表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/42

この頃の亮太

穏やか過ぎるほど田舎での時間の流れはゆっくりだ。

単線とは言え駅は行き違いをする為に辛うじて、ホームが2つある。


上りと下り。

午前と午後に一回、計二回は列車が同時に止まる。

後は特急列車の追い越し待ちくらいだ。


そんな田舎の駅に春休みや連休になると、子どもたちや鉄道マニアたちを喜ばせるイベントが行われる。

あの豪華列車セブンスターがこの田舎駅に停車するのです!

この近くにある滝が観光客の注目を浴び、なんとその滝は線路からしか見えないのです。


「奏ねえちゃーん、セブンスターいつ来るの?」


学校帰りの子どもたちがやって来た。


「よくぞ聞いてくれました!春休み第一日目、午後一時です。しかも!セブンスター運転手の制服を着て写真撮影ができまーす」

「やったぁ!」

「よっしゃあー!」


子どもたちの歓喜の声が山肌に響いた。

いいなぁ、子どもは。とてもキラキラしている。


前居た職場では広報課が全て仕切っていたので、直接関わることはなかった。それを思うと小さな駅も悪くない。

何でもしなければならない大変さもあるけど、こうしてお客様の感動を直に感じることが出来る。


「ねえ奏姉ちゃん、イケメンの旦那さんは来ないの?」

「え?たぶん来ないよ。だって駅員さんじゃないもん」

「えー、うちのお姉ちゃんが警備で来るって言ってたのに」

「そうなの?警備・・・なくはないけど、お知らせもらってないよ」

「そっかぁ。でも、セブンスター楽しみ」


そう言って無邪気に手を振りながら帰っていった。

亮太は相変わらず人気者だ。




* * *



午後6時、駅の仕事を終え帰宅すると直ぐに亮太も帰ってきた。

こっちでは制服で勤務する為、出勤退勤時は私服だ。


「お帰り」

「ただいま」


そう言い終わると亮太が後ろから抱き着いてきた。この頃の亮太はこうやって甘えて来る。もちろん嫌じゃない。


「亮太、ご飯作れないんだけど」

「いいよ別に。代わりに子ども作ろうぜ」

「・・・発情期?」

「喜べよ。盛らなくなったら終わりだぞ」

「エロ警察官」

「煩せぇ」


夕飯の準備を放棄する形で、イケメン改めエロ警察官に寝室に連れこまれてしまった。

朝飯前ならぬ夕飯前ってやつだ。若い・・・。


私はリビングのソファーに転がりながら、亮太に夕飯の指示を出している。私は亮太がキッチンに立つ姿が好きだ。

背が高く、細身に見えて中身はスゴイ彼の背中は、本当に頼りがいがある。口が悪いけど、心は優しいんだよ。



「ねえ亮太。春休みの駅のイベントなんだけどさぁ」

「ん?ああ、一日駅長だっけなんだっけ?」

「セブンスターが来るやつね」

「ああ、そうそれ」

「小学生から言われたの。亮太は来ないのかって」

「俺!?なんで俺が」

「警察官だから警備で来るはずだって、その子のお姉ちゃんが妄想に耽ってるみたい。亮太、モテモテだね」

「なるほどな。ってか奏!まさか中学生にやきもち焼いてんの?」

「ゼンゼン、ヤイテマセン」


口の端をクイっと上げた得意げな笑み!

腹立つなぁ。


「まだ何も聞いてねえな」

「だよね」



この大きな一軒家に二人で住む。お父さんが建てたドリームハウスはおばあちゃんに守られ、今私達か引き継いだ。

意外だったのは、亮太がマメだった事だ。

何となく俺様で面倒くさがりだと思っていたのは間違いだった。



「今度の休みは庭の草むしりと、菜園に肥料撒かないとだ。土をちゃんとしとかないと、何植えてもダメだって」

「亮太って土いじり好きだったんだね」

「そうみたいだな」


巡回で農協とか銀行を回る亮太は、あちこちで知識を増やしている。

まさに職権活用しているのだ。

乱用と言うと叱られるので、心で思うだけにする。



何だか亮太が活き活きしている!

田舎に越してきて正解だったね。


「なに、ニヤけてんだよ」

「ん?ふふっ。亮太、活き活きしてるなって思って」

「俺、田舎が合ってるみたいだ。なんか(みな)る感じたし」

「良かったね」

「この調子だと親になるのも近いな」

「誰が」

「俺たちに決まってるだろ?さっきだって」

「コボッ、コボッ。な、なによ。もうっ」



あはははと笑う亮太は、本当に眩しかった。

何となく、お腹の奥にポコリと何かが宿ったような?

そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