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オガー島、再興・魔王と勇者が出会うとき part.1

「フフフ。ついに人間界に魔王がやってきたぞ」

 

「我々が魔族を打ち倒す口実ができたというワケだ」


「……いや、魔族を倒すのは私達であってはならない。私達の力を受けた人間でなくてはね」


「ついに目覚める時が来たのだな。勇者マニアルが……!!」



 



 荷物片手にファウは再びオガー島へとやってきた。

 今回はチェックのシャツに紺色のキュロットという珍しくお洒落な格好をしてきたファウである。


 「学校のやつらもいないからな。それに新しく『魔王』で来るヤツにも粗末な格好は見せられない」


 こういう事情があったのだった。


 ファウの知る限り、魔王になっている人物はイケメンであったり格好良いものなのだ。

 ――もっともファウは自分の父親であるアズマが魔王であったことは忘れてしまっている。


 昔のアズマはファウのイメージする通りの魔王であったのだが、いかんせん、自分の父親というのはそういう風には見えないものだ。


 魔界の統治者であるアズマもファウにとっては、

 「口うるさいオッサン」に過ぎないのだ。

 それはさておき、新しい魔王である。



 オガー島を再興して魔王として人間界に君臨し、魔界に戻ったときには魔界の一区画を統治する……要するに未来の重役だ。

 そんな人物はイケメンで格好良いに決まっているだろう。

 今のうちに取り入るだけでなく、チャンスがあったらカレシにしてやろう!!

 ファウの野望は大きく渦巻いていた。


 「やぁ」


 不意に後ろから声がした。これは来たのだろうか?


 「はっ、はい!」と緊張しながら後ろを振り向くと、

 「待たせたのう!あっ、待った?待たせちゃった?」

 「おい……なんでお前がこんなトコにいやがるんだ!?」


 声の主はまさかのキジムラ大佐であった。


 「ワシが派遣されてきた魔王じゃよ。ホレ、頭を下げんかいコラ」

 「誰が下げるか!バカヤロウ!!」



 ヒューン!!と音を立てて殴り飛ばされたキジムラ大佐が雲の彼方へと消えていった。

 一応、申し立てておくとキジムラ大佐は派遣されてきた魔王ではない。


「それはホントだな。ちょっと焦ったぜコレ」


 ファウはふぅと息を吐いた。あの事件の後、キジムラ大佐は人間界に取り残されていた。

 別に人間界で犯罪行為を働いた訳でも、魔界に影響を与える悪事を働いたわけでもない。


 魔界にいるガーラン・バードを人間界に連れ出したのは罪といえば罪になるが、そこは魔界が察知していないし、魔界の野鳥が人間界に迷い込むことはままにあることなのだ。

 キジムラ大佐も上手く自分が関与していないように仕向けていたため、誰もこれには気付いては居なかった。

 そのうえキジムラ大佐自身も人間界に留まっていれば、誰の知るところではないのだった。

 

 

 「それで新魔王ってのは一体どんなヤツなんだろうな」



 ファウはそれが気になっていた。

 イースト高校に通っている間、授業は半分もまともに聞いてはいなかったが、新しく魔王になりそうなヤツがいるなんていう話はまるで聞いていない。


 テレビのニュースでもインターネットのニュースでも新魔王の『新』の字も出てきてはいない。

 秘匿されていたのか?それともいきなり抜擢されて浮上してきたのか。

 どちらにしても新魔王が派遣されてくるというのは父であるアズマの話である。間違いであるはずがない。


 荒廃の地と化したオガー島で待つこと30分……


 「いや、待ちすぎだろ。実は来ないんじゃないか!?」


 ファウがぼやき始めた頃にようやく一つの人影がやってきたのだった。


 

 「あははは、おはよー!待った?」

 


 陽気な声が響いてきた。



 振り返るとそこには一人の少女がいた。年のくらいはファウと同じくらいであろうか。

 髪は桃色で腰ほどまで伸ばした髪を尾っぽの部分で結んでいる。

 服は白の短パンに髪の色に合わせた肩出しのトップスである。

 死武谷の街に遊びに来た少女のような姿に、思わずファウはぎょっとした。



 「キミがファウちゃんだろ?アハハ、アズマさんにそっくりだ!あははは」

 「ど、どうも……」



 若干、親父であるアズマに似ていると言われたことが気に入らないファウだったが、相手の雰囲気に飲まれて悪くは言えなかった。

 というか、コイツが例の新魔王なのだろうか?

 思っていたイメージとは全く違うので、ファウはもしかしたら違う人なのではないかと思い始めていた。


 「あのー、もしかしてアナタが新しい魔王様でいらっしゃるんでしょうか?」


 普段、まったくと言っていいほど使われないファウの敬語である。とてもたどたどしい。

 その言葉に桃色の少女は大きく頷くと。



 「そうそう。僕はディアスっていうんだ。ネオ19区画から来たの」

 「ネオ19区画だって!?」



 ネオ19区画……そこは魔界の中央にして中枢である。他の区画や街からは隔離されていて、選ばれた者しか出入りが出来ない特別な場所なのだ。

 ファウの父であり、魔界の王であるアズマはもちろん出入りが出来るし、普段はそこで仕事をこなしている。


 ちなみにファウは入ることはできないし、入ったこともない。


 (そりゃ私が知らない訳だな、こりゃ……)



 基本的にネオ19区画の情報は外へは出てこない。ファウがディアスのことを知らなかったのも当然といえるだろう。


 「それじゃどうしようか?まず居住地を立てないとかな。ホイホイ!」


 ディアスが手を叩くと、どどっと大地が唸りを上げて立ち上がった。


 「土魔法のゴーレムくん。土木工事は彼らに任せておけば、すーぐに出来上がるよ」

 やっちゃってー!とディアスが叫ぶと、大きな人型となった大地は腕を振り上げて 地面を慣らし始めた。


 (す、すげぇ……あんなの初めてみたぜ……)


 ファウは息を飲んでゴーレムを眺めていた。土魔法でゴーレムを作り出して使役するのは、何度か見たことはある。しかし、一瞬のうちに巨大なゴーレムを作り出して、しかも大地を耕すというスケールの大きなものは見たことがない。



 見た目はイケイケ少女なディアスである。ファウと並んで歩けば姉妹にすら見えるかもしれない。

 そんな彼女がこれだけの魔力を持ち、それを操っているのだから、やはり只者ではないのだろう。



「さーて、城は出来上がるし、次は人員。あー、これは……」

「それは僕達が呼ばれているよ」

「ゲッ!!なんでお前達が来てんだよ!?」

「ファウくんだけこんな一大イベントに参加なんてズルいよ。キョウティも参加したいからお父さんに直訴したの」

「そうそう。キミだけじゃ何を仕出かすか心配だからって、僕ことシュウ・トークも参加させて貰ったのさ」

 

 キョウティとシュウの後ろから、シャーベリアンと猿山鉄郎も出てきた。

 

「猿はともかく、役立たずのお前まで来る意味があるのかよ」

「私は犬ですよ。犬ならば番犬です。フフフ役立たずではないでしょう?」

 見た目はオオカミのシャーベリアンだが、彼は犬を自称しているのだ。

 


「あはは!カレって強そうだから、きっとイケてる番犬になれるよ!うん、採用だ!!」

 ディアスが笑いながらシャーベリアンを撫でた。

「そこの彼はトークさんとこの息子さんだ。優男風だけどイマイチ頼りなさそうなところがソックリ!小さい彼女はキョウティだね。有名だよ有名……そこのおサルさんはよく大道芸やってるね?この間、1万ソウル投げちゃったよ、アッハッハ!」



 外の区画に情報が漏れていないネオ19区画の魔族でありながら、区画外のことには意外に詳しいらしい。

 そうしてファウ一行と新魔王ディアスの『オガー島復興及び人間界統治体験』が始まるのであった。



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