もう会うことはないんだから
あんな態度の悪い警察官は初めてだ!
ま、でも今回の件は滅多に起こる事じゃないから二度と会う事はないだろう。
「はぁ、疲れた。寝よ」
私はすぐに部屋着に着替えて、ベッドに潜り込んだ。
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『俺の女になれよ』
(えっ!なんて?)
『俺にしか、奏の事を護れる人間はいないよ』
(・・・誰?)
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「うわっ!」
何?なんか・・・変な夢、見た。
時計を見たら午後3時を回ったばかり、まだ外は明るい。
変な時間に寝たからかな?
「ふふっ、私ヤバいよね。誰かに告白される夢を見るようになるとは、はぁー終わってるねぇ」
彼氏いない歴4年目に突入。その後、欲しいとは思ったこともなく、カップルを見ても羨ましく思うこともなく、淡々と日々を過ごして来たはずなんだけどな。
「本当は飢えてるのかな・・・」
取り敢えず、お腹が空いたのでスーパーにでも行こう。
そんな時、スマホが鳴った。
「っ!びっくりしたぁ」
最近は電話よりメッセージのやり取りばかりだったから、着信音にかなり驚いた。
ー もしもし、さやか?
ー あ、奏?久しぶりぃ。電話とったって事は暇よね?
ー え、当たり。
ー 合コン行こう!
ー えー、いつ?私、あんまり休みないよ
ー 今日だから大丈夫!7時にビストロ桜で!アド送っとくね。
強引だなぁ。どうせ欠員の穴埋めでしょ。合コンって、あんまり好きじゃないんだよねぇ。
はじめまして…とか、お仕事何してるんですか?…とか。
ワントーン高い声に、余所行きスマイルが面倒くさい。あと、たまにあの力が発動する時があって疲れる。
「家が一番いいよ〜」
本当に干物化しそうだな。はぁー・・・。
重たい腰を上げて、先ずはお風呂に向かった。目、覚まさないと!
* * *
そして私は今、ビストロ桜で作り笑いし過ぎて頬がヒクついている。
食事は美味しいんだけど、話が面白くない。
男3、女3でオシャレなフレンチ食べながら合コン中です。
彼らは銀行員だそうだ。
「僕、アウトドア好きなんで連休になるとキャンプとかバーベキューとかに行くんですよ」
「へえ!行動派ですね。頼もしい」
思ってもないことを言ってしまった。因みに、私はアウトドアが苦手だ。
「じゃあ、今度どうですか?一緒に」
「そうですね。でもお休み合わないんですよね、私たち」
そう、彼らは基本的に土日祝日は休み。私は夜勤ありのシフト勤務だ。週末に休みが巡って来るのは月に一度あるかないか。
既婚者を優先しているからそうなるんだけどね。
「あぁ、そっかぁ。駅員さんだもんね」
「です。です。」
あ、2回も言っちゃった。
「あれ?森川さんはお酒飲まないの?」
「私、弱いんですよ。だから・・・え!」
「一杯だけ、付き合ってくださいよ」
「は、はぁ…(困ったな)」
チラリとさやかを見たけど、超ご機嫌にメガネ男子と話していた。
さやか好みだわアレ。
一日の疲れと、妙な空気に押され飲んでしまった白ワイン。
本当は一杯も飲めないのにぃ。
「あれ、奏!飲んだの!?」
「さやかぁ、ふへっ。酔った、帰るっ!」
「森川さんって本当に弱かったんだね。ごめん、僕送るよ」
「大丈夫れすっ」
「はは、大丈夫じゃなさそうだよ。家、何処?」
ー キーン…
(っあ!痛いっ。来た、耳鳴りっ。何?誰?)
『森川さん、此処でいいよね?』
『え?どこですか』
『俺ん家』
玄関先で女に覆い被さる男の映像。覆い被さられているのは?
・・・・ゲー!私じゃんっ!
「地下鉄で帰りますから、二次会にどうぞ行ってください」
「お酒に酔った女の子を一人で帰せないよ」
「いや、女の子じゃないから大丈夫ですよ」
こんな30歳の女を誰が襲うか!おっと、ここにいたっ。
振り切ろうとしたけど、もう頭グラグラだし耳鳴り止まないし。
(あれ、何で耳鳴り止まないの?)
名前もうろ覚えな彼に腕を取られて、不覚にもよろける。
「きゃっ」、「あぶないよ」と肩を抱かれてしまったぞ!
(やだー、やだー。何この図ったような展開。恥ずっ)
「すみませんっ、もう大丈夫で・・・!?」
突然、男の顔が近づいて来た。これはマズイ!と仰け反るけど、両手で腰を支えられ逆に動けなくなってしまった。
ダメだぁ、万事休すーーーー。
あれ?口、手で塞いでる。否、塞がれてるっ!!
私じゃない、目の前の彼じゃない。誰!?
その瞬間、グイッと強く後ろに引かれてポスっと後ろから包まれた。
男の人の腕であろうものが、私の胸の前で交差して。これは後ろから抱きしめられていますね?
「悪いね、コイツ酒弱くて」
「あ。え、彼氏さん?」
(彼氏さんって誰)
「帰るぞ、奏」
「え、え、え?」
耳元で『かなで』と言われてドキッとしてしまった。その場から私は回収された・・・誰に!
「ほら、地下鉄。ちゃんと前見て帰れよ」
「あの。ありがとうございました。で、どちら様ですか?」
「は?」
「へ?」
私の目の前にいるのは、スラリと背の高い好青年だ。
短髪なのに前髪が少し眉にかかっていて、目は大きめの二重、シャープな顔のラインに薄い唇を持ったイケメンさんだ。
「あんた、人の顔覚えられないヤツなの?」
「どこかで会いましたか?」
「ちっ」
うわっ、舌打ちした。嫌な人!かなりのイケメンなのに、口悪いし性格悪いわ。勿体無いっ!
ん?こんな感じの人、いたような。
「やっぱりあんた、頭打っただろ」
「何で知って、ああ!!今朝の!」
うそー!二度と会わないと安心してたのに、もう会っちゃったよ!
「煩せぇ・・・」
眉間にシワを寄せる彼は今朝のっ、SPの仕事もする警察官だった。
さっきの胸の『ドキッ』返せっ!