない言葉を次々に発するところである。

 バカやアホならまだマシなくらいで「いい胸してるのになァ」とか「もっとビリビリの露出の多い服の方が似合う」とかキジムラ大佐みたいなことを言ってくるのだ。

 そういう訳でファウはあの剣を地下室に幽閉した。

 


「なるほど。その声ってファウにしか聞こえてないんでしょ?」

「そうなんですよ。キョウティには聞こえてなかったし。なんでなんだろ?」

「うーん。その手は何かきっかけがあると思うな。その剣の声が聞こえるようになるきっかけ」

「きっかけか……」


 あの剣を手に入れたのはオガー島で商家の息子を助け出したときに、商家のおやじからお礼として貰ったことにある。

 そして次には『おはらい戦隊』のエクソーンとの戦いだ。

 その時にはあの剣が喋り出し、危機を救って貰ったに至っている。

 あの剣に関するくだりはこんなところである。

 この一連の流れのどこにきっかけがあるのだろうか?



「分からないなァ……」

「ま、ファウにしか聞こえないんだったら、剣がファウを選んだなんらかの条件があるはずだよ――というか、そのことを剣本人に聞いたら良かったんじゃないの?」

「うーん。気が進まないけど、それしかないかな」


 そう思った矢先のことだった。



「おぉ、なんかスゲーのが出来てやがるぜこりゃ」

「ホントだぜ。筋肉ダックが荷物運んでるから、なんか金持ちがやってんだろうとは思ったがまさか城が建ってるとはな」


 野太い声が響いてきた。中年の男二人が島に入り込んできたらしい。

 彼らの話に寄れば漂流者の類ではなく、金目のものを求めてやってきた盗賊のようだ。

 ファウとディアスは広場の目立つところに接地したベンチに腰を掛けていたので、この二人がファウとディアスを見つけるのはすぐのことだった。



「しかも金持ちが女子供ときているみたいだぜ」

「運が回ってきているな」


 見た目は人間の17歳前後の姉妹とくればこれはカモである。中年二人はお宝を既に手に入れたような気持ちになって浮かれてしまった。



「おい姉ちゃん。金目のものを全部出してくれたら、手荒なマネはしねぇよ」

「そうそう。大人しくしてた方が身のためだぜぇ」

「…………」


 ファウもディアスもまったく怯えた様子を見せてはいない。

 もちろん中年二人とファウとディアスとでは、見た目は同じ人間に過ぎない。

 しかし、中身はただの人間と魔界の魔族である。それは人間にとっては自分達よりも2倍も3倍も巨大な体躯を持つ巨人を相手にしているのに等しいのだが……


「へッへッへ……」


 とスケベそうに笑っているだけに、そんな力の差にまるで気付いていない。


「へッ、ゴミ風情が何行ってんだよ」


 ファウはそう言って笑いだしそうになったが、ディアスが口に手を当てて、

 (黙ってて)と合図したので、仕方なく黙っていた。



「お兄さん方さァ、何が目当てでココに来たんだっけ?」

「そりゃ金だよ。城があるんだぜ。金あるだろう」

「お金かぁ!お金、いいよね。いい夢を見たいよね」

「分かってんじゃねぇか。分かってんだったら、さっさと出せよ。俺ァ、待つのが嫌いなんだよ」

「…………ゴーレムくん」


 ディアスがぱちんと指を鳴らすと、巨大なゴーレムが人間と魔族の間に割って入ってきた。


「グォォォ!!」



 低く濁った唸り声と土の暗い臭いが辺りに散らばった。これには流石に中年二人も只事ではないと思ったようだ。

 腰を引いて今にも逃げようとしている。そこへ、


「逃げなくていいよ。ここまで恐れずにお話してくれたお礼を仕様と思ってさ」


 そう言うと、ゴーレムくんが3つの箱を中年の目の前へと下ろした。

 箱の大きさは3種類ある。丸い箱と四角い箱と三角形の箱である。



「どれか一つにキミ達が望んでいたお金がたくさん入っているよ。もう一つはお城の所有権、そして最後は……まぁ、ハズレは1個しか入ってないから、当たらないでしょ?一つ選んで持って帰ってよ。ただし、選ばないって選択肢はダメ」


