第3話 天文18年
隆景:「養子先で肩身の狭い思いをしている我々を見かねてか。父・元就は天文18(1549)年の山口へ向かった際、その供として我々を同行させるのでありました。」
元春:「毛利の一員であることを忘れるなよ。の意味合いもあったかもしれませんが……。」
隆景:「当初は近況報告ぐらいの出張であったのでありましたが……。」
元春:「父の体調優れず、3か月に及ぶ長期の滞在となりまして……。」
隆景:「これが甲斐の国でしたら、そのまま……なのでありましょうが。」
元春:「父・元就と兄・隆元との関係は良好なこともありまして、5月に無事。安芸郡山に戻ることが出来ました。」
隆景:「我々にとってそれが良かったのかにつきましてはさて置きまして。」
元春:「そこで父も感じたのでありましょう。ご自身の年齢を。」
隆景:「53でありましたからね。」
元春:「人間50年であります故。」
隆景:「家督は既に兄・隆元に譲っているとは言え父も第一線で働いている身。」
元春:「いづれ父の寿命も尽きることになります。」
隆景:「そのことも念頭に置きまして安芸・備後両国の情勢を見ていきますと。」
元春:「父・元就が毛利の家督を継いでから大内・尼子両勢力挟まれた安芸・備後には、彼らに単独で対抗することの出来る勢力は存在しておらず、係争事が起こるたびに大内に付いたり尼子に付いたりを繰り返しながら現状維持を目指す……。そんな日々を過ごしておりました。」
隆景:「その尼子・大内両勢力の争いに最も影響を受けることになっていたのが兄・元春が潜り込みました吉川家。」
元春:「あまりの節操の無さ。正しくはそうせざるを得なかったから。なのでありましょうが家臣からしますと(……この人が当主で大丈夫なのだろうか……)。」
隆景:「そこに目を付けた父・元就がテコ入れに乗り出した結果。」
元春:「私は今。大変面倒な人間関係に巻き込まれることになってしまったのでありましたが……。」
隆景:「そんな安芸・備後の小勢力がその日の生き残りを賭け東奔西走している中。勢力拡大に乗り出したのが父・元就。」
元春:「とは言え毛利も独立独歩で勢力を維持拡大することが出来たわけではありませんので、兄・隆元を人質に出すことにより西の大勢力大内家との関係強化に努め、全勢力で持って東側に位置します安芸・備後両国へ兵を進めることになるのでありました。」
隆景:「……と言いましても毛利も含め似たり寄ったりの安芸・備後の諸勢力相手に武力だけで版図を拡大することは出来ませんので。」
元春:「父・元就は安芸の国の諸勢力が大勢力に相対する時、以前から用いていました連合組織『一揆』を活用。各勢力の権益を認めることを条件に、『一揆』の代表者の地位に就くことにより勢力の拡大を図るのでありました。」
隆景:「これにより毛利家は安芸・備後。更には備中へと進出していくことになるのでありますが、あくまで連合組織の代表者でしかありませんので各勢力が毛利に従っているわけではありません。」
元春:「加えて安芸などの諸勢力が一揆の盟主と見ているのは毛利家では無くあくまで元就と言う個人。」
隆景:「もし父・元就に何か……。となりました場合、今の関係が瓦解してしまうことになります。」
元春:「それを抑え込むだけの勢力を毛利単独で持っているわけでは無い。」
隆景:「このような危うい状況にある中での今回の病。」
元春:「父・元就は覚悟を決めるのでありました。」