打倒!おはらい戦隊 EXシスターズ part.4 ~ 終
これには思わずファウも目が覚めた。
一体誰の声だろう?男の声だ。微妙に声は高い。少年の声のようだ。
「一体誰だ?気のせいか?」
目で周囲の様子をうかがうも、そのような人物はいない。ゼンソク先生にしては声が若すぎるし、エクソーンにしては言葉遣いが荒い。シャーベリアンはどこかへ逃げてしまったようだ。
(気のせいじゃねーよ!俺だ!俺!……あー、お前の持ってる剣だよ。今、この姿してんだった。忘れてた)
ということらしい。にわかには信じられないが、剣が意志を発しているようだ。
エクソーンは構わずファウの傍に立っていることから、この声は聞こえていないらしい。
(とりあえず、コイツ倒しちまおーぜ!こんな状況じゃ話すことも話せないだろ?)
「――といっても私はこんなんだ。倒すアテがないんだけど、どうすんだよ?」
(俺はあるから言ってんだっつーの!ないんだったら最初からお前に話なんか振らねーって)
「さっきから何を一人でごちゃごちゃ話している?もしや他の悪魔と交信をしているのではないだろうな」
「お前があまりにやりすぎるから、幻聴が聞こえてきたんだよ。気にすんな」
「そうか」
エクソーンがファウを思いっきり蹴飛ばした。ぐうっ、と低い唸り声を上げて、ファウはビルの壁に叩きつけられた。
「ファウ!!」
ゼンソク先生が声を上げて駆け寄ろうとしたが、エクソーンの剣から発した衝撃波でまるで紙のように吹き飛ばされた。
その一瞬の隙を突いて、ファウは立ち上がっていた。
「それで一体どうするんだ。私は魔力も腕力もないんだぞ。同じように殴っても、お前が痛むだけだぜ」
使い手に魔力も腕力もない以上、剣を振るったところで、とても通用するものではない。
しかし、それはその剣が普通の剣であった場合のことである。
「つまり、お前は普通の剣じゃないっていうことか?」
「喋る剣が普通の剣だと思うのかお前は?」
こんのやろー!ファウは思いっきり喋る剣を叩き付けてやろうかと思った。
ここまで悪態を吐く剣は普通な訳もない。何か特殊な力を持っているに違いないのだ。
「お前の小さい脳みそでも分かるように簡単に説明してやるから、感謝しなさい。いいな」
喋る剣は解説を始めた。
なんでもエクソーンに奪われたのはファウの魔力と体力であり、今回、大きく影響を受けているのは『体力』の方であるという。
体力が落ちている以上は身体に元気がないのだから、力の出しようがない。病人が健常時と同じパフォーマンスが出せるわけではないと言えば分かりやすいだろう。
「お前の体力を回復させれば、あとは魔力くらいしか差はないんだよ。」
「でも私は魔王の娘だぜ?魔力はイーストでも結構高い方なんだけどさー」
「そんでアイツは魔力なんか使えてねーから、お前の体力――頑張りなさい!あとはなんとかできるって」
声が投げやりに言い終えるとファウの身体に力が溢れてきた。
どうやら喋る剣が体力を回復させてくれたようだ。
(理由や事情は分からねーけど、アイツをぶっつぶすにはコイツの助けを借りるしかないか……)
ばっとファウは剣を構え、駆け寄ると、エクソーンに向けて剣を叩きこんだ。
「フン、お前程度の者が何度やろうと……ナニッ!?」
大きく火花が散ると、エクソーンは剣を構えたまま、後方へと吹き飛ばされた。
「おおっ!やったぜ!!やっぱり私、ツエーじゃないか!!」
「俺が手を貸してやったからだろ?調子に乗るなよ、バーカ!!」
ファウが喜んでいる隙を見て、吹き飛んだエクソーンが、立ち上がろうとしていた。
「ああっ!アイツまだ生きてんじゃねーか!よーし、アイツが死ぬまでコイツを叩き込んでやるぜ!!」
「あっ、おいコラ!あまり無茶するなよ!俺が壊れるだろ!!」
たっぷり礼をしてやるぜ!!と言わんばかりにファウはエクソーンの剣に喋る剣を叩きつけ続けた。
エクソーン本体を切り刻んでも良いのだが、それだと喋る剣を痛めつけることができない。
エクソーンも気に入らないが、まずは喋る剣を痛めつけて生意気な口を利いたことを後悔させてやりたかったのだ。
「うう……ぐ、クソ!!」
エクソーンが手に持っていた剣をやぶれかぶれにファウに投げつけた。
少し驚いて反応が遅れたものの、ファウはその剣を弾き飛ばてやった。しかし、その隙にエクソーンは距離をとっていた。
「まさか、私がやられるとは……ここは一旦、天界に戻るしかないな。フフ、お前の魔力は預かったままだからな。これを天界の連中の手土産にすれば私も、晴れて天使の仲間入りができるというものだ」
エクソーンが胸元から糸を取り出すと、それを空へと向けて掲げたのだった。
掲げられた糸は天を目指して何処までも伸びていく。あとはこれに着いていけば天界へと辿り着くのだろう。
「ハハハ!さらば……さらば!!」
糸に捕まり、するすると天へと昇り始めた。あっ、クソおいっ!待てぇ!!とファウが駆け寄るも、到底間に合いそうにもなかった。
しかし!その一方でエクソーンの昇天に間に合った者達がいた。
「ワタシ達を置いていくなんて酷いのだわ!!」
「どーせー、そんなことじゃないかと思っていたよ」
「帰還の路はプライスレス!僕達はそれに掴まりさえすれば一緒に帰ることができるのさ!!」
EXシスターズ幹部の3人が、いつの間にか目を覚ましていた。
そして天界へと一人帰ろうとしているエクソーンを見た。これでは魔界に置いていかれてしまう。
魔界に置いていかれたら、帰る術は持っていない。つまり魔界で生きていかざるを得なくなってしまうのだ。
まさに生死の境である。それがエクソーンの掴まっている『モクモロープ』によって左右されるのならば、無理にでも掴み取らなければならないだろう。
「こ、コラ!このモクモロープは3人用なんだ!4人は重量オーバーでブザーがなって動かなくなってしまう!!」
「つまり1人だけコンナところに残らないといけないワケね?」
「どーまんせー、僕は絶対離さないから……」
「こういう時こそハウトゥーマネー!定員枠を1500エンゼルで買うよ!どうだい?どーまんせー?」
あーだこーだと騒いでみるに、どうやら誰も手を放すつもりはないようだった。
ブー!ブー!とモクモローブがけたたましい人数オーバーの警報を鳴らし始めた。
「あーもう!うるせー!そんな糸、この剣でぶったぎってやる!!」
ファウが力任せに剣を降ろうとしたその時であった――
はらり、と糸が点から落ちてきた。天に伸びていった糸の先端である。
先端が落ちてきたということは、糸は既に浮力を失っているということだ。
「ななななんてこったい!!」
EXシスターズの4人は重なるようにしてコンクリートに叩きつけられたのだった。
「まだ剣は降ってないんだけどな。まぁ、のびちまってるし、ケーサツにでも引き渡すか」
「あー、ファウ姉さん、無事でしたか。ザコ怪人も全部倒しておきましたし、縛り上げてケーサツにでも引渡しまひょ」
ザコ怪人と幹部4人を含めて総勢124名ほどのおはらい戦隊 EXシスターズを縛り上げ、治安維持部隊の魔界ケーサツへ引き渡すのには結構時間と手間が掛かったものだった。
戦闘でなければシャーベリアンも活躍することもできるし、何とか立つことのできたゼンソク先生も手伝ってくれた。
猿山鉄郎とシャーベリアンの二人だけであったが、あのファウに頼もしそうな仲間ができていたのを見て、ゼンソク先生も少し安心したらしい。
「バカ娘だが、どうか仲良くしてやって欲しい。そして出来れば周囲に迷惑をかけるような時は止めてやって欲しい」
と密かに猿山鉄郎とシャーベリアンへ言い含めていた。
二人は苦笑を浮かべながら頷いていた。
こんなバカ娘でも、彼女の活躍によって事態が収拾したのだ。一応はお礼の言葉をかけなければならないだろう。
ゼンソク先生は照れくさくもあったが、それを言いにファウの元へと歩み寄った。しかし、
「ハハハ!こんだけ悪いヤツをケーサツに引き渡したら、なんか報奨金とかたんまりもらえっかな!?貰ったらどうしよ。憧れの魔装でも買うか?いや、格好イイ武器でもいいな。どうしよ」
調子に乗ったファウはエクソーンに痛めつけられた身体のことなんかすっかり忘れていた。しかも、貰えることが決まっている訳でもない報奨金のことで浮かれているではないか。
それを見てゼンソク先生も呆れるとともに、ファウの頭を思いっきり殴りつけて、
「こンのバカ!報奨金なんか出るワケないだろうが!!」
「いってー、なんでだよ。世のため人のためになることだろうが!お金を貰って何が悪い!!」
「そんなに世のため人のためとしたいなら、万が一出た時には、魔界福祉施設に全額寄付しておいてやる。――どうだ、世のため人のためになるだろう」
「うー、クソー!覚えてやがれ!!」
言い出したら聞かないゼンソク先生なので、ファウはこれ以上の抵抗をやめた。
後日、報奨金が出たものの、受取人はゼンソク先生となり予告どおり魔界福祉施設に全額寄付されてしまった。
魔界福祉施設にはファウ名義で大量のランドセルが届けられ、多くの少年少女が喜んだそうな。