ガーラン・バードの脅威! 逆襲のキジムラ part.4
つむじ風から現われたのは。怪人であった。
背中には巨大鳥の羽を生やした鳥人間である。
「そんな気はどこからも起きないわよ!このヘンタイ!!」
「いきなりヘンタイ呼ばわりとはヒドイのぅ……ひっひっひ」
鳥人間は気味悪く笑っている。
「テルル、コイツはもしかして……」
「いかにも、ワシが大鷲・ヴォルケーン・キジムラじゃよ。長いから呼ぶときはキジムラでよいぞ」
キジムラ大佐は緑や青の光沢を持つ衣に身を包んでいて、その姿は非常に目立つ。
それよりも目立つのは目元を覆っている赤いマスク、マスカレードというべきだろうか。
目元しか覆えていないので、顔つきはある程度判別がつく。口調の割には若いようだ。
「騙されちゃダメよ。見た目は若くても、中身は本当にジジイなんだから」
テルルがそう言った瞬間に、ファウはキジムラへと殴りかかっていた。
「総大将様が、御自ら出てきてくれたんだ。コイツを殴り倒せば全て解決だぜぇっ!!」
大きく跳躍し落下の勢いを乗せて、キジムラの頭部頭部を殴りつける。
右へ左へとキジムラの体が揺れると、最後に回し蹴り、一回転した遠心力でキジムラの腹をボールのように蹴り飛ばすと、まさしくゴールに飛び込むごとく、地面へと叩き付けられた。
「へっへぇ!ザマァみやがれ!!」
「アンタねぇ……」
テルルが呆れてファウを見ていた。この様子で一体どうしてケンカに負けたのだろうか。
「ともかく、コイツ縛り上げて牢屋にぶちこもうぜ。今度は逃げられないように、重石をいっぱいつけてやる」
重石を左右の腕と両足に3個ずつくっ付けて、おまけに胴体に釣り上げたカメをぶら下げた。総重量にして500kg程度はあるだろうか。到底、人間では動けないし魔物でも簡単には無理だろう。
しかし腕力に自身のあるファウは500kgの重石とキジムラを繋いだ鎖を引いて動かすことが出来た。
ズリズリと音を立てて、キジムラと重石は洞窟の中へと引きずられて行こうとしたところで、
「――ああっ!?」
急に荷物が動かなくなった。荷物だけではない、ファウの身体も自由が利かなくなっている。
「な、なんだこりゃ!?」
いつの間にかキジムラに付けていた重石がファウの体に巻きついていた。
「ファウ、あれ!!」
代わりにキジムラの身体はぬいぐるみへと変わり果てていた。東方の秘術で言うところの『変わり身の術』というやつらしい。
「ひぇっひぇっひぇっ。腕っ節は強いようじゃが、甘いのう。やっぱり娘っ子だの」
いつの間にかファウの背後に移動していたキジムラが、ファウの尻を揉んでいた。
「ひっ……ひえぇっ!!」
背後に悪寒を感じて思わずファウは飛び退いた。そして間髪居れず、キジムラの頭部を叩き割った。
バコン!と風呂桶を叩くような軽快な音が洞窟内に響いた。
「このヘンタイが!次やりやがったら、プラネットブレイカーで頭ごと爆破してやるぜ!!」
「ヒヒヒ、テルル以上に気の強いお嬢さんじゃの。ワシの好み」
怒りに任せて全身に纏わり付いている重石を破壊すると、ファウはキジムラ大佐の首根っこを掴んだ。
首根っこを掴まれたキジムラ大佐の体が力なく垂れている。抵抗する素振りは全くない。
「テメェの目的はなんだ?ガーラン・バード引き連れてお礼参りに来るんじゃねぇのかよ」
「答えたら今度は胸を揉むぞ。いいのか」
「死にてぇらしいな」
ファウは掴んでいるキジムラ大佐を洞窟の壁へ思いっきり叩き付けた。そして渾身の一撃を叩き込もうとしたところで、
「ちょっと!ココでそんなんやったら洞窟か崩れるからやめて!!」
「あっ……あぁ、そうだな」
危うく洞窟を崩落させるところであったファウである。そのとき、この騒ぎとキジムラ大佐の頭を叩いた時の軽快な音を聞きつけたヌエール君たちが洞窟の奥からやってきた。
「これは一体!?あっ、コイツは!?」
壁に叩きつけられて気絶しているキジムラ大佐を見つけてヌエールくんが拘束した。
ヌエールくんらしく二重にも三重にもぎゅうぎゅうに縛り上げたのだが、次の瞬間にはキジムラ大佐は丸太と化していた。
「エッ!?ええっ……ぬええッ!!」
驚きの声を上げているヌエールくんである。ファウもテルルも一体何が起こったのか全く分かってはいなかった。
これは早業だろうか?それとも何かの術なのだろうか?
ただ一つ分かるのは、空の上にキジムラ大佐が浮かんでいるだけであった。
「ふぇふぇふぇ。今日は挨拶代わりじゃ。明日はガーラン・バードの連中を連れてくるからの……あ、そうそう今度のは軍隊キジとは全く違うぞ。暴れだしたら止まらんヤツじゃ。正直、手懐けるのが大変じゃった……わしのテルルブロマイドコレクションが……」
「いつの間にかそんなの撮ってたの!?」
「軍隊キジはミッション遂行能力が高い。こういうところはガーラン・バードには真似できんな」
さっとキジムラ大佐は懐からテルルブロマイドを取り出した。
まるでトランプの奇術のように両手に重なるようにして並んでいる、その数46枚ほどはあるだろう。
着替え中の写真に水着の写真、釣りや料理に勤しむ写真まであるようだ。
中には明らかに軍隊キジの一件前後の時期ではないものまであるということは、キジムラ大佐が軍隊キジを使ってオガー島の襲撃を企てたのはつい最近のことではないのだろう。
「かえせっ!こら!かえせっ!!」
「この写真はテルルのもんじゃないから返す必要なんかないわっ!!」
必死にキジムラ大佐に飛びかかろうとするテルルだが、到底、高さが足りない。
そうしているうちにファッファッファッ!と高笑いを上げながら夜の闇に溶けていった。
「きぃいいィィ!!アレじゃ追えないじゃない!くやしィー!!」
「落ち着けよ。明日来るって言ってたろ。そんときふんづかまえてぶっとばしゃいいだろ?」
ファウがテルルをなだめた。ファウもファウでお尻を揉まれたことを根に持ってはいるが、だからといって今怒ったところでどうしようもないのだった。
相手が「明日来る」と言っている以上は来るだろう。
あの口ぶりと自信の持ちようならば嘘やでまかせではないだろう。そうでなければ、変わり身の術で危急を脱することもしないはずだ。
「ホラ、準備しようぜ。こっちに来るなら待ち伏せて徹底的に叩くんだ……ああそうそう。電話あるか?ちょっとウチに連絡したいんだけどさ」