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二人で新しい家庭を築こう

おばあちゃんの四十九日から一ヶ月後。

私たちは入籍をした。


私、森川奏は・・・森川奏のままだ。あれ?ふふふっ。

伏見亮太が森川亮太になりました。


亮太は親戚とも絶縁状態だったので、苗字が変わることになんの躊躇いもないそうだ。

それよりも本当におばあちゃんの孫になりたくて婿入りをした。


「おばあちゃんなの?私じゃないんだ…複雑」

「悪いね。ってかそんな事でいちいち落ち込むなよ」

「別に落ち込んでなんか」

「へぇ。奏の事だからてっきりあねさん女房な上に、婿を取ったって思われるのが嫌なのかと思ったんだけど」

「むっ!」


それ!言われるまで気付かなかったよ〜。


「私はそんな古臭い考え方で落ち込んだりしない」

「ふぅん」




* * *



こんな感じで半年が過ぎた。


「辞令っ!?…私に?」

「森川さんっ、ついに異動になっちゃったんですね。寂しいよ」

「結城ちゃん!寂しがってもらえて嬉しいんだけと、急すぎ!!ってか、私っ、新婚なんですけどーー!」


とうとう私にも異動の辞令が下りてしまった。いつかは来ると思っていたけど、何でこのタイミングなの?

驚きすぎて異動先を確認していなかった。何処だっけ?


「・・・え?え、え、嘘っ!」

(私の実家がある駅だった。確か無人になるとかならないとか)


住むところはある。

仕事も幸い今までやっていた駅員、しかも夜勤なし。

でも、亮太がいない。


出来れば仕事は続けたい。でも、亮太とは離れたくない。

どうしよう。


私はそんな答えの出ない事に堂々巡りをしながら、家路についた。



「どうしよう。うっ、はぁ。決心がつかないよ」


ー ガチャ… 


「ただい・・・おい!」

「わぁっ!おか、おかえり」

「電気ぐらいつけろよ。出たかと思っちゃったし」

「なによ、失礼」

「ん?どうした?」


私の様子がおかしいのを亮太は察知したらしい。

電気をを点けてから私の隣に座って、顔を覗き込んできた。

相変わらず口は悪いけど、心を察することには長けている。


「亮太と離れたくない」

「ん?一緒に居るだろ。なんだよ、どうした」


私は勢いに任せて亮太にガバッと抱きついた。亮太の胸に顔を押し付けると、私の大好きな匂いがする。

(いい匂いがするなんて絶対に言わない。変態だなって言われるもん)


「誰が変態だって?」

「ちょ、そこだけ拾わないで!ってか読まないで!」

「で、どうした」


亮太は真剣な表情で私の頬を撫でながら、その先の話を待っている。


「異動になったの」

「何処に?」

「私の実家の最寄駅で駅員の仕事」

「よかったじゃん」

「よくないよ!!私たち新婚だよ?もう亮太とは離れたくないのに、別居婚だなんて」


私はすっかり亮太に絆されてしまったのか、感情表現が素直になってしまった。

亮太と離れることが辛くて、それを思うと泣けてきた。

亮太はそんな私の背中をポンポンとあやすように叩くと、ぐっと引き寄せた。


「奏はいつからそんな俺無しじゃダメ人間になったんだ?」

「そんなの分かんないよっ!」

「じゃあさ、仕方がないからついて行ってやるよ」

「え、何言ってんの。亮太、本気で言っているの?ついて行くって...あんな田舎に仕事なんて」

「ごめん!奏に黙って俺、これっ!」


亮太は一枚の封筒を私の目の前に突き出して来た。

そこには森川亮太殿と書かれてあって、よく見ると県警から亮太に宛てたものだった。


「え?」

「これ読んでくれ」

「私が読んでいいの?」

「奏は俺の嫁さんだから」


-----------------------------------------

森川亮太殿


平成28年○月1日付にて、現行所属部署から○○県□□郡**警察署へ異動を命ずる。

この日をもって○○県警の配下とする。

新任地でも活躍を期待します。

-----------------------------------------


亮太の異動辞令書だった。


「えぇっ!亮太!!これっ」

「ずっと黙っててごめん。実はばあちゃんが死んでから、異動希望を出してたんだ」

「ここ私の実家の隣町だよ!」

「そう。本当は実家の交番を希望してたんだけどな。でも隣だったら車で15分だろ?今より通勤時間も短くなるし、あの家から通える」

「亮太・・・。いいの?田舎だと大きな事件とか取り扱えないよ?」

「ばーか。事件は小さい方がいいし、無い方がいいだろ」

「でも」

「俺、自分の家庭を築きたいんだ。そしてそれを護りたい。俺の夢、奏が一緒に手伝ってよ」


止まっていた涙がまた、流れた。亮太は苦笑しながらそんな私を優しく抱き寄せた。



こうして私たちは住み慣れた街を引き上げ、私の生まれ育った町に二人で帰って来た。


無人になりかけた駅に新しい駅員さんが来たと喜ばれ、遠のいていたお年寄りや通学の学生さんが戻ってきた。お年寄りはICカードを持つのを嫌がるし、自動券売機が苦手のため窓口で切符を発行している。

その時に世間話をするのが楽しみのようだ。

殆どのお年寄りの行先は隣町の病院でお薬や病気のお話。


亮太は車で15分、隣町の警察署勤務となった。県も変わった為、今までと同じようにはいかないだろう。

それに課は分かれていても、実際はなんでも処理しなければならないらしい。

だけど亮太は生き生きとしていた。交通違反切符も切るし、強盗事件の犯人だって追いかける。

それでも以前のように夜通しで捜査をする機会は無くなった。

とても健康的な生活をしている。


後で知ったのだけれど、この異動は偶然ではなかった、

亮太が手を回して掴んだ計画的辞令。因みに私のも。

(だからあの時、あと半年この生活を続けようって言ったのか)


今でも時々、予兆を示す耳鳴りがある。

でも命を脅かすものは殆どなくなった。駅の階段でつまずくお爺ちゃんを事前に知ったり、霧で列車が遅れる暗示があったたり。その度に、改札で声掛けをするようにしていた。

「新しい駅員さんは気がきくから助かるわ」と言ってもらるのが嬉しい。

単線になっているこの駅ではホームを駆けまわることは無くなった。

平和だ。


「駅員さんの旦那さんカッコいい!」

「ありがとう。帰ったら言っとくね」


中高生から亮太は絶大な人気がある。この間は制服のまま一緒に写真を撮ってとせがまれていた。

田舎でもイケメンは忙しい。




「奏!トマトが出来てるっ!すげえー」

「本当だ。よかったね」


縮小したけど簡単な野菜はおばあちゃんの菜園で作っています。


私達は元気でやっています。




―本編 完―


本編はこのお話で終わりとなります。

後日、その後の二人を後日談として少し書いて完結させます。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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