「…………その話、本当なんだな?」


 どうやらディアスの話を疑っているらしい。今の話だけなら、箱の中身は保証されてはいないだろう。中身が全てハズレである可能性もあるのだ。



「あはは、参ったなぁ。そうだよね。今の話の流れで、全てを信じろって方が無理だよね」


 そこでファウに目配せをした。どうやらファウに一つ選んで見ろと言っている。

 (一つ選んで、中身を見せてあげてよ。見せたら、その箱は開けっ放しでいいからさ)

 ファウは三角の箱を開けた。中には紙切れが一つ『城の所有権』が入っていた。

 

「キミ等がそれが欲しかったら、それを選んでもいいよ。残りはお金かハズレだね。どうする?」

「…………」


 中年は震えている。

 確定している『お城の所有権』を選べば、最悪ハズレは回避できるだろう。

 しかし、それを手にしてどうなるのだろうか?

 正直あの人間に見える少女二人組は、もはや普通の人間ではないことは明らかだった。

 きっと悪魔か怪物の類だろう。そんな相手が建てた城を明け渡されたところで、何が起こるか分かったものではない。

 

 それはお金が入っているという話に関しても言えることだが……

 (これじゃどれを選んでも同じことじゃねェか)

 絶望しきっていた。そんな訳で彼は思い切って、空いていない丸い箱を手にした。中には大判小判が入っていた。


「おめでとう!金だね、ゴールド、綺麗だね!あぁ、楽しかったよ。気をつけて帰ってね」


 ディアスが手を振っている。何かしてくる訳ではないらしい。

 中年二人は一目散に逃げていった。

 もはやファウとディアスを襲うどころか、この場にすら居たくないようだった。



「ファウくん、ハズレを引かなかったね」

「私達には箱を開けなくても邪気が見えるから。わざわざハズレを選んでアイツを助ける義理もないし……というか逃がしちゃっていいんですか?魔王って人間を支配したり虐げるもんじゃないんですか?」

「ハハハ、あんなのはやっつけても面白くないでしょ?恐怖心からハズレを選んで破滅する姿は面白いけど……そもそも本当に面白いのはあんなゲームに乗らないでいきなり殴りかかってくるヤツだよ。世界を救う勇者とかそういうのはその類さ」


 確かに、あんなゲームに乗る時点でただの見世物に過ぎなかった。ファウもあれなら邪気の詰まった四角い箱を

 (選べ選べ)と期待していたものだった。

 ついでにディアスは言った。

 ああいう恐怖を植えつけたものを世に放つことで、噂は広がり色々な人間がやってくるようになるのだと。

 


「あんなのがこぞってやってくるなんて面倒じゃないですか」

「ザコはゴーレムくんにまかせて、本物の勇者は僕がやるんだよ。人間が集まれば勇者も現われる」


 分かるようで分からない話だった。ファウは勉強が苦手だから、難しいことは分からない。

 勇者もザコも同じ人間なんだから、まとめてやっつければ良いんじゃないか?

 手に付く限り、人間なんかやっつけるのが魔王なのではないのか?


「分かる。分かるよぉその気持ち!でも、そんなことしてても埒が明かないでしょ?殺戮を求めて暴れまわるだけなんて、そんじょそこらの魔物でもかんでも出来る。そんな魔王に意味はあるかい?」

「…………嫌だなぁ」

「でしょでしょ!まぁ、そのうち分かる時が来るよ。求めていれば必要なものは向こうから来てくれるものさ」

「勇者みたいに?」

「おっ!そうそう!ノリがいいねぇファウくんは!!」

「あのー、私のことをファウくんって言うの、気に入ったんですか?」

「うん。キミの妹が呼んでるヤツだよ。ファウくん!ファウくん!ってね」 

「ハハ、そうですか」

 ところで、元はどういった話をしていたのだったのだろう? 

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