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欲しいのに

春休みの特別企画【セブンスターの乗務員になろう!】が開催された。この小さな田舎の駅に豪華列車セブンスターが停車する。

地元の子どもたちは長い列を作り、今か今かと待っていた。


「列車が入ります!黄色い線まで下がってお待ちください」


ーフホーン…ッ


重厚な車体を太陽の光でキラキラと反射させて、ゆっくりとホームに入って来た。

子どもたちの手作りの旗がシャカシャカとなびく。


春の暖かな日差しの中、セブンスターの制服を着た子どもたちが車掌と順に写真撮影をしている。

そんな様子をほっこりした気持ちで眺める事が出来て幸せだ。


それに・・・。


「今度は私っ。ハイ、ポーズ。ありがとうございました!」

「次私だって、絶対に待ち受けにするー」

「私もー。」


女子中・高生の塊が駅の入り口でざわめく。

何に群がっているのか?

ー 亮太だ


何と亮太が警備でこの駅に配置されたのだ。もちろん相棒もいるのだけど、お父さんクラスのおじさんなため亮太に女子たちが偏ったという訳だ。笑顔で応じるのも警察官の仕事なのかはさておき。


「まあ、嫌われ警察官よりはマシか」


ぼそっと呟く私に、その相棒警察官がやって来てこう言う。


「奏ちゃんの旦那はモテるな。こんな田舎にあんな垢抜けた警察官は目立つしなぁ」

「なんか、すみません」

「いや、助かってるんだ。警察官は怖いって嫌煙されがちなんだけどね。ああやって若い子たちから寄ってきて何気ない会話をしてくれる。それだけでこの町の様子が分かるんだ。本当に助かってる」



亮太はすっかりこの町に溶け込んでしまった。家でも菜園に入って土をイジったりしてとてもキラキラ輝いている。

彼はとても頼もしい男になって行く。


「二人の子どもはさぞかし可愛いだろうな」

「ふふっ、ありがとうございます」


私たちもいつ授かってもいいと思っている。

亮太なんて産むのは私なのに「最低三人がノルマだ」という始末。

でもまだ兆候は無い。


「はぁ、焦っても仕方がないんだけど、こんな風に言われるとね」


無意識にお腹を擦ってみたりする。

早く出来ないかなぁ。



* * *



子どもたちの賑やかな声に包まれて、一日の仕事を終えた。

亮太も署に戻り報告を済ませて帰宅した。


「お帰り。今日はお疲れ様」

「おう。子どもたちすげぇ楽しんでたな」

「うん。亮太もキャーキャー言われてよかったね」


そう言うと片方だけ眉を歪めて「なんだよその言い方」と不機嫌になる。なんでだろう、私はヤキモチを焼いているのだろう。

15も下の少女たちに嫉妬するなんて、自分でも嫌い。


「別にっ。よかったねって言っただけ」

「は?」


分かっている。彼女たちが悪いわけでなく、ましてや亮太が悪いわけでない。悪いのは私の曇った心だ。

亮太よりちょっとだけ歳上な私は若さに嫉妬している。


「なんだよ」


亮太が後ろからガバーって抱きついてきた。

肩口に顎を乗せて「ご機嫌斜めだな、俺の嫁さんは」と言う。

お腹のところに彼の腕が絡まる。時々、サワっと撫でたりする。


「出来ないね・・・」

「え?」

「亮太、頑張ってくれるのに赤ちゃん来ないなって思って」

「もしかして気にしてたのか?」

「・・・」


早く家族を増やしたいから、一日でも早く。

私たちの家族が早く、欲しいから。


「なあ、奏。俺はもう少し二人でいちゃいちゃしてたいんだ。あんまり早く出来たら俺、自分の子供に嫉妬しかねないぞ?」

「何言ってるの(嘘ばっかり…亮太も欲しいでしょ)」

「気にすんなって、言っても無理なのは分かるよ。けど、焦ると弄れ者の俺たちの子どもは来てくれなくなるぞ」

「弄れ者?」

「俺と奏が弄れてるんだ、子どももそうに決まってるだろ」

「プッ、やだ」

「ほら、笑ってろ。奏が笑ってないと怖がって降りて来ないから」

「うん。分かった」

「それでも来てくれなかったら、その時考えようぜ」

「亮太」


亮太は私の考えていることを気付いてくれていた。亮太だって早く欲しいと思ってる。でも、まだ二人でいたいって。


私はくるりと亮太の方に向き直って、正面からドンと抱きついた。

「うわっ」って少し驚きながらもしっかりと抱き留めてくれる。

トク、トクと一定のリズムを刻む彼の心音。これに私は何度も救われた。子ども云々の前にこの人が居ないと私はもう生きていけない。


「ありがとう」

「奏。俺、もっと頑張るからさ。直ぐに出来るって」

「うん」

「よし!思い立ったら吉日だっ」

「え?あっ、ええっ!!」


体力のある若手警察官に私は隅々まで食い尽くされた。


だから…早く、来て?

おばあちゃん!私の体力が持ちませんっ。


赤ちゃんは次回に持ち越し。

早く授かります様に。


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