ガーラン・バードの脅威! 逆襲のキジムラ part.5
「来た!ホントにきた!!」
「もう来ないんじゃないかと思ったのになぁ」
キジムラ大佐がガーラン・バードを引き連れてやってきたのは夕方頃であった。
なんでもガーラン・バードの寝起きが悪かったらしい。起きた頃には午前11時を回っていた。そこから朝昼兼食をとって身支度を整えるのに2時間、ようやく揃って出撃したのが午後の15時であったそうだ。
到着時刻は16時30分。冬場でもまだ明るい時間ではあるが、もう30分も過ぎれば少しずつ夜の闇が空を染めていくだろう。
「大佐よォ、ホントに今からやるのかよォ。今から城攻めなんて、あっという間に夜になって目が利かなくなるぜェ」
「おんしらがボヤボヤしてるのが悪いんじゃろが!!」
怒っているキジムラ大佐を尻目に、夜戦は無理だと見切りをつけたガーラン・バードの半数が既に遠くの空に浮かんでいる。
残った半数は帰る機を完全に逃してしまい仕方なくキジムラ大佐に続いていた。
「別に無理に戦うことはない、安全圏内でミサイルパイナップルでも撃っとれ」
「ハイハイ、分かったよォ」
「そこは了解だろうが!!」
ガーラン・バードはオガー族では到底手が出せないような高度を陣取り、そこからミサイルパイナップルを撃ち始めた。
空からまるで火山の噴石のように爆発物が降り注いでくる。
オガー族は投石器を用意して反撃に出るも、石がガーラン・バードに届かない。
「ヒェヒェヒェ、前回の軍隊キジの時にお前達の投石器の射程は把握済みじゃ!!」
ということらしい。ガーラン・バードは投石器を目標として次々にミサイルを口の袋から発射している。
「うわぁっ」
投石器へ石を装填していたオガー族が爆発により吹き飛ばされた。投石器も粉々に粉砕されてしまい、もう使い物にならない。
「おい!ロック、お前の発射台の出番だぜ!!」
オガー族の投石器が通用しないならば、ロックリバーの製作した発射台の出番である。
こちらは前回の軍隊キジとの戦いには出てきていない未知の兵器である。さらに魔界の技術が用いられているため、威力も射程も人間界のものとは段違いだ。
「これは素晴らしい。果物でありながら爆発するなんて……見たところ果汁が火薬になっているようだ。香ばしい香りがする」
「そんなことしてる場合じゃないだろ!!」
ガツン!とファウはロックリバーを殴りつけた。あはは、ゴメンゴメンと彼は謝った。
『爆発好き』なだけに、爆発物を見ると黙っていられないようだ。
「僕が作った発射台は3つある。どれから行こうか?」
一つは地面から垂直に発射するタイプ。
一つは投石器と同様に角度を付けて発射するタイプ。
一つは地面に描かれた魔方陣。
「そこのそれとそれはともかく最後のコレはなんだよ?」
ファウが地面に描かれた魔方陣を指差して言った。
「これは置くだけで目標の真上に爆破物をワープさせる魔法陣さ。正直まったく面白味もない。万が一、発射台が完成しなかったときのために作っておいたんだ」
「…………」
これだけあれば他の発射台は必要ないのではないか?しかし当のロックリバーはこれを使いたくないようで、さっさと改造した魚を発射台に装填している。
「よし準備完了だ。見るがいい!僕の開発した爆発の威力を!!」
まずは地面に垂直に立てられた発射台、その導火線に火をつけた。バヒューン!と低い音と衝撃波が走ると、丸いものが空高く打ち上げられている。
それが一番高い部分、ガーラン・バードが浮いている高度へ到達すると、その球体が弾けた。
「グェッ!?グエエエエ!!」
打ち上げられた球体から距離を取っていたはずのガーラン・バードが突然に爆発した。いや、被弾したというべきだろう。
弾けた球体から飛ばされた魚型ミサイル、いわゆる魚雷が当たったのだ。
「打ち上げ花火タイプの爆弾、名づけて『フラッシャー・マイン』からの『フィレッド・フィッシュ』」
球体時の名前と爆発後の魚雷形態で呼称が変わるのがこだわりらしい。
これによりガーラン・バードの攻撃が一時的に止んだ。思わぬ攻撃にパニックに陥ったようだ。しかし、
