ガーラン・バードの脅威! 逆襲のキジムラ part.1
「ちぃ、クッソ。面白くねェ……」
今日もファウは授業をフケて学校の屋上で寝転んでいたのだった。
太陽が眩しく輝いていて、温かい陽気である。
魔界には四季はない。寒い暑い荒れ狂う雷鳴、そして血の嵐が突然にやってくる。
今日もこれから激しい雨が降るという予報が流れていたものだったが、ファウはそんなことを気にしてはいなかった。
いや、ニュースを見ていないので知る由もなかったというのが正しいだろう。
そしてニュースでは流れていない『嵐』が迫っていることもまた、ファウは知らなかったのだった。
終業のチャイムが鳴った。
律儀なことにファウは終業のチャイムだけは守っている。
「おーし、終わったか。帰るか」
帰るときは屋上から地上へとそのまま飛び降りてしまう。下手に校内を通っても、ゼンソク先生に見つかったり、シュウに見つかったりすると面倒なのだ。
ついでに他の生徒からも怖がられている。
暴れ者の風評が立ってしまっているうえに、魔王の娘とあっては恐れられない訳がないだろう。
他の生徒からどう思われようが知ったことではないのだが、ささっと何処かに隠れられたり、不意にヘコヘコ挨拶をされるのは少しは嫌になる。
だから誰にも顔を合わせないように、そのまま屋上を降りて、校門を出てしまうのに限るのだ。
チャイムがなったばかりでは、未だ誰も外へは出てきていない。誰の顔も見ずに外へ出てしまおうとしたところへ――
「あァ?誰がいやがるな」
二人ほどの人影が見えた。
よくよく目を凝らすと、その人影には見覚えがあった。一人は背が高めで髪を両サイドに結んだ……言うなればツインテールにしている少女である。もう一人は対照的に背の低い子供のような風貌の少年だ。
「ひっさしぶりぃ!元気してた?」
「どうも、ご無沙汰してます」
見てみるにオガー族のテルルとヌエールくんであった。オガー族は人間界に住んでいる種族である。そんな彼等が魔界へやってくるなど、ここ数百年を見ても例がないことだ。
「なにか面倒ごとでも起こったのか?ゴメンだぜ、今そんな気分じゃねェんだよ」
ファウは素っ気無く答えた。しかし、テルルはそんなことは気にせずに、
「そんなこと言わずにぃ!ホラ、手伝ってよ、ねェ~!」
ファウの手を強引に引いて行こうとするのだった。それをヌエールくんは、
「ちょっとテルル様、いくら魔界に来てテンションが上がってるからって、いきなりは悪いですよ」
とあたふたしていた。
テルルが言うことを聞かなさそうなので、とりあえず3人は喫茶店で話をすることにした。
「お代はお前持ちだからな」とファウはテルルに言ったが、人間界に住んでいるテルルが魔界のお金を持っている訳がなかった。
人間界に行き来する魔界の者は数いても、交流や行き来はないのである。従って通貨の交換もない。
テルルはノリノリでお代を払おうとしたが、そこに来てファウがようやくそこに気が付いた。
「こンのバカヤロー!なにやってんだバーカ!!」
いくらテルルが悪くても、無銭飲食で捕まる訳にはいかない。学校に連絡されてゼンソクや親父のアズマに知られたら、もっと面倒なことになる。
仕方なくファウがテルルとヌエールくんのお代を払うことになってしまった。
そして2人の依頼を受けることになったのだった。
「コイツらを店に置いてくりゃ良かったぜ……」
お陰でお財布の中身はすっからかんになってしまった。
ファウはテルルを睨みつけてやったが、当のテルルはあっけらかんとしていた。
「まぁまぁそう言わずにさァ。手伝ってくれたら報酬は弾むって!」
「そもそもよォ、人探しってなんだよ。魔界は広いぜ?人一人探すのなんか無理なんだよ」
テルルとヌエールくんははるばる魔界まで、人探しに来たという。
探している人と特徴は『花火師』らしい。
「覚えてる?アンタがオガー島に来たときに逃がした――」
「あー?オオボケのヴォルケーノキジムラ大佐……だっけ?」
「大鷲・ヴォルケーン・キジムラ大佐です。最後しか合ってません」
「あぁ、そうだっけ。どうでもいいよ。そんなヤツの名前は」
テルルの話によれば、あのとき逃がした大鷲・ヴォルケーン・キジムラ大佐……以下キジムラ大佐が、オガー島にお礼参りにやってくるのだという。
「わざわざ予告状を送りつけてきたってか?罠じゃねぇの。ソレ」
以前に軍隊キジの群を従えていたキジムラ大佐である。お礼参りにしても、突如としておびただしい数の軍隊キジを率いてオガー島を襲撃すればそれっきりであろう。
しかし、それをせずにわざわざ予告状を送りつけてきたということは、何か狙いがあるに違いなかった。
「予告状には『完全勝利するため』と書いてありました。どうやら、我々を過小評価しているようです」
更に、今度は軍隊キジではなく爆撃鳥の『ガーラン・バード』を集めたのだという。
「ガッ、ガーラン・バードだって!?なんでそんなもんが出てくんだよ!?」
ガーラン・バードは魔界に生息する鳥類の一種で危険生物に指定されている。
魔界生物図鑑にもでかでかと取り上げられており、コミカルな見た目から非常に高い戦闘能力を持つことから、小学生でも名前と姿形だけはよく知られている。
――ということでファウでも名前と姿形くらいは知っているのだ。
しかし残念ながら詳しい生態や生息地域については知らない――『魔界生物』の授業では紹介されていたのだが……。
そのガーラン・バードとキジムラ大佐の野望を打ち砕くために対空攻撃能力を持つ花火、花火師が必要なのだという。
「魔界には凄腕の花火師がいると聞いてやってきたんですよ。魔界に上がってくるときは、ファウさんの知り合いだって言ったら、嫌な顔をされましたが通してくれました」
「…………」
ファウの悪名は色々なところに知れ渡っているらしい。それでも大魔王アズマの娘であるから、悪く扱うこともできない。
テルルにヌエールくんは見た目も年齢もファウに近い。関所の職員には友達に見えたのだろう。それで通してしまったのだ。
「それでぇアンタ、花火師に心当たりない?」
「花火師なァ……花火?」
ファウにはちょっと思い当たるところがあった。花火というよりは爆弾の方だ。爆弾作りが趣味のロックリバーだ。
「あのエロ本爆弾ならもしかしたら……」
対空花火くらいは作れるかもしれない。しかし、エロ本爆弾の一件依頼、あのアホの姿をみたことはない。
魔界も広い。何処か遠くへ旅立ってしまったなら、アテはないに等しいのだ。
そう思いながら、町を歩いている3人の前に一つの露店があった。花火の店らしい。
「あっ、花火売ってますよ。テルル様、コレなんか良いんじゃないですか?」
「おや坊ちゃん、お目が高いね。それは僕の自信作なんだ。空に向かって打ち上げると虹が掛かる――どうだい、お姉さん。買っていか……」
そこまで言ったところで花火売りの顔が凍りついた。
「よぉ、エロ本爆弾野郎、元気してたかオイ」
まさしくロックリバーであった。いくら彼でも爆弾製作のためにはお金が必要である。そのお金を稼ぐために、こうしてイーストの町で花火売りをしていたのだった。
これが魔界の田舎ではまったく売れない。凶暴な魔物が闊歩する地域では迂闊に花火を使えば、魔物を呼び寄せる結果となってしまう。
花火を楽しむなら魔物の居ない都会に限るのだ。