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ガーラン・バードの脅威! 逆襲のキジムラ part.3

 日が落ちて辺りは暗くなると同時に寒くなった。

 外は冷たい風が吹いているので、ファウたちはオガー族の洞窟の中で釣り上げた魚の一部を使って夕食をとっていた。

 ヌエールくんはオカズにしましょう!とは言ったものの、ファウの釣り上げたカメは料理にはならなかった。

 

「一応、聞くけどコレ、料理して食べたいですか?出来上がりはこんな風になるんですけど……」

「やめようぜ」

 

 カメ料理の本の完成図を見て、さすがのファウも諦めた。

 興味のある人は調べてみると良い。インターネットで検索すれば見ることができるだろう。

 そういう訳で、出てきたのは釣り上げた魚料理であった。

 タイのひらき、ヒラメのムニエル、スズキのポワレ。

 他にお刺身も多くでた。醤油にわさびをつけて食べるとわさびは甘みが赤みを引き立てる。

 


「うまいね、コレ。キミが作ったのかい?」

「そう!私が作ったの!ファウなんかとは違って、料理もできるんだから!!」

 

 テルルが胸を張った。オガー族で一番の頭脳を持っているテルルである。料理に関しても本を見ればある程度は同じものが作れるのだ。

 


「ちっ、いちいち当てつけんじゃねぇよ」



 釣りでも勝てなかったし、料理もできない。テルルとファウでファウが勝っている部分はどこにあるのだろうか?

 横目で洞窟の隅で縛り上げられているカメをちらりとみた。

 顔と腕にぶち模様の付いた立派なカメである。体色は茶色いのでウミガメなのかもしれない。

 


「それでよォ。発射台は出来上がったのか?」


 ファウが問いかけるとロックリバーが頷いた。


「もちろんさ。キミ達が頑張っているというのに、僕だけが頑張らない訳にはいかないだろう?自作の栄養ドリンク『ゴールデンボンバー』を飲んであっという合間だよ」

「へぇ、それおいしいの?私飲んでみたいな」

「おや?興味があるのかい?いいよいいよ!僕が得意なのは爆弾作りだけじゃないのさ。気力爆発の栄養ドリンクに芸術だって得意なんだよ」

「…………」



 あのロックリバーにさえ得意分野が多くあるようだ。ファウは気分がげんなりしてきた。『おはらい戦隊』による事件から負け続けて面白いことが一つもない。

 ちっ、と小さく舌打ちを漏らして、ファウは立ち上がった。


「ちょっと外の風に当たってくるよ」


 そういって外へと出て行った。

 外の風は昼のときよりも更に冷たかった。こんなことなら、気分転換でも外に出て来るんじゃなかったと後悔した。

 でも、今更中へ戻る気にもなれない。得意分野を持つテルルやロックリバーと一緒にいると、自分が惨めに思えるからだ。



「クソっ、なんで私がこんな気分になってるんだろうな」



 こうした気分は、今までに感じたことのなかった感情だった。

 腕力に魔力には自信を持っていた。親父の肩書き、親の七光りは気に入らなかったが、あらゆることは自分の実力で思うとおりにしてきたのだった。


 それが『おはらい戦隊』との戦いにおいて音を立てて崩れていった。

 力を奪われて満足に戦えなかった。下手をすれば殺されていたかもしれない。

 そんなことは今までに一度もなかったのだ。だからこそ、自分を嫌に思っているのだ。



「こんなところに一人でなに黄昏てんのさ」


 不意後ろから声がした。振り返るとテルルが出てきていた。


「中で飯食ってたんじゃなかったのかよ。うまかったんだろ?」

「誰かさんを放っておいちゃ、うまい飯もあんまおいしくないんだよ」

「悪かったな。そりゃ」

「そう。悪いよ」


 テルルがファウの隣に腰をおろした。テルルとの付き合いはまだ浅いが、彼女はファウのことを友人以上に思っていた。

 それは歳の近い(ように見えている)のと軍隊キジの一件で共闘し意気投合したことからきている。



「学校に行った時からアンタ、元気なかったじゃん。何があったの?私、話を聞くよ」

「…………」



 あ"ーとファウは唸りたい気持ちになったが、テルルの好意は身に染みて理解できていた。しかし、自信を挫かれるのと同時に人に弱みを見せるのも初めてのことだった。

 自分の情けない現状をそのまま話してしまってよいものか……少し躊躇したのだった。


「初めて負けた。そんだけだよ」


 声は小さくしかも若干早口で言ったから聞き取れていたかは分からない。


「そんだけ?ホントにそんだけなの?」 


 テルルが笑った。どうやら聞き取れていたらしい。こんなことなら、もっと聞き取れないように言えば良かった、もしくはダンマリを決め込むのも良かったかもしれないとファウは思った。



「なに笑ってんだよ。こちとら本気で悩んでるんだぞ。それを笑うだなんて信じられねェ」

「ゴメンゴメン。でも負けただけでしょ?あー、そうそう負けた勝負ってケンカ?ケンカなの?」

「…………」

「図星だぁ~、ハハハ。ファウって嫌なことがあると、顔をしかめて黙り込むから分かりやすい」

「えっ、そうなの!?」

「そうそう。今度、見つけたら鏡で見せてあげるよ。ホントわっかりやすいんだから!」



 思わずファウの気持ちが明るくなった。テルルの話し方がそうさせたのだろうか。

 テルルの口調には相手をバカにするつもりも、貶している風もない。ただ相手のことを考えて笑っている。その笑いが毒気を抜いてしまうのだろう。



「チッ、そうだよ。ケンカで負けたんだよ。そしたら、もう二度と勝負で勝てないような気がしてさ……」

「あー、それあるある!私もさー、ヌエールにすごろくで負けたし、料理もみんなヌエールが作ったモノの方がおいしいって言うんだー」

「おいおい、私のケンカとそんな日常的な負けを一緒にすんなよ。私のは……」

「負けは負け。全部一緒よ。ただ負けたら次は絶対勝つ!って思いを決めれば、もっと強くなれる。そういうものよ」

「そういうものかねェ……」



 正直、それは違うとファウは思った。しかしテルルが無邪気に笑うものだから、相手をするのも馬鹿らしくなり、次第に


 (そういうものなのかもしれない……)と思うようになった。

 コイツの馬鹿が移ったか。と小さく呟いたが、それはテルルに聞こえていなかったようだ。


「ありがとよ。少しは元気がでた」

「エヘへ、どういたしまして~」


 二人が顔を見合わせて笑いあった時のことであった。冷たい風が大きく吹き上げた。


 「つむじ風!?」


 しかし、オガー族の洞窟の入り口である。開けてもいない場所でつむじ風は起こりにくい。

 ついでに風もそこまでは強くはないため、尚のことつむじ風が起こる状況とは言い難かった。

 それならば一体どういうことなのだろうか?発生したつむじ風は激しく唸りながら周辺の木々や岩を砕いている。


 「岩を砕いている!?そんなバカな!!」


 二人はそんな様子を唖然として眺めていた。もはやただのつむじ風ではない!!

 それを悟ったとき、不意に声が響いた。

「久しぶりじゃのぉ。テルル。どうじゃ?ワシの嫁さんになる気にはなったかいの?」

 

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