監視下に置かれる
カーテンの隙間から朝日が差し込んできた。ゆっくりと目を開けて驚いた。
「わっ!ここ自分の家じゃなかったのに・・・」
なのに、ぐっすり眠ってしまった。因みに伏見さんはリビングのソファーで寝ていた。
2,3人は座れるはずのソファーだけど、彼の脚は長いから見事にはみ出していた。
「申し訳ないっ」と心の中で深々と頭を下げた。
ちょっとだけ、ちょっとだけイケメンだけど口の悪い男の寝顔が見てみたくて・・・上からのぞいた。
「はっ・・・」
私は思わず声が出そうになったのを両手で押さえて、押し殺した。
だって、男の寝顔が綺麗ってどうよ。
整った眉毛、閉じられた瞼に長い睫と少し高めの鼻、キュッと結ばれた薄い唇。
(こ、これはっ、本当にあの口の悪いS気味な警察官ですか!?)
心の声を大にして私は叫んでいた。
か、帰ろう。私は再びベッドの部屋に戻り自分の服を取り、着替えた。
因みに自ら脱ぎ捨てたと思われる服は、綺麗にたたまれて置かれたあった。これ伏見さんが?
だって、分かります。自分のたたみ方と違うから。
「すごい丁寧な仕事するんですね」
音を立てないように、伏見さんが寝ているソファーの後ろを忍び足で通り玄関に向かう。
カチャと控えめにドアを開けて手が止まった。
(これ、私が出たら誰がカギをかけるんだろう。開けっ放しはまずいよね。いくら男の家でも彼が警察官だとしても。泥棒も開けてびっくりだ、警察官宅に窃盗ってかわいそう)
「あんたの頭の中ってマンガだな」
「きゃっ//」
「まさか黙って帰ろうとしたの」
「え、まぁ。だって気持ちよさそうに寝てたし、お疲れだなって思って」
「忘れたのか。あんたは俺の監視下に置くって」
「それ、やっぱり有効ですか」
「だって俺、手出されたんだろ?年上女に」
「だー!!それ言う?ってか、本当は私そんなことシてない!・・・はず」
「はず?」
「う」
どうしてキッパリ言えないんだろう。シてないよ?うん絶対にシてない。
でももしかしたら、大変失礼なことを致してしまったかもしれないじゃない?だから・・
「今日休みだろ?俺も休みなんだよ」
「なんで他人の休み知ってるんですかっ!」
「昨夜言ってたぞ。私明日は休みだから X X Xって」
「ちょ、その X X Xって何っ」
ニヤリと黒い感じの笑顔を見せて来た。やっぱり何か至らぬことを・・・最悪ぅ。
「腹減った」
「はい?」
何故か私はお母さんになった気分だ。台所に立ち、包丁を握りトントンと葱を刻む。葱があったことには驚いたけど。それに包丁がよく切れて怖いくらいだ。
本当に男の一人暮らしだろうかと疑うくらいに、キッチンは充実していた。
ごはんにお味噌汁、卵焼きと野菜炒めを作ってみた。
「どうぞ」
「悪いね」
「いえ」
簡単な会話で朝食は始まった。ナンクセつけてくると身構えていたけれど、それもなく、伏見さんは黙ってもくもくと朝ごはんを食べている。「おかわり」とお茶碗出されてちょっと驚いた。
27歳、まだまだ食べ盛りなのか?
「あの、監視下に置かれた私は今後どうなるんですか」
「まず、定期的に連絡する事。で、勤務表が出たら写メして送る事。取り敢えずはこんな感じだな」
「連絡先知りませんけど」
「あ?もう交換済みだから確認して」
「はあぁっ!?いつ交換したんですか!」
どうも私が寝ている間にデータ交信した模様。プライバシーの侵害だと言ったら「スワイプひとつで解除できる方が悪い」と痛い所をつかれた。直ぐに、ロック掛けねばっ!
スマホの電話帳に【伏見亮介】という名前が追加された。
「これって職権濫用なんじゃ」と気づいたら思っていた事を口にしていた。当然ギロリと睨まれた。
食べ終わった食器を洗おうとしたら「そこまではされらんねー」とかなんとか言って伏見さんが洗った。
「じゃあ帰ります」
「・・・」
「いいですか?」
なぜか許可を求めてしまうのも、年下なのに敬語を使ってしまうのも腑に落ちないが仕方がない。昨夜の記憶がないのだから。
居酒屋から出た所まで何となく覚えているんだけど・・・
「あ、お金!結局わたし払ってませんよね?払います」
「いって、大した額じゃねえし」
「え、でも」
「あーもう、イライラすんなぁ。要らないんだって」
「イライラって。ん?」
なんかこのフレーズ聞いたような?
『あんた見てるとイライラする』
『じゃあ見ないで下さい!』
で、確かそのやり取りの後に・・抱きしめられたーーっ!
「あっ!」
「なんだよ」
やだ、なんで思い出したんだろう。バカっ、超恥ずかしいしっ。
だって、黙ってたらすごくイケメンなんだよ?この人!
「おい、なんでそんなに顔が赤いんだよ」
「え?嘘っ、赤い?やだー!」
思わず両手で顔を隠してしまった。
この、俺様警察官にいいように遊ばれてる。私って残念過ぎる。
ー キィーーン
(来た、耳鳴り)
え?え?え?待って、何この映像・・・。
これは無いわ。ないない、伏見さんがそんな事する訳なっ、い?
「あんたさ」
「はい」
気づいたら伏見さんがもの凄く接近していて、びっくりして後ろに下がったら壁に背中がついた。
私の左上の壁に伏見さんが右手を「トン」と突いた。因みに顔は下から覗き込むように屈んでいて、目があった。
(ふわぁっ!こ、これはかの有名な【壁ドン】では?)
トクトクトクトク、心臓がもたない。
ギュッと目を瞑った。
ふっと彼は笑って、私の頭に手を乗せてポンポンとして来た。
「え?」
年下だという事をすっかり失念してしまうこの行為。
どーいう事ですか?
辛うじて映像とは異なったので、ホッとする。
だって・・・映像では【キス】してきたから。
「本当にすげーよ。そんな能力があるなんてな」
「そんな能力って?」
「なんでもねーよ。いいよ帰って、明日から報告忘れんなよ」
伏見さんは何かを知ってるような口ぶりだった。
とっても納得出来ないけれど、心変わりされる前に伏見さんの部屋を後にした。
明日から報告って、何を送ったらいいんだろう。
それより昨夜わたしは何をした!!そっちが重要じゃん。