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ずっと一緒にいて下さい。

四十九日も無事に終わった。

知らない親戚がたくさん来て励ましてくれた。

血縁上は孤独になったわけではないけれど、心から頼ったり甘えることが出来る人はいなかった。


おばあちゃんは森川家先祖の墓に入った。


「一周忌までは特にする事は無いよね」

「奏」

「亮太。いろいろ手伝ってくれてありがとう」

「水臭いこと言うな」


お墓からの帰り道は亮太と肩を並べて歩いて帰った。

この家も月に一度は掃除をして、空気を入れ替えないとダメになる。

菜園、どうしよう。


今日の日まで忙しく過ごしたから気付かなかったけど、これからは残されたこの森川の家をどうするかだ。

お父さんが単身赴任してまで建てた家。

お母さんがこだわってデザインした台所。

おばあちゃんの無農薬栽培で作った野菜たち。

いつまでもご近所さんに甘えるわけにはいかない。


「はぁ」

「どうした。悩みなら言えよ」

「うん。この家の事。お父さんが建てておばあちゃんが守って来たこの家をどう維持したらいいのかなって」


縁側に座ってぼんやりと庭を眺めながら話した。

亮太は少し考えて、私の方を向き直った。


「あのさ、もう少しだけ今の生活をして欲しいんだ。月一、戻ってきて家の手入れして、また仕事に戻ってって」

「しんどくない?」

「長くてもあと半年だから」

「どういう意味?」


亮太はちょっと悪戯じみた笑顔で「今は秘密」と言った。


「えー、秘密はなしっ」

「やめろって!擽ってえしっ」


本気で知りたいとは思っていない。亮太に限って私が悲しむような事はしないと信じているから。

でも、思いっきり秘密って言われたらいい気はしない。



だから、思いっきり擽っている。

両脇に手を差し込んで指を動かす!


「やめっ、やめろってぇぇ」

「伏見警部、弱点あり!」

「奏っ!」

「ひやっ、うわぁー」


しまった、やり過ぎた。忘れていたけれど、私が相手にしているのは若手警察官だ。あっという間に形勢逆転となる。



「ヤダヤダ、ごめんなさい!やー、許してえ」

「何でも言う事聞くか」

「ひっ、聞くっ、きくきくぅ」

「前言撤回なしだかんな」

「うひゃっ、ない、ないー」


そう叫ぶと、私を押し倒した亮太の動きがピタリと止まった。

とても真剣な眼つきだ。不覚にもドキリとした。


「前に、家族になろうって言ったよな」

「うん」

「もういいだろ?」

「え?」

「結婚、しよう。俺の嫁さんになって欲しい。俺、ばあちゃんの本当の孫になりたい」

「りょ、うた。私っ」

「前言撤回は無し、だよな」

「うん。ありがとう、嬉しい」


嬉しくて私は亮太の首に腕を回してしがみついた。

本当は一時たりとも離れたくない。ずっとずっと一緒にいたい。


「こら、泣くな」

「だって」

「俺を奏の婿にしてくれるんだよな?」

「はい、喜んで」

「じゃあ、よっと」

「へ?」


亮太はいきなり私を抱き上げて、奥の部屋に入っていった。

なになに?めちゃめちゃドキドキするんですけど。


トサっと私をソファーに仰向けに下ろし、そのまま亮太は覆い被さってきた。そっと髪を撫でられ、思わず目を瞑る。

すると亮太は頬にキス、瞼にキス、そして額にキスを落とす。


「奏。俺、絶対に幸せにする。二人で幸せになって、そして、いつか生まれる俺たちの子供と幸せになるんだ。一人が二人に、二人が三人四人って増えて、温かい家庭を作ろう」

「うん。失くしたものは新しく作ればいいんだよね」

「ああ」


今度は唇に優しいキスが落ちて来て、次第に深くなる。

私と亮太の舌が絡まってひとつになった。


「亮太…ずっと一緒にいて、ね」

「嫌って言われても離れねえかんな」

「死ぬまで離れないで」

「奏もな」



私たちは互いの肌の温もりを確かめ合いながら、ひとつになった。

驚いたのは亮太自身が、なんの隔たりもなく入ってきた事だ。

でも嬉しかった。

もう離れないと体で約束してくれたみたいで。


だって、もう家族になるんだもの。


「奏。俺、すげえ幸せなんだ」

「うん、私も」


ぎゅっと抱きしめ合って、幸せを噛み締めた。

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