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オガー島、再興・魔王と勇者が出会うとき part.2

「マニアル、起きるのだマニアル」

「誰だよ。寝てんだから起こさないでくれよ」

「起きろって言ってるだろう。起きろよ」


 ここまで来て、明らかに何者かも分からない声を認識して、マニアルは目を覚ました。

 周囲を見渡してみてもそんな声の主は見当たらない。

 マニアルは一人暮らしである。物心が付く前から一人であり、山で猿に拾われて育てられていた。


 「…………気のせいか?」

 「気のせいではない。目を覚ますのだ」


 今度は明らかな声がして、マニアルはこの空間に何者かが潜んでいることを確信した。

 どこからだろう?こんなことは一度としてなかったことだ。外からの侵入者にしても、言葉を、それも人間の言葉を発する生物はそんなにいるものではない。



 「何処にいる?お前はどこの誰だ?」

 「私は天界王女のプリンセス・アウラン。天界で一番えらい天界プリンセス、プリンセス・アウランだ」

「そのプリンセス・アウランってのが俺に何の用だ?つまらない用だったら帰ってくれよ」

「人間界に魔王が降り立ったのだ。お前にそれを倒して欲しい」

「はァ!?何言ってんだお前。なんで俺なんだよ」

「ふむ……」


 プリンセス・アウランは悟った。ここでこんな問答をしていても埒がないことを……!!

 そして読者もまたそんなことを望んでいないと、プリンセス・アウランは察したのだった。


「というワケだ。お前はこの地図のこの場所へ言って、魔王を倒して繰れば良いのだ」



 そう言い放つと、マニアルの首に虹色に輝くチョーカーが現われた。

 


「なっ、なんだよコレ!!」

「お洒落だろう。勇者の力を引きだす装飾品であると同時に私の言うことを聞かないと、輪が締まる服従装置だ」

 「お前っ!!」

 

 

 もちろん人間の力で外れるような代物ではない。勇者マニアルは渋々、プリンセス・アウランの言葉通りに地図の場所へ向かうこととなったのだった。


 

 


 勇者マニアルが木の上に作られた小屋から旅立つための準備を終えて眠りについた頃、オガー島では歓迎パーティが開かれていた。

 誰の歓迎かといえば新魔王のディアスの歓迎会である。

 

 発案は本人、準備も本人、司会進行も本人と実にお祭りごとが好きなディアスなのだ。

 食材や会場を作るための材料はディアスのゴーレムくんが集めてきてくれた。

 ゴーレム生成もここまで極めれば戦闘を行うだけでなく、家事手伝いも十分にこなしてくれるそうだ。

 


「今の魔界じゃ戦闘用に使うことの方が少ないよ。戦うなら、自前の方が楽しいでしょ?」


 人差し指を立てながらディアスが笑った。

 なるほどなぁ、とファウが真面目な顔で頷いていた。


 (魔力や腕力なんて、相手を攻撃して屈服させるものばかりだと思ってた)


 このことである。


 それはもちろん間違えではない。間違えではないが、魔力や腕力を背景にした攻撃や侵略行為も、生活や生業のうえに成り立っていると言っていい。

 つまり自分達の生活を豊かにするため、生活に役立てるために魔法や腕力を使うという訳なのだ。



「おーい、犬くん!芸をやってよ。ボールを投げるやつ!」

「了解しましたよ。魔王様の命令には逆らうわけにはいきませんからね」



 シャーベリアンが舞台に上がってゴムボールでお手玉を始めた。


 (へぇ、アイツもやるもんだな)


 ファウはシャーベリアンの大道芸を見るのは初めてであった。

 前足と頭と尻尾を上手く使って、流れるように宙にボールを流している。

 そこを猿山鉄郎がボールを回収したり、流れに新たなボールを加えたり、変幻自在に状況を変えてゆく。


 それでもうまくボールの流れを止めずに前へ後ろへと舞わせているのだ。

 会場から拍手が沸き起こった。大盛り上がりである。

 さてこうなると、新たに問題が浮上するものである。



「次は誰がやるか?」ということである。


 シャーベリアンと猿山鉄郎はこうしたことに慣れていたので、大成功を収めたのだが、他の者はというと、

「未知数」

 なのだ。



「ほら、誰がやろうよ?誰でもいいよ!」



 ディアスが上機嫌に手を振っているので、誰かが行かなければならないだろう。



「ファウくん、行きなよ」

「えっ?」

「ファウがやるのかい?応援してるよ!ボク」

「ファウ姉さんが次ですか。こりゃ楽しみですな」

「次はファウがやるの!?良いね!そういうの柄じゃなさそうだから楽しみだよ!」


(分かってんだったら勧めんなよ!!)


 とファウは歯噛みをしたが、ディアスが喜んでいるのならば仕方がない。

 こういうときは何が出来ただろうか?ディアスの言うとおり、柄ではないので持ち芸などチリの一つもない。


 壇上に上がるに至って、ファウは必死に考えた。


 自分に何が出来るだろうか?何をやれば良いのだろうか?

 こんなことを必死に考えるのは、シュウに嫌われるための破壊行為を父であるアズマにバレた際に口に出す言い訳を考えるのと非常に似ていた。


 うーん、どうしたものか。


 この頃、作者も一緒になって考えていたものだった。一体彼女が人前で何ができるかということを。

 そうだ。いいことを思いついた。ということで念を送って、彼女にアドバイスを送ることにした。



「む?ああ、それはいいな。ああ、それでもいいか」


 どうやら賛成のようだ。いよいよファウが壇上へと上がった。

 壇上へ上がると、端っこまで歩いていき、軽く背伸びをすると……


「おお!」


 その場で真上へ大きく飛んだ。そして宙で大きく体を捻り、宙返りを行い着地をした。

 そしてその勢いのままに後方回転を4回5回と繰り返し、最後の1回は再び大きく跳ね上がり、3,4回体を捻りを加えて綺麗に着地した。



「…………」



 会場が静まり返った。


 (ヤベ、失敗はしなかったはずだけど、面白くなかったか?)


 見応えはあったと思うが、なにぶん盛り上がる部分がなかったのかもしれない。

 ともかく芸はやったのだ。結果はどうあれファウの番をやり遂げたことになる。

 複雑な思いを抱えつつも舞台から降りていくと、不意に歓声が上がった。



「ファウくん、あんなことできるなんてすごいよ!キョウティ、見直しちゃった」

「僕も僕も!あんなすごいファウ、見たことなかったから……感動したよ、もう」

「さすが姉さんですわ!」

「まさかファウさんにあんな――」

「いやー!!すごいな!さすがアズマさんの娘さんだ!僕だって、ああいうのはできないよ!いやー、コレはアズマさんに教えてあげないとな」

「ちょっと!親父に話すのだけはやめてくれよ!!」

 

 

 意外に盛況だったので安心するとともにファウはなんだか照れくさくなった。

 大概の場合は怒られ、呆れられているファウだから、褒められることにも慣れてはいない。

 その後は、キョウティが落語を行い、シュウが水の魔法を用いた水芸を披露し、ディアスの歓迎会は盛況のうちに終わった。

 


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