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ひとり飲み、のはずだった

うじうじ考えていたら、もう退勤時刻となっていた。

そうあれからずーっと、駅構内を掃除して管轄外の新幹線改札口まで巡回していた。


新幹線の職員にギョっとした目で見られてしまったけど、気にしない。

一応同じグループなんだけど、あちらは妙にプライドが高いように見える。

そんなことはどうでもいい。


「はぁ・・・(普通に戻りたい)」


案外メンタル弱い私は駅の事務所までどうやって帰ったのか、覚えていない。

日々の繰り返しってすごいですね。

気付けば引き継ぎ書にペンを走らせ、制服を着換え退勤カードを押していた。


「お疲れ様でした」

「おっ、森川・・・いたの?」

「お先に失礼します」


私の頭の上だけ分厚い雲が乗っているように、気分はどんよりしていた。

今日は何曜日だっけ?明日は休み。

すれ違うサラリーマンから微かにお酒の匂いがした。時計は19時を過ぎた所。


(定時が早い人ってもう飲んで帰れるんだぁ・・・羨ましい)


そんなことを心の中で呟いてみるけど、私はお酒が弱い。一人飲み?危険、危険。

なのに今日は頭より気持ちより先に、体が勝手に動いていた。


「いらっしゃいませ!」


私は無言で一人と人差し指を上に向けた。店員は半個室の二人席に私を通した。

今やおひとり様は珍しくない。だから恥ずかしさも寂しさも感じる必要はない。


「生ビールお願いします」

「はい!ありがとうございます」


おひとり様が初めてな私は、何をどれだけ頼めばいいのか分からないでいた。

盛り合わせとつく名のものは量が多いな・・・当たり前か。

たった一杯のビール、されど一杯。頭の上にあった雲は、いつの間にか消えていた。


そんな一杯のビールがまた美味しくて、頭より体が動く私はお代わりを注文していた。

(んふふっ、どーでもなれっ!はぁ、楽しい)


すると目の前の席に黒ずくめの誰かが椅子を引いて座った。


「あれ?お席間違えてますよ」

「合ってる」

「え?・・・、伏見っ!さ、ん」

「あんた今、さん無理やり付けただろ」


なんなんだぁ!なぜココに現れるっ。やだぁ、取り憑かれてるの?わたし。


「相変わらずだだ漏れだな。すみません、生ビール一杯追加」

「飲む気ですか」

「悪いか」

「悪くはないですけど、この席じゃなくても・・・」


チラリと伏見さんの顔を見たら、真顔で「ダメか?」と囁かれ不覚にも心臓が跳ねた。

忘れていたけど、彼は黙っていれば振り返るほどのイケメンだ。

甘いマスクのではなくて、キリリとした男らしい精悍な顔立ちをした方の。


「だっ、ダメではないですけど」

「じゃあ決まりだな。あ、それから敬語はいらない。俺あんたより若いから」

「は?と、言いますと?」

「あんた30だろ?俺、27だから」

「と、年下なのぉぉ!」


今までの敬語と遠慮を返せー!

妙な脱力感と諦めからか、初めて三杯目の生ビールを頼んでしまった。


「あんた飲めないのにイイのかよ」

「ちょっと、あんたあんたって。ちゃんと名前呼んでください、覚えてますか?」

「森川奏だろ」

「そ。だから、あんたは禁止ぃ。ちゃあんと、名前。よんでっ、ね?」


ああ、酔ってる。それはよく分かってる。でも、制御出来ません。


「酔ったな」

「ん?ふふっ。伏見さんの下の名前なんて言うの?」

「おまっ」

「伏見なに?ねえ、おしえて?」

「・・・亮太」

「伏見亮太?かっこいいじゃーん。そういう名前、好き」

「はぁ!?」

「今時のキラキラネームじゃなくて、ちゃんと男らしい名前。あなたに合ってる」

「っ!」

「亮太さん。飲んで、飲んでぇ」

「・・・」


おお!黙ったぞ?初めて勝ったような気分。

でも本当にちゃんと見たら、この人凄く素敵な顔立ちをしていると思う。

お仕事も警察官だし、ステータスかなり高いと思う。

お酒のせいですね。酔っぱらいフィルター発動したのか、伏見さんがめっちゃ格好よく見える。


「ヤバぁ・・・」

「おい!大丈夫か。帰るぞ、送る。しっかりしろ」

「やだぁ、わたし普通の人になりたい。あんな能力(ちから)要らない」

「おい」

「うぅ、苦しい。皆の未来ちょっとだけ見えるのに、役に立たない」


あれ?私何言ってるんだろう。おかしい!

伏見さんはが突然私の顔を覗き込んできた。しまった、訳のわからないことを言ってしまった。


「すみません。帰ります」

「帰ります、じゃねえよ」

「えっ」


伏見さんが私の腕を掴み、ギロリと睨む。お会計をカードで済まし、私の腕を掴んだまま店を出た。


「あ、お金。すみません、払います」

「あんたさ、抱えすぎなんじゃねえの?」

「な、何を」

「ちっ!」

「っ!?」

「あんた見てるとイライラする」

「じゃあ見ないで下さいっ!!」

「あー、くそ!」


ボスっ・・・て、あれ?見えない。

突然視界が何かに覆われて見えなくなってしまった。というか、顔を何処かに押し付けている模様。

背中をギュッてされて、(あった)か・・・!?


だ、だ、だ、抱きしめられてる!

何年ぶり?とか言ってる場合じゃないって。く、苦しい。


「ぐる、しっ(苦しい)」

「苦しいのは、あんただけじゃない」


なんて?抱きしめる側も苦しいと?んなわけ、ないでしょ。


「ふっ、くく。相変わらず変なヤツ」

「あのっ、はな、じて(放して)」

「今、放していいの?みんな見てるけど、俺達のこと」

「なっ」


ー キーン!


()っ、っうあっ」

「おい、大丈夫か」


やだ、激しい。周りの声が聞こえない。力が抜けてく、こんなの初め・・・て。


「おいっ!」

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