襲撃、トーク城!許婚の関係をぶち壊せ!!
「バカ言ってんじゃねぇよ。ばーかばーか!!本気で結婚できると思ってんのか!?」
相変わらずファウは口汚い。口汚いがそれには理由があった。
シュウが来ているのだ。シュウは『イースト』でも東の端にある国にある魔王で、ファウの許婚なのだ。
「そいつは親が勝手に決めただけだっつーの!!こんなクソザコと結婚する義理も人情なんてのはピースラのゲリリの経験値ほどもない!!」
会うことは絶対に拒否の姿勢を示している。いつもいつもなんだかんだで避けているファウである。
前々回はゲームセンターへ遊びに出ていたし、前回は買い物に出かけていた。
その買い物で手に入れたのが件の『ゼーラー服』だったのだが、それについてはそのタイトルの話を参照されたい。読んでもらえると筆者はとても嬉しいのである。
そういう訳で、シュウが来ることになっていたので、ファウはどこかへ出かけてしまった。
なので今回はキョウティが会うことになった。
「やぁ、シュウくん。ファウは侵略戦争を仕掛けに出ているの。とーっても忙しいんだって」
「それは結構な話じゃないか!!それでこそ魔王!魔王女子の鑑だと僕は言いたい!――それで何処へ向かったんだい?良かったら僕も手伝いに行こうじゃないか!?」
「東の端だって言ってたよ。バクレツホースの大群を率いて出て行ったよ」
バクレツホースは身体の各所に砲台を装備した別名『バレルホース』である。
屈強で暴れん坊の邪々馬、とても乗馬に適した馬ではないので、乗り手はオプションパーツとして背中の上に固定セットされている。
一応、状況に合わせて固定セットを解除して緊急脱出もできるようになっているのだ。
――が、ファウが使っているのはそのバクレツホースの類似品の『バクレツホースライム』なのだ。
簡単に説明するといくらファウが魔王姉妹の姉でも、金銭面には難がある。
馬を1匹飼育する環境も資金も、今のファウは持ち合わせてはいないのだ。
だからバクレツホースに変身することのできるスライムをレンタルした。
ちなみに馬1匹レンタルするには1日で20万ソウルかかる。大群ということで30匹用意すると600万ソウルかかるのだから、ケチなファウでもそんな額はとても出せない。
バクレツホースライムなら、その点、経費は最低でスライムの材料費だけで済む。侵略先で材料を略奪すればノーコストに済ませられるというのがお手軽であろう。
今回は侵略先で材料を調達するわけにもいかないので、事前に所持していた『できる!スライム』を使ってスライムを生成している。
さて……
「行き先は東の端か。丁度、僕の国の近くなんだね!戻って近くを探してみるよ。それじゃあね」
シュウは帰って行った。ここまで来れば、察しの良い読者の方なら分かると思うが、ファウがバクレツホースライムを引き連れて出かけていったのは、シュウの国の『トーク国』である。
「ハハハハハ!!やっちまえ!思いっきり暴れていいぞ。私が許す」
「でもいいんスラか?ここってファウ姉さんの許婚の国っスラよ」
「あァ!?なにいってんだよ。私がいいって言ってんの。魔王に二言はない」
ファウがバクレツホースライムを睨みつけた。
「いいからやれ。構わずやれ。徹底的にやれ。」
「はいはいスラスラ」
現場監督のバクレツホースライムが部下に徹底抗戦の指示を出した。
ドカンドカンと背中や脚部に装備した砲台が火を噴いている。砲弾は城壁に当たると爆発して煙をあげた。
ガラガラと城壁が崩れていく。その侵略たるぷりやまるで本物の魔王のようであった。
その崩れた城壁の間から、わーわーと声をあげて黒い影が溢れ出てきた。
シュウ城に仕えているモンスターだろう。
牛丼まじんにバーガーモスラ、シルバーオクトパスなどなど。
「ほらほら、雑魚モンスターが出てきたぜ。アイツらは俺がやるから、お前らは城を攻め落とせ!!」
指示だけ出して、ファウはモンスターの群れへと突っ込んでいった。
「ええっ!!シュウ坊ちゃんの許婚のファウ嬢さんじゃないか。いったい何をやってんですか!?」
「抜き打ちの侵略訓練だよ。前々からやろうって親父が話してたぜ」
話してただけで『やろう』とは一言もいっていない。やるにしても訓練程度で、城壁を破壊したりするようなこと破壊行為は行わないだろう。
ファウは武器などは一切持ってはいない。ファウは肉弾戦を得意としているためだ。そうでなくとも、もしものときのための切り札は用意されているが、彼女の性格ではそれを使うのはよっぽどの時くらいである。
また魔法の類もあんまり好きではない。あくまで自分の力を誇示する手段だと考えている。