「お前達が楽しようとするのがイカンのじゃ!ほれ、ちゃんと動いて攻撃を避けるようにせい!!」
キジムラ大佐が指示をすると、2発3発と続けて放たれた『フラッシャー・フィッシュ』(上記2形態の略称)はことごとく避けられた。
「ダメじゃねェか。やっぱ魔方陣使うか?」
「いや、まだ二つ目があるだろう」
ファウの魔方陣使用との提案は却下され、二つ目の発射台を使うロックリーバーの案が採用された。
この発射台は一度に9発の魚を発射することができるのだ。
しかも誘導能力をも持たせている。先ほどの発射台のように簡単に避けることはできないだろう。
「おおっ、コレなかなか良い感じじゃない?ロックちゃん、やるゥー!」
「えへへ、それほどでもぉ」
「おいおい、照れてる場合じゃねぇだろ。パイナップルが飛んできてんぞ」
ファウが飛んできたパイナップルをガシッと掴むと、それを発射台の空いている場所へ装填した。
「そうだった。よし、『追跡魚群トレーサーフィッシュ』お披露目だ!!」
煙を吹きながら装填された魚が発射されていく、ファウが装填したパイナップルも同様である。
これにはキジムラ大佐も驚いたらしい。先ほどと同様に飛んでくる魚を避けようとしたが、避けたところで魚が向きを変えて飛んでくるため避けることができない。
この攻撃で残っているガーラン・バード、10羽のうちの6匹が地に落ちた。
「ぐぬぬ……ちょこざいな!しかーし!!」
キジムラ大佐が翼をばたつかせて突風を作り出すと、追跡している魚も接近することができずにそのまま勢いをなくして落下していった。
先ほどの『フラッシャー・フィッシュ』と異なり、『トレーサーフィッシュ』は目標を追跡するために勢いを抑えられているのだ。
そのため突風などの空気抵抗にとても弱い。
それをこの一瞬で見抜いたキジムラ大佐……恐るべしである。
「やっぱダメだったじゃねぇか。こりゃ魔方陣だな」
「仕方ないね。でも……」
「でも?なんだよ」
ロックリバーが風呂敷を指差した。
「なんだこりゃ?ここに風呂敷をしいて弁当でも食うつもりか?」
「いやー、ここに用意した魚を用意してたんだけど、この通りすっからかんになっちゃったんだよ。風呂敷だけなら残ってるから、弁当でもあれば夕食はできるね。魚はもうないけど」
ひゅうと冷たい夜風が枯れ葉を巻き上げながら通り過ぎた。ファウがニヤリと笑って、
「弾ならまだあるだろ!お前が行け!お前が行って、ボスを倒せば英雄だぞ。英雄」
「うわっ!やっ、やめて……!!」
ファウは無理やりロックリバーを魔方陣の上に乗せた。魔方陣は光り輝くと、ロックリバーをガーラン・バードの真上に転移させた。
「高い!速いっ!!降ろしてぇ~」
「ちょっとなんだコイツ。いきなり出てきて……おい、暴れんな!くっ、クビを掴むなって……く、苦しい」
思いっきり首をつかまれたガーラン・バードが堪らず地面へと降り立った。降り立っても、パニックに陥ったロックリバーは簡単には掴んだ首を離してはくれない。そうこうしているうちにガーラン・バードは気を失ってしまった。
ついでにロックリバーもガーラン・バードに寄り添うようにして気を失った。
これで残りは5羽とキジムラ大佐である。
しかしもう弾がない。魔方陣は残っているので物体をガーラン・バードの真上に転移させることはできる。
「テルルとヌエールで残り3匹までは行けるが、やっぱり全部倒すには弾が足りないよな」
「ちょっと!私はさっきの嫌なんだけど!!」
「僕もです!!」
「もちろん私もだけどな」
テルルとヌエールとファウの全員が拒否してしまったのでは、他のオガー族にやらせる訳にもいかない。
どうにも手詰まりとなったそのとき……
「やぁ、お待たせしましたな」
陽気な声が響いてきた。
「おっ、やっときたな。待ってたんだ」
やってきたのは猿山鉄郎である。ファウが電話で呼んだのは他でもない彼である。
「猿くん、久しぶりぃ」「お久しぶりです」
テルルとヌエールくんが挨拶をした。猿山鉄郎は鉄の仮面をつけた上から笑顔を見せた。
今、装備している鉄の仮面は以前のものとは異なり、声だけははっきりと出るようになった。
