好きが少しづつ愛に変わる
遅くなるから寝てていいと言われたけど、私は明日休みだから待てるだけ待ってみようと思う。
ご飯も食べるか分からないけど、作ってみた。
食べなくても明日のお昼にすればいいし。
いつの間にか慣れ親しんだ我が家になっていた。
そして、いつの間にか亮太はかけがえのない存在になっていた。
「最初は仏頂面だったのに、今は怒ったり笑ったり、拗ねたり照れたり忙しくなっちゃってさ」
時計はもう10時を回った。
私の事を探して仕事放っぽりだしてたんだよね?
悪いことしたなぁ。
やばい、めちゃくちゃ亮太が愛おしく思えてきた。
ー ガチャ…、パタン
帰ってきた!
「亮太、お帰りっ」
「うおっ。た、ただいま」
思わず走って玄関まで出迎えてしまった。これしたの初めてかもしれない。だって、亮太が靴脱ぎかけて固まってるから。
「思ったより早かったね。ご飯は?食べたの?それとも先にシャワー浴びる?もう、寝ちゃう?」
調子に乗って、ぽいことを言ってみた。
「っ。あ、飯食うわ」
「うん!じゃあ温めるから着替えてきて」
「お、おう」
ふふふっ、動揺してる。可愛い!
真希さんに感化されちゃったのかな。自分たちで新しい家族を作るってすごくいいよね。
キッチンでおかずをレンジで温めている間に、スープをお鍋で温め直した。ご飯はおかずの後にチンしよう。レタスがあったからトマト切ってサラダにしようかな。
「奏っ」
「うわぁっー」
亮太が後ろから抱きついて来て、驚いてトマトかコトンとシンクに落ちてしまった。
文句の一つでも言ってやろうと口を開いたら、お腹のところでぎゅってされたから言えなかった。
「どうしたの?」
「なんか俺、すげぇ幸せかもしれない」
「え?何その、かもしれないって」
「帰ってきたら、お帰りって言ってくれる人がいて、帰ってこないと心配する人がいる。俺、こんなの初めてだ。施設にいた頃はそんな風には思わなかった。早く独り立ちしたくて仕方がなかったから」
「そっか」
私は話を聞きながら、落ちたトマトを拾い洗い直した。
包丁で真っ赤に熟れたトマトをタンタンと八等分に切って、レタスの端に並べた。その間も亮太は私から離れない。
まるで小さな子供が母親に甘えているみたいだ。
そうか、亮太はそういう事もして来なかったんだもんね。
ー ピーッとレンジが鳴った。
「亮太?次、ご飯を温めるけど…いい?」
「ああ」
ちょ、そのまま?亮太が背中にくっついたまま私はレンジの前を往復した。
「えっと、もう準備終わったけど」
「うん…」
「亮太?」
くるりと亮太の方を向き直って、その顔を見上げた。
プイッと顔を逸らすんだから本当に子供みたい。
「もうっ。仕方がないなぁ」
正面から私は力いっぱいギューッって抱きついた。
何処にも行かないよ。
私は亮太と生きていくって決めたから。
不思議な力も面倒な時があるけど、亮太となら平気。
ずっと一緒にいるから。
伝われ、伝われって思って亮太の背中を擦った。
「俺、ガキじゃねえし」
「あ、怒った」
「怒ってないし」
不貞腐れた亮太の顔を見ていたら、勝手に頬が緩んでいく。
そんな顔を見られた日には何て言われるか分からない。だけど、緩む頬は止められない。
「奏」
「ふぁい(げ、変な返事をしてしまったし)」
「食べたい」
「ああ、ごめん。折角温めたのに冷えちゃうよね」
「違うよ」
「え?」
亮太はとても真面目た顔でもう一度「違う」と言って、私の肩に顔を埋めてきた。
何が違うのだろうか。
「奏、おまえを喰いたい」
「っー!」
耳元で熱い息を吐きながら、少し掠れた声で囁かれた。恥ずかしいくらいに体がピクンと反応する。
急にドキドキと心臓が煩く鳴る。
「え、あ、と。ご飯食べてからの方が…、あと、お風呂もうっ」
「ぷっ」
亮太が首筋を掠めるようにして顔を上げた。
笑ってるー!こいつ、からかったな!
「もうっ、イイ!」
肩をゆらしながら亮太は笑い、「いただきます」と食べ始めた。
相変わらずの食べっぷりで本当に気持ちがいい。
「まだ、育ちそうだね」
「あ?」
「何でもない」
亮太には敵わない。