反省、誘惑。そして誤解
亮太視点です。
はっ?なんでだ・・・。俺、外さなかったのか?
疲労困憊で、不覚にも奏に抱きついたまま寝てしまったのは覚えている。けどその前はどうだったか。
俺、外したよな?
ジャリッ。
なんでまだ繋がってんの?
ふと横を見ると、気持ち良さそうに奏が眠っている。
真っ直ぐに家に帰らず公園でぼんやり過ごすとか、職をなくしたお父さんみたいだったぞ。
「俺がそうさせちゃったんだよな」
「ん・・・」
「くくっ。相変わらず眠りが深くて羨ましいよ」
やべえ、俺、仕事中だった。職務放棄して奏を探して、挙句に手錠で縛って閉じ込めたなんて知れたら…首だな。
「はぁぁ」
俺は今、絶賛反省中だ。
猛烈に後悔している。
奏に弱みを握られた。
終わったぁ・・・・・・。
『私の彼こういうプレイが好きなのって、言っちゃうからね』
うわぁぁっ!拘束プレイとか、変態だろー。
「んふふっ。亮太、何やってるの」
「うわっ!か、奏っ」
「何それ、めちゃくちゃ焦ってる。ふふっ、面白い」
「ぅ、ってかさ!コレ、俺外さなかったか?」
ジャリッと音を立てる俺の仕事道具。とは言えこれを嵌めたのは犯人じゃなく奏が初めてだ。
手を上げて手錠を指差したら、奏がぽっと頬を赤く染めた。
えぇっ!なんだよその反応。
まさか俺、コレ繋いだままやっちまったとか!?
「これね、また嵌めたの」
「・・・・は?」
「亮太が眠っちゃってさ、ちょっと寂しくて…」
自分で嵌めたのって、俺と離れたくなかったから?ちょっと寂しくてって、おいっ!奏ってこんなキャラだったのか!?
可愛いすぎるんだけど!
「なあ、そんなに俺とくっ付いてたかったのか」
「うん。だって、亮太、モテるんだもん」
「モテねえし」
「亮ちゃんって呼ばれてたし」
「いや、だってそれはっ」
「私の知らない亮太がいるって思うと、胸が苦しくて」
苦しいって!?
これはもう、アレだろ。俺が慰めてやらないと。
「それで俺が逃げないようにまた、手錠かけたんだ」
「・・・うん」
「っ、おまっ」
「えっ!や、わっ」
俺は我慢できなくなって、起きた奏を押し倒した。
こいつ、普段はツンツン捻くれてて、ああ言えばこう言う女なのに。
狡いだろ?急にデレやがってさ!
「奏。俺おまえから離れたりしないって。家に帰って来れない日もあるけど、俺絶対に帰ってくるって言っただろ?」
「ん、そうだけど。あん、ちょ、ちょっとそれ、きゃん」
首に顔を埋めて、そこでわざと唇が触れるか触れないかの位置で喋ってやった。奏は擽ったがりで、敏感なんだよ。
それ、この間知ったんだけどな。
「なんだよ。嫌がんなって」
「ひぃやっ!…っあ」
「おい、かーなーでー」
「や、今、舐めたでしょ」
「逃げても駄目だぞ。みてみろ、ほら」
ー ジャリ…
手錠で繋がってるから、逃げられないんだよ。
「アレだな。奏の方がこういうプレイが好きなんだ。そうだろ」
「えっ、まさかっ。私そんな変ったっ、ああん!もうっ」
「ん?」
顔を上げて奏の顔を見た。
(ゴクッ、思わず生唾飲んじゃったし。すげぇ色っぽい顔してんだよ)
じっと顔を見ていたら、ジタバタ暴れていた奏が大人しくなった。
ちょっと潤んだ瞳で俺を見ている。
そして、奏が乾いた唇をペロッと舐めたんだ!
それって、誘ってるだろ!!
「おい。27歳、若手警察官を舐めてんの?」
「え?」
「市民の味方警察官の忍耐を試してるだろ」
「試してないよ」
「試してないんだな」
「え、あ、はい」
「じゃあ、遠慮なくいただく」
「え!へ?え?」
もうこれ以上は言わせない。俺は奏の唇を自分の唇で塞いだ。
「んふっ」突然の攻撃に声が漏れる。
ジャリ…手を重ねて絡めて、強く握ってその柔らかな唇を貪った。
やべぇ。止められないかもしれない。
警察官とは言え所詮ただの男。特に奏の前では単なる彼氏だぞ。
止めなくてもいいんじゃないのか?
「ん、ん」
俺が少しだけ唇を離すと、酸素を求めて奏が口を開けた。それを黙って見過ごすほど、間抜けじゃねえんだな。
「は、んんー!りょ、うた…ぁ」
「ごめん、止めらんない」
舌を滑り込ませて、奏の温かい咥内を暴れた。奏も観念したのか、俺の首に腕を回してきた。
ジャリ…
「そっちの手は動かすなって」
「んっ」
奏が応えるように舌を絡めてくると、背中からゾクゾクと快感が走った。夢中になっていた。
あー、俺のが溺れてんじゃん。カッコ悪りぃ。
シャツの上から奏の胸に手をあて、その感触を確かめた。
「りょうたぁ」
グッ、ちょ、そんな甘えた声で呼ぶなって。
腰にクルっ。
「奏、煽るなって」
「違っ、煽ってない。んっ」
奏の甘い声が脳を刺激している。脳の何処かで理性というやつが、その辺にしておけって言っている。
「ふあっ、りょうたぁ」
ー ブツンッ、 ジャリ…
切れた。俺の理性を繋ぐ紐が儚くもその声に引き千切られた。
「奏っ!」
ー ピーンポーン♬
「・・・」
ー ピーンポーン♬
「亮太、誰か来たよ?」
「いいって、放っておけばいい」
「あんっ」
ー ピーンポーン♬ ピーンポーン♬
「亮太っ!」
「ちっ!ったく、誰だよ!!」
せっかく今、いい感じでっ。萎えることしやがって。
取り敢えず玄関に向かった。勿論、繋がってるから奏も一緒に。
モニターを見たらエントランスは越えて、もうドアの向こうだという事が分かった。
誰だよ勝手に入りやがって。
「奏、外すから腕上げて」
「うん」
ー ピーンポーン♬ピーンポーン♬ピーンポーン♬
「あぁうるせー!なんだよ!」
外す時間も貰えないのかと苛立って、ドアを開けた。
「・・・」
「亮ちゃん!彼女さん居る?亮ちゃんの彼女の森川さん!」
「は?」
真希だった。そして、いきなり奏はいるかって。
後ろで奏が「はい、此処にいますけど」と手を上げた。しかも!手錠で繋がってる方の手を!
ージャリ… 俺の手も上がった。
「りょ、亮ちゃん!酷い!何してるの!!!」
「違うんだって。これには訳が」
「嫌ぁぁっー」
真希の悲鳴が玄関で響いた。