というのもやはり普段の生活で声が
「コーホーコーホー……」
という呼吸音では意思の疎通が取れず不便なのだ。
猿山鉄郎は自前の腕力に重力魔法を持っているので、魔界では大道芸から現場工事など、様々な仕事をこなし給料を得ている。
そういう意味ではファウよりもずっと立派に自立している彼なのだが、それでも彼はファウのことを慕っているのだ。
「ファウ姉さんは、すごいお人ですよ。わいには分かりますん」
ということらしい。
それはともかく、猿山鉄郎が来たということは重力魔法で宙に浮いているガーラン・バードを地面に落とすことができるのではないか。
「もちろんやりまっせ!!」
すぐに魔法を発動して残っていたガーラン・バードは全て地面に叩き付けられた。
しかし、その中でも無事に着地した者がいて、
「重力魔法とは、なんちゅうワザを使うんじゃ」
キジムラ大佐が立っている。
「ファウ姉さん、アイツ強いですな。わいの重力魔法に耐えてますわ」
重力魔法に耐えるだけならファウやテルルでも十分にできる。だがキジムラ大佐は違う。まるで普段と変わりないように軽い調子で立っている。
ファウやテルルではそうはいかない。手や足の動きがかなりぎこちなくなるのだ。
「コイツをふんじばって、海にしずめてやるぜ!!テルル」
「あいよっ!!」
テルルが鎖を手にキジムラ大佐にとびかかった。鎖を鞭のしならせ、キジムラ大佐を狙った。
「おそいおそい、まるで煙が伸びてくるようだぞ」
「あまいぜっ!!」今度は二人がかりである。避けた先でファウが殴りかかった。
「おひょッ」とキジムラ大佐は奇妙な悲鳴をあげたが、間一髪でこれを回避すると、ファウに胸に抱きついた。
「男勝りで生意気だが、体つきは中々じゃの。生気が沸き立つのう」
「この野郎!!……ぐええっ!!」
がくりとファウの身体が崩れた。なるほど、キジムラ大佐に掛かっている重力魔法がファウに抱きつくことで彼女に影響をもたらしたのだ。
現状、重力魔法の影響を受けているキジムラ大佐の身体はまるでボーリングの球のようにずしりと重い。それがファウの身体に付いているのだから、たまったものではない。
「ファウ姉さん!!」
「猿、解除はするな!!」
ファウが手を前に出して叫んだ。まるで重力魔法をものともしないキジムラ大佐だが、まったく効果がないわけではないのだ。
(そう、コイツは今、空を飛べないんだ)
このことである。空を飛べるなら、すぐにでも攻撃の届かない高度へ飛び上がり、そして逃亡してしまうだろう。
今、それをしないのは猿山鉄郎の重力魔法が効いている証拠なのだ。
「なるほど、ワシが空を飛べないことに気付いているな。しかしどうする?これじゃどうにもできないし、テルルも攻撃できまいて」
「ぐうっ……」
テルルが歯噛みをした。このまま鎖で縛り上げるにも、ファウも一緒に縛り上げることになってしまう。攻撃にしても同様である。
「げへへ、このまましばらくの間、女体を楽しませてもらおうか」
キジムラ大佐は下品に笑っている。ファウの胸や尻を撫で回して数分間、
もう反撃の手がないのだと思い始めたところで、ファウの正面に戻ってきた時に……
「おい猿!今だ!!」
「やりまっせ!!」
ファウが正面に来ているキジムラ大佐を宙へと思いっきり叩き上げたのだ。
「な、なにィっ!?」
ただ単に叩き上げられた割には宙へと吹っ飛ぶ『力』が妙に強い。まるで大気圏を突き抜けるかのような速さなのだ。
「後は、コイツで!!」
ファウの手には昨日釣り上げたカメが掴まれている。それをロックリバーが用意した魔方陣に向けて思いっきり投げつけたのだ。
魔方陣の転移先は目標の頭上である。つまり超高速で昇天しているキジムラ大佐の頭上に当たる。
「猿の重力魔法のおまけ付きだ!乙女のハートを傷つけた罪、存分に償いやがれ!!」
昇天するキジムラ大佐には逆重力魔法、それにぶつかるカメには重力魔法が掛かっている。
双方、強力なパワーを持った者同士がぶつかり合うのだ。とても無事では済まないだろう。
カッ!と一筋の光が起きると、凄まじい衝撃波がオガー島を襲った。