この頃の亮太
穏やか過ぎるほど田舎での時間の流れはゆっくりだ。
単線とは言え駅は行き違いをする為に辛うじて、ホームが2つある。
上りと下り。
午前と午後に一回、計二回は列車が同時に止まる。
後は特急列車の追い越し待ちくらいだ。
そんな田舎の駅に春休みや連休になると、子どもたちや鉄道マニアたちを喜ばせるイベントが行われる。
あの豪華列車セブンスターがこの田舎駅に停車するのです!
この近くにある滝が観光客の注目を浴び、なんとその滝は線路からしか見えないのです。
「奏ねえちゃーん、セブンスターいつ来るの?」
学校帰りの子どもたちがやって来た。
「よくぞ聞いてくれました!春休み第一日目、午後一時です。しかも!セブンスター運転手の制服を着て写真撮影ができまーす」
「やったぁ!」
「よっしゃあー!」
子どもたちの歓喜の声が山肌に響いた。
いいなぁ、子どもは。とてもキラキラしている。
前居た職場では広報課が全て仕切っていたので、直接関わることはなかった。それを思うと小さな駅も悪くない。
何でもしなければならない大変さもあるけど、こうしてお客様の感動を直に感じることが出来る。
「ねえ奏姉ちゃん、イケメンの旦那さんは来ないの?」
「え?たぶん来ないよ。だって駅員さんじゃないもん」
「えー、うちのお姉ちゃんが警備で来るって言ってたのに」
「そうなの?警備・・・なくはないけど、お知らせもらってないよ」
「そっかぁ。でも、セブンスター楽しみ」
そう言って無邪気に手を振りながら帰っていった。
亮太は相変わらず人気者だ。
* * *
午後6時、駅の仕事を終え帰宅すると直ぐに亮太も帰ってきた。
こっちでは制服で勤務する為、出勤退勤時は私服だ。
「お帰り」
「ただいま」
そう言い終わると亮太が後ろから抱き着いてきた。この頃の亮太はこうやって甘えて来る。もちろん嫌じゃない。
「亮太、ご飯作れないんだけど」
「いいよ別に。代わりに子ども作ろうぜ」
「・・・発情期?」
「喜べよ。盛らなくなったら終わりだぞ」
「エロ警察官」
「煩せぇ」
夕飯の準備を放棄する形で、イケメン改めエロ警察官に寝室に連れこまれてしまった。
朝飯前ならぬ夕飯前ってやつだ。若い・・・。
私はリビングのソファーに転がりながら、亮太に夕飯の指示を出している。私は亮太がキッチンに立つ姿が好きだ。
背が高く、細身に見えて中身はスゴイ彼の背中は、本当に頼りがいがある。口が悪いけど、心は優しいんだよ。
「ねえ亮太。春休みの駅のイベントなんだけどさぁ」
「ん?ああ、一日駅長だっけなんだっけ?」
「セブンスターが来るやつね」
「ああ、そうそれ」
「小学生から言われたの。亮太は来ないのかって」
「俺!?なんで俺が」
「警察官だから警備で来るはずだって、その子のお姉ちゃんが妄想に耽ってるみたい。亮太、モテモテだね」
「なるほどな。ってか奏!まさか中学生にやきもち焼いてんの?」
「ゼンゼン、ヤイテマセン」
口の端をクイっと上げた得意げな笑み!
腹立つなぁ。
「まだ何も聞いてねえな」
「だよね」
この大きな一軒家に二人で住む。お父さんが建てたドリームハウスはおばあちゃんに守られ、今私達か引き継いだ。
意外だったのは、亮太がマメだった事だ。
何となく俺様で面倒くさがりだと思っていたのは間違いだった。
「今度の休みは庭の草むしりと、菜園に肥料撒かないとだ。土をちゃんとしとかないと、何植えてもダメだって」
「亮太って土いじり好きだったんだね」
「そうみたいだな」
巡回で農協とか銀行を回る亮太は、あちこちで知識を増やしている。
まさに職権活用しているのだ。
乱用と言うと叱られるので、心で思うだけにする。
何だか亮太が活き活きしている!
田舎に越してきて正解だったね。
「なに、ニヤけてんだよ」
「ん?ふふっ。亮太、活き活きしてるなって思って」
「俺、田舎が合ってるみたいだ。なんか漲る感じたし」
「良かったね」
「この調子だと親になるのも近いな」
「誰が」
「俺たちに決まってるだろ?さっきだって」
「コボッ、コボッ。な、なによ。もうっ」
あはははと笑う亮太は、本当に眩しかった。
何となく、お腹の奥にポコリと何かが宿ったような?
そんな気がした。