「魔法は自分でやった感覚がないから好きじゃないんだよ」
というのが彼女の言葉だ。
ダークフレイムファンタジーは闇の底に消えた。
余談になるが、対称的に妹のキョウティは魔法が得意であり、それを好んでいる。
理由も対称的に、
「楽だからだよ」
達成感よりも手間が省けるのが良いそうだ。
雑魚掃除も一段落すると、辺りは急に静かになった。ファウの大暴れが止んだのを見て、バクレツホースライム達も砲撃をやめたらしい。
「誰も休憩の指示は出してないんだけどな」とファウは後方を見ていたが、もう城壁はボロボロだったので、ここまでやればいいかと少しだけ満足していた。そこへ、
「むむ!城壁がボロボロじゃないか……これは一体何があったんだ!?」
城の主シュウが帰ってきた。
「へっへっへ。俺が滅茶苦茶にぶっ壊してやったんだよ。感謝しやがれ」
わざわざファウがシュウの前へ出て行き、腰に手を当ててふんぞりかえった。
いったい何に対して感謝するべきなのか、それはファウ自身にも分からない。とりあえず、大嫌いな許婚の鼻を明かせればそれで良かったので、とりあえず挑発をしてみたのだった。
これで自分のことを嫌いになってくれれば、それだけで結婚約束は破談にできるだろう。
ファウはそれを狙っていた。城塞破壊によるストレス発散はおまけであると言っていい。
シュウは惨状を右へ左へと眺めている。そしてようやく事態が飲み込めたように頷くと、真剣な顔でファウの方を見た。
(おっ、こりゃ今度こそ怒ったか!!やったぜ)
ファウはニヤりと笑った。
ファウは今までもトークを怒らせるために数々の悪行をこなしてきたものだった。
スパゲティのミートソースに大量のマグマード・タバスーコを混入させたり、大事にしている魔法具を目の前で粉砕してやったり、あとは決して名前で呼んではやらないといったものである。
本来ならば絶縁を言い渡されても仕方がない――もといそれがファウの狙いであったのだが、どういう訳か、シュウは何をやっても怒ってはくれなかった。
「さすがはファウ。キミは良いものを見極める力があるんだね!!」
ファウが関係していると分かればマグマード・タバスーコは最高の調味料になるし、魔法具の破壊は彼女のお眼鏡に適わなかった欠陥品になる。名前で呼んでくれないのは、まだまだ自分には相応しくないから、もっと精進しなさい!という激励になってしまうのだ。
しかし今回、いよいよ本拠地侵攻の末、城塞半壊までやったのだ。ついでに仕えているモンスターもボコボコにしてやった。取り返しのつかないことに、さすがのシュウも怒るだろう。
どうだと思いながらトークの顔を見ていると、思いもせずトークの顔が明るくなった。
「そうか。キミは僕の城が勇者に侵攻された時の予行演習をしてくれたんだね!――なるほど、これでは不意の侵攻で一気に城は攻略されてしまうだろう。もっと城の防衛能力を向上させなければならないな。」
「ハァ!?なにいってんだよ。そうじゃねぇだろ」
ファウがトークにくってかかろうとしたところで、後ろから、ゴン!と衝撃が走った。
「そうじゃないのはお前だろが。ファウ」
「げっ!!おやじ!?」
見れば大魔王、ファウとキョウティの父親であるトウドーが居るではないか。
「いつ帰ってきたんだよ。てっきり今日は帰ってこないとばかり……」
「魔界会議でトークさんと一緒だったから、一緒に飲もうという話になったのだ。丁度トークくんがウチに来ていたから、一緒にこっちにきたのだが……」
アスマはバクレツホースライムによっては破壊された城壁を見て、もう一度、ファウを殴りつけた。
「こンのバカ娘が!!人様の城になんということをしているんだ!!――ああ、このバカが本当に申し訳のないことを――このバカに全て修復させますので、本当に申し訳ない……」
「修復くらいスライムを使えばいいだろ!?わざわざ私がやることじゃないし」
反抗したがまたも殴られた。こうなってはもう修復にとりかかるしかないので、ファウはしぶしぶガレキを片付け始めた。
バクレツホースライムはファウのお小遣いから捻出された弾薬やスライム強壮液を持たされ、その場で解散となった。
「はぁ……ファウの奴もどうやったら大人しくなるんでしょうかなァ……トークさんのとこだけですよ。あの子と結婚してくれるなんて言ってくれたのは、一体、どこが気に入ったんです?」
「いやいや、ウチの息子も大概情けないから、彼女のような人がお嫁に来てくれると嬉しいんですよ。幸い、シュウも彼女が気に入っているようですから」
シュウはファウの城壁修理を手伝っていた。父親の手前、ファウも嫌がることができなかったので、ぼそぼそと文句を呟きながら一緒に作業をしていたのだった。