転生神の尖兵
どういうことなんだ……?
まず、名前だ、名前。
姓名がなくなってる。
あと、ナノンじゃなく、なのん。
ひらがなになっている。
次に、区分だ。
マニュアルによれば、ここには種族が書かれるらしいんだが……。
俺の尖兵? なんだそれ……。
ただ、スキルに関しては俺がナノン・ヴィルデットに与えた祝福と酷似している。
考れらるのは、転生のシステムが……バグった……とか?
クソ!
転生神の眷属も、転生神の祝福についても分かってないってのに。
「えーっと、なのん、ちゃん? きみは、どういう存在なんだ?」
とにかく確認だ。
訊いてみれば分かるかもしれない。
「なのんはなのんですよ、神さま!」
ダメだ分かんねえ。
「神の尖兵って、なに?」
「神さまのために、戦う種族ですよ! たたかいます!」
いったい何と戦うつもりなんだろうか、このおチビさんは。
んー。それにしても困った。
本当に分からない。
『マニュアル:転生神について』
『マニュアル:転生神の役割』
『マニュアル:転生神の苦渋』
心当たりがあるとすれば、この辺のマニュアルだろうけど……。
目次を見ても、やはり眷属や尖兵だなんて単語はでてこない。
マニュアルも俺自身も、びっくりするぐらいの情報量の少なさだ。
知っていそうな人は、いるにはいるけど……。
「嫌だなあ。あの女神さまに頼るの……」
この件に関して、放置してもいいけど…………。
「なのんはさ、ずっとここにいるの?」
「いますよ!」
らしい。
ちょっと得体というか生態というか存在が未知すぎて、一緒にいるのが怖いですね。
俺は『困ったときの最終手段』というマニュアルを、本の山から探し当てる。
そう、そこには女神さまへの連絡手段が書いてあるのだ。
まあ、緊急事態だし、しょうがねえだろう……多分。
そう思いながら、俺はスキル『愛しの女神さま』を発動させる。
……。
させた。
……。
……なにも起きない。
「このスキル、故障してんのか?」
「失礼ね、私が管理しているスキルに、故障も不良もないわよ。完全無欠なんだから」
どうやら成功していたらしい。
良かった、愚痴とか不満を言わなくて。
女神さまの姿は見えないが、声だけはラグもノイズもなく聞こえる。
高音質な電話って感じだ。
「ところで、私相手に『荘厳』と『厳粛』なんか発動して、どういうつもり? 喧嘩売ってんの?」
あっ。切るの忘れてた……。
慌ててスキルを打ち消す。
目の前でチビ助が「神さま、なんかショボくなった……?」とか呟いてるけど、安心しろ、最初から全部、君の気のせいだ。
「で? バカンス中の私を仕事の思考に引きずり込んだんだし、なにか重大なコトが起きたのよね? 私の休暇よりも重大な、それこそ、私の1億年の楽しみを奪うような、そんなコトが?」
えっ。
1億年も生きてないから、俺には分からないです。
「えっと、転生神の尖兵っていう区分についてと、転生神の眷属、転生神の祝福について、教えてほしいんです」
この事案は1億年分に値するんだろうか。
値しなかったら、俺はなにかしらの覚悟をしないといけないんだろうか。
「…………なんですって……?」
「ごめんなさい」
「そうじゃなくて、転生神の尖兵?」
「はい、ごめんなさい」
「いまそこに、尖兵がいるの?」
なんだろう、1億年分に値したんだろうか……。
「はい」
「く……。代理のクセして生意気な……。帰ったらぶっ殺してやる」
「え……?」
「もう切るわね」
俺の質問に一切答えることなく、女神さまはそうして一方的に会話を終わらせた。
俺の命をかけた、壮絶で一方的な戦闘が始まる……?
え、そんなの嫌です。
助けて、なのん!